第五十四話 迷宮入り(その三)
二日目はちょっとしたチーム対抗イベント。
指定された植物などを集めて、その量を競う。
これはテントの見張りも無しで全員参加。
班の人数によって必要数は異なり、なるべく公平になるように計らわれている。
このイベント、遭難防止のため最低でも二人一組で行動しなければならない。
ジャンネとアラシュはそれぞれ、私とミコルルのどちらかと組めるかと思っているようだ。
しかし私もミコルルも、ここはジャンケンで決めることを主張した。
正直気を遣うのも疲れてきたのだ。
当然二人は渋い顔をしたが。
でもそんなの関係ねえ!
私たちがキャンプ楽しめないんじゃい!
って言葉にはしないけど、ミコルルと二人して圧をかけたら、ビクッとなって受け入れた。
もちろんグーパージャンケンは出来レース。
私もミコルルも一緒の手を出すパターンは決めてある。
一手目で決まったので必要無かったが。
「げっ」
「うわっ」
目論見どおりペアになり、二人は嫌そうな声を出した。
ギロリ
私たちが睨むとシュンとしている。
うん。
ケンカ当初の狂犬みたいな雰囲気も無いし、もう事態は収束に向かっているのではないだろうか。
会話はまだできないみたいだが、とりあえず二人は一緒の方向へ探索に向かった。
「はぁ。最初からこうすれば良かったのかな?」
「どうでしょう。最初はちょっと火種があれば爆発しそうな空気でしたし。怒りはそう長くは続かないってことで、良いタイミングだったのではないですか」
怒りゲージMAXの時に斬って斬って斬りまくる。
あれも冷めてしまう時はあっさりしたものだったか。
さて、私たちも薬草採取に行くか。
どこかの世界では初級冒険者の代表的クエストである薬草採取。
こちらの世界でも薬草採取はある。
が、別に常駐クエストにはなってない。
栽培できるし。
冒険者に頼まなくても取って来られる人いるし。
こちらの世界での冒険者の収入源と言えば、魔物狩りか、護衛か、賞金首や盗賊討伐か、はたまた迷宮探索と言ったところである。
薬草をサンタさんのように背負い袋一杯にギルドに持って来た人など見たことない。
もしかすると私が知らないだけで、今も何処かでチート主人公が薬草超採取してたりするかもしれないが。
してたとしても格ゲーには関係ないもんね。
もし世の中に魔王がいるならこっそり駆除しといてください。
ただし格ゲー的技能に造詣が深い魔王だったら私に紹介していただきたい。
採るべき薬草は授業をきちんと受けていれば分かる物だ。
もし分からなければ、先生のテントに行って図鑑を見せてもらわなければならない。
ジャンネは大丈夫かって?
大丈夫なのだ。
伊達に一年山を駆け回ってない。
今頃張り切って草むしりに励んでいるに違いない。
私とミコルルも二人に負けじと、クラスメイトが集まる所よりも少し遠くで採取をした。
満足できる程度に採取をし終えた頃、テントに戻って二人を待った。
四人揃えば先生に提出しに行こう。
「あれ? ジャンネは?」
戻って来たのはアラシュ一人だった。
「え〜、戻ってないの〜?」
まるで他人事だ。
私はカチンと来た。
「何でペアを組んでるか、説明を受けたでしょ? 何かあった時に助け合うためだよ」
「ちょっと、本気で怒んないでよ〜。そんな遠く行ってないし。どうせ私より多く採って来ようって張り切ってるだけに決まってるよ〜。すぐ戻って来るって」
「どこまで行ったんですか? 探しに行きましょう」
「ミコルルまでどうしたの〜? 私たちが山で遭難するわけないじゃん」
「もう時間は迫っています。時間内に戻らなければ集めた物も無効になるとはジャンネもよく理解しているはず。それなのにまだ戻らない。ジャンネのことだから熱中し過ぎて時間に気づいてない、と言うこともあり得なくはないでしょう。でも私とミサは行ってきます」
不承不承の態度でアラシュはついて来た。
それを咎める暇は無い。
ジャンネの気配がせず、それが何とも嫌な予感を掻き立てるからだ。
「そうですか……分かりました。私も向かいます。アラシュさん、あなたたちが探索していた場所に案内してください」
先生は他の生徒に待機を申し渡すと、私たちと共にジャンネの捜索に出た。
アラシュに案内してもらった所に来たが、やはりジャンネの気配は無い。
「まさか、この崖に……」
先生は険しい顔でパックリと割れた地面を覗く。
気配を潜めて隠れているのでなければ、この崖に落ちたのではないかと思うのが妥当な線だ。
「これだけ深いと、飛行可能な人たちを集めて捜索すべきでしょうね」
「もしかすると崖下で倒れているのかも」
「私、飛べるから! 探して来ます!」
ああ、モルガノ先生とミコルルが不安を煽るから、アラシュが一人飛び下りてしまったよ。
「先生、大丈夫です。アラシュは短時間飛行ならできますし、これぐらいの崖なら地面に下りればなんとかなりますから」
「ミサさんから言われると余計心配になるんですよね」
ボソッと言うけど聞こえてますから!
