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メゾン格ゲー  作者: みおま ウス
第二章 学園格闘者発掘編
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第五十二話 迷宮入り(その一)

 やばい。


 何がやばいって、ジャンネとアラシュだ。

 ここ三日間まともに口もきいていない。


「こんなに険悪になるのは、一年生の頃から思い返しても初めてです」


 ミコルルも困っている。



「そろそろ仲直りしたら?」

「絶、対、やだね!」


 ジャンネは土下座できない人みたいになってるし。



「少しだけでも話してみたらどうですか?」

「やだよ! ジャンネが過去に戻ってやり直して、それから私に謝るなら話してあげてもいいけどね!」


 アラシュはいつもののんびりした口調は何処へやら。

 タイムリープを要求してくる辺り、絶対許す気はないと言ってるも同然だし。



 私とミコルルはうんざりして首を振り肩を竦めた。


 きっかけは些細なことだ――








「そういや食堂の姉ちゃんの恋バナってよぉ」

「しっ、それは内緒の話でしょ〜。ほんとジャンネはデリカシー無いんだから〜。まっ、恋愛なんて縁が無いからしょうがないか」


 ピキッ、となるジャンネ。


 思えばあの時この時点で止めとけば良かったんだ。

 いつもの戯れ合いが始まったと思わずに。


「あ? オマエだってアタシのことそんな風に言えねえだろ。ちんちくりんでペチャパイのくせしてよお」

「は? 栄養が頭に行ってない炎細胞生物が何言ってんの。て言うかアンタの胸なんてただの脂肪じゃん。全体的に見ればデブだよ。D・E・B・U。分かる?」



 私もミコルルも、まさかここまで言い合いが続くと思ってなくて、この時には既に介入し難い雰囲気になっていた。

「デブ、だと……? よくも……このアタシに向かって…………このチビらしいペチャがぁっ!!」

「チビとペチャしか言えないわけっ!? この牛! 豚! ミノタウロス! オーク!」


 ミノタウロスとオークの子たちが嫌そうな顔をした。

 気まずい。


 あ!


 私たちがその子たちに気を取られた瞬間、ジャンネとアラシュは互いに飛びかかり取っ組み合いのケンカを始めてしまった。




 アラシュがジャンネのデカPをボインと叩くと、ジャンネはアラシュを上から押さえつけグググとチビっこくする。

 その様は、巻き起こる煙埃から時々腕を振り上げた二人が姿を現す、あのケンカの表現そのものだった。



「ゼェゼェ」

「ハァハァ」



「ハァハァ……」


 余談だがこの時ユリキャットちゃんが物陰からジャンネたちの絡みを見ていた。



 一旦離れた二人は魔力を高め始めた。


 そのタイミングで私はジャンネを、ミコルルはアラシュを羽交い締めにし、何とか二人を隔離することに成功したのだった。




 それからと言うと、ジャンネとアラシュは顔も合わせず、どちらかが私かミコルルにくっついている。

 同じパーティーなのだから困ることも多いのだが、それを言っても聞く耳持たない。

 私とミコルルが話をしている時など、ジャンネは腕を組んで左を、アラシュは頬杖を突き右を向く始末だ。




 そんな折、モルガノ先生から非情なお達しが。


「以前告知した山籠もり実習の準備はできていますか? 今回は魔物との戦闘がありますから、以前の遠征実習のような旅行気分では大怪我しますからね」


 そうだ……キャンプがあったんだよ。

 私たちは頭を抱えた。


「それと、今回の実習は成績にも影響します。魔物討伐だけでなくチームワークも評価対象ですから、皆さんしっかり連携の確認をするんですよ」


 何てこった!

 このままキャンプに突入したら終わりだ。

 何も始まらずに終わってしまう。


「……」

「……」


 ジャンネもアラシュもミコルルの方をチラリと見た。

 ミコルルがトップクラスの成績だから、パーティーメンバーとしては押し上げたいところではあるのだろう。

 だが、同じ方に向けた目がバッティングすると、二人はバッ、と顔を背けフン、と鼻を鳴らした。


 ミコルルごめん、こりゃ彼女たちの分まで私たちが頑張らないとダメみたいだわ。








「簡単っすよ」


 何か仲直りの良い方法は無いか。

 助言を求める私とミコルルに、後輩は事もなげに言った。


 私たちはどんな画期的な解決策が飛び出すのかと後輩に耳を寄せた。


「決闘すればいいんす。雨降って地固まる。中途半端な小雨だからいけないんす。ドバッと降らせてカチンと固めてしまうんすよ」


 ばかぁ。

 確かに豪雨とは言えないかもしれないけど、決して小雨と言えないし、水害級に長引いてるんです〜。


 って言う私たちの心の声に気づかない後輩は得意げに続ける。


「姉様とミコルっち先輩もやらかしたじゃないすか。決闘」


 また懐かしい話を。

 ミコルルが顔を赤くしてるじゃないの。

 やめなさいよ。


「あんな感じでお互い拳で語り合えば、何を争ってたかす〜ぐ忘れちゃうっすから」


 おい、今気づいたけど後ろでイリオが複雑な顔して立ってるじゃん。

 彼が両手に持ってるのは後輩よ、君の鞄ではないのかね?

 君と彼も決闘したと私は記憶しているが、彼の姿はまるで荷物持ちそのものではないか。

 君とイリオのように、ジャンネとアラシュが変な固まり方をしたら我々は困ってしまうのだが。


「ありがとうございます。参考にさせていただきますね」


 ミコルルは大人だ。


 私も彼女を見習って礼を言った。

 ダメな方の参考とさせていただきます、と心中で呟いて。




 こうなったらあそこへ行くしかない。








 たのもー。


「ミサ、ちゃんとノックして入るんですよ」


 ちぇっ。

 せっかく我らがモルガノ先生の貴重なグータラポーズが拝めるチャンスだったのに。



 コンコン


 応答が無い。


 二回目のノックをしようか、はたまた戸を開けようか迷っていたところ


「はいどうぞ」


 中からモルガノ先生の声で返事があった。


「失礼します」


 私たちが中に入ると、先生は膝を揃えてティーカップを口にしていた。

 優雅なティータイムを過ごしていました、と言う感じだ。

 口の周りにお菓子のカスやヨダレの跡は付いていない。


 私はがっかりした気持ちを抱いたが、それを外には出さず礼をした。


「授業時間外に申し訳ありません。先生にご相談があるのですが」

「もしかしてジャンネさんとアラシュさんのことですか?」


 おや、授業中ではそんなに、周りに分かるほど険悪な雰囲気は出してなかった……と思うけどな。


「もしかして誰かから苦情でも入りましたか?」


 ミコルルが違う心配をする。


「いいえ。今のところはそのような苦情は入っていません。一年生の頃から見ているんで大体分かるんですよ。最近の彼女たちの、ギクシャクした感じは。……私にも経験のあることですしね」


 終わり際は聞きづらかったが、先生はよく見てらっしゃったようだ。

 そういうものか。

 私も昔に比べれば他人の心情を読んだり理解できるようになっている……とは思うのだが、先生はさすが先生である。


「確かに仲直りするのに周囲のフォローがあった方が良い時もあるでしょう。長引いて卒業してしまっては当人たちの後悔にも繋がりかねません。……ただ、あまり焦るものでもないですよ」


 消極的にも聞こえる言葉だが、先生の眼差しは今まで見たこと無いぐらい優しい。


「心配しなくてもあの二人なら実習でケンカしたりしませんよ。それに合わせて無理に仲直りさせようとしないことです。特にミサさん、妙なことをして混乱を起こさないように。くれぐれも」


 なぜ私が!?


 途中までうんうんと思って聞いていたのに。

 突然向けられた鋭い言葉に、私は深々と心を抉られた。

 まるで私が何度も混乱を起こし、モルガノ先生を困らせたみたいじゃないか。


 ミコルル、先生に何か言って差し上げて。


 さっ、とミコルルは私から目を逸らした。


 ダメだ。

 彼女は教師と言う権威に屈したのだ。


 そして敗北者ミコルルは、私の袖を引いて部屋を出た。


「ありがとうございました」


 私も納得できぬ部分はあるものの、先生がジャンネとアラシュをちゃんと見てくれてることが分かったので、安心したことは確かだ。


 渋々頭を下げてその場を去った。

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