そう言うの傷つくんですよ!
「アラシュさんまで帰れなくなってはお手上げです。とりあえずデタラメに探して迷子にならないようにアラシュさんを確保しましょう」
「私もミサも徐行落下は可能です。先生、一緒に下りましょう」
ジャンネの捜索からアラシュの確保に目的がすり変わってしまった。
フワーッと崖を落下する二人に続けて私も下りて行く。
アラシュ発見。
彼女も同じように徐行落下していた。
「アラシュ」
魔法を弱めて落下速度を上げて彼女と並んで、また落下速度を緩めた。
アラシュは泣きそうな顔をしている。
「見つからなかったら、どうしよう」
「……」
「何か言ってよ」
「いる」
「え?」
ジャンネの気配だ。
激しく戦っている。
「こっち!」
私は落下速度を再び上げ、崖底へと猛スピードで向かった。
違う、行き過ぎたか。
ジャンネの気配はもう少し上にある。
靄がかかったように感知しにくいのが気になるが。
「アラシュ! その辺り!」
ちょうどアラシュが通りかかる地点だった。
呼びかけた彼女の反応は早い。
何かを見つけたようだが、何も言わず急角度で方向を変え、岩場に姿を消した。
「モルガノ先生! ミコルル! あそこです!」
「何か見つけたのですね!」
「了解です!」
アラシュの気配まで靄がかかったようになった。
何が起きているのか。
三人でアラシュが消えた場所へと急行した。
「ジャンネ! アラシュ!」
そこにあったのは崖に空いた大きな空洞。
中では二人が戦っている。
誰だ?
人間?
こんな所に?
疑問はあるが敵は二人を相手にして互角以上に渡り合っている。
私たちは二人の名を叫ぶと同時に空洞に入ろうとした。
「わっ!?」
「きゃっ!」
「これは!!」
空洞に足を踏み入れようとした瞬間、体が吸い込まれるように勝手に中へと引き寄せられた。
何だここは?
外から見たらただの空洞だったのに、今私たちがいるのは教場と同じぐらいの広さの空間じゃないか。
「め、迷宮……どうして、こんな場所に……」
モルガノ先生は何か知っているようだ。
しかし今はジャンネとアラシュの助太刀が最優先。
この場から見ればはっきり分かる。
あれは人型の魔物だ。
全身が心臓のように拍動を繰り返し、体のどこかに不規則に穴が空く。
その不気味な見た目もそうだが、何よりもあれから放たれる気配が、あれを魔物と確信させる。
そこいらの魔物からも感じる、ひと昔前のトラックの排ガスのような体に悪そうな空気が。
何倍も濃くした感じで。
「はあっ!」
魔物が腕を振るって二人を弾き飛ばした隙に、私はスライディングで魔物の脚を狙った。
ところが魔物はそれをしゃがみガードして……後方宙返りをしながら、蹴り、を……
「ミサーッ!!」




