第四十八話 ヤバい新入生(後編)
「オラオラオラオラー!」
「ふむふむ。闇属性の魔法と、これは水属性、土属性で……自爆技っすか」
「ちっ、もう見抜いてんのかよ……だが逃がさねえぞ! このまま押し切ってやる!」
ふうん、両手のラッシュにしか見えないけど?
ミコルルさん、解説よろ。
「どうやらあれは自分の生命力を犠牲にすることで、相手の生命力を奪う技のようです。あの彼の様子からすると、防御の上からでもダメージを与えられるのでしょうね」
「あまり効いてる感じしないけどね」
「キャミィちゃんが相手じゃ〜、ちょっと分が悪いかも〜」
確かにツッパリ君の方が息が上がってきている。
「アンタ、この動き……もしかして俺に稽古を?」
ふむ、気づいたか。
そのとおり。
途中から後輩はツッパリ君の動きを誘導し、より良い踏み込みが、攻撃ができるように捌いていたのだ。
「まあ、ただ叩きのめすだけじゃあ下級生イジメって言われちゃうっすからね。それに、姉様も期待してると思うっすから」
お、珍しく殊勝なことを。
ツッパリ君は攻撃の手を緩めないまま、フ、と笑顔を見せた。
「さすがここのテッペンてことか。今回は俺の負けだ……なあ先輩、最後に全力で俺にとどめを刺してくれないか?」
「いいんすか?」
「ああ。思い切りやってくれ」
「バ、バカ! それはダメ!」
「やめとくべき!」
お供ズが泡食って止めようとしている。
でも本人の希望だし、いいんじゃない?
ところで後輩の全力ってどんなだろう?
後輩はニヤリと笑った。
「ファファファファイヤー!」
なんだ?
どもっちゃって。
ジャンネがよく使うような赤く光る火球が後輩の右手前に現れ、ゴウンゴウンと収縮と膨張を繰り返す。
「へえ、そこまで熱上げれるのか。すげえじゃん」
ジャンネのあの上から目線の言い方。
あれは「アタシの全力の方がすげえけどな」って自信が裏にあるのだ。
「アアアアイスストーム!」
次は寒々しい青の光を放つ冷気が、後輩の左手前で渦を巻く。
「結構な魔力量を注げるものですね」
ミコルルも負けず嫌いだからね。
でも凡人種が君たちと競えるものではないでしょ。
ところでもしかして次は「ダイアキュー!」ですか?
お邪魔なぷにぷよが降って来るのか?
「ササササンダー!」
轟音と共に緑色と黄色の光が頭の前方に明滅する。
「何か嫌な予感がするんだけど……」
私もだよ、アラシュさん。
「ほんとは黒いおジャマを降らしたいんすけどね」
降らせたかったんだ。
「光だと混ぜても黒くならないんすね。まあ、まだ研究が必要ってことっす」
「お、おい。言ってる意味はよく分からんが、その辺にしとこうな」
「姉様は嫌がると思うっすけど、全力を出せって要望っすから。いいっすよね」
「聞いちゃいない! 逃げろ君たち!」
ヒュウガ先生はマムマムとウルウルを遠ざけ、私たちにも離れるように指示をした。
ツッパリ君は……
「何をしてるんだ! 逃げろと言ってるだろう!!」
その場に立ち尽くしている。
先生の怒号も届いていない、いや、蛇に睨まれた蛙か?
これから訪れる運命を悟り動けないのか。
私も分かった。
後輩はあれらを……
ああっ! もうやりやがったなぁ!!
私はツッパリ君の前に飛び出す。
カッ
三種の魔法を合わせた瞬間、眩い白光が視界を埋め尽くした。
全画面フラッシュだ。
赤青緑の光を混ぜ合わせれば白になるのは必然。
その効果は予想できないまでも、画面真っ白と言えば、格ゲー殺しの大威力魔法。
これは常識だ。
その大魔法に対抗するは、生命力を吸い出した命怒ボールの元となった技。
ヒュウガ先生に禁止を申し渡されていた秘技だ。
「メイドボール!」
それを大魔法に向けて撃ち出すと同時に、高速の命怒ボールで遠くへ押し出す。
「ダサっ! 何すかそれ!?」
うるさい!
大地闘神にショートカット作っていただいたんだよ!
ズドン
体の芯に響く爆音と衝撃、それに一層の強い光が発生した。
退避したミコルルたちが顔前に腕を翳して、光と爆風から身を守る。
やがて強烈な光が消え去り、上から吹きつける暴風が私たちを中心に円状に拡散し終えると、私も後輩も大きく息を吐いた。
「……殺す気か」
「やり過ぎたっす。てへ」
コツン、と後輩の額を小突いてツッパリ君に目を向けた。
ツッパリ君は尻餅を突いて呆然と上を見ている。
木の上の方が鋭利な物で斬られたようにスッパリ無くなっている。
消失した痕跡はお椀型だ。
後輩の魔法が球状だったのか、それとも私の必殺技とぶつかった衝撃波がそういう形だったのかは分からない。
やはり駆け引きなど無くして勝敗が決まってしまうこの大魔法は危険だ。
いずれ封じる手段を見出さねばなるまい。
「おい」
はっ! ヒュウガ先生が怖い顔してらっしゃる!
違うんです!
禁止事項を破ったのは被害を最小限にするため仕方ないことだったんです!
「そうだろう。そのことを責める気は無い。むしろ助かった」
ほっ。
「しかしキャミィ」
「い? ボクっすか?」
「それ以外に誰がいる……まずはこの騒ぎが何だったのか、聞かせてもらおうか」
それから後輩は全力で言い訳しつつ、担任教師からの説教を受けた。
「そう言えば君は魔の二年生となったのに、変わった様子は全くもって無いな」
お供ズの変貌ぶりがツッパリ君に影響を受けたのだと主張する後輩に、先生は苦い表情を浮かべた。
「キャミィはこう言っているが、どうだマムマム、ウルウル?」
「違う」
「一年生なんかに影響受けるはずがない」
お供ズは完全否定。
後輩は首を傾げている。
「え、そうなんすか? じゃあ何で?」
何で、と言われても困ってしまうだろう。
そういう病気なのだから。
「何でって……」
「カッコイイと思ってたし……」
「格好良かったですか?」
誰が、とは指さないけれど、ミコルルは同じようなスタイルの三人に視線を流している。
「分かってる」
「しつこく言われるのはイヤ」
そう言ってお供ズは背を向け走り去ってしまった。
「彼女たちのアレは一過性のものだ。気にすることはない。君は、それが自身に根付いたスタイルならそれでもいいだろう」
ヒュウガ先生はミコルルと後輩に対して、お供ズを追わなくても良いと言い、続いて尻餅突いたままのツッパリ君に手を差し出した。
「だがな、誰彼構わず噛み付くのは愚かだと、よく分かっただろう」
ツッパリ君は先生の手を取った。
「上には逆らうなってことなのか?」
「いいや、違う」
ふ、と先生は微笑んだ。
「上には挑戦すればいい。そして下からは挑戦を受ければいいだろう? よく自分の力を知れば、そう振る舞えるはずだ」
「俺は、ただ適当に色んな奴をぶん殴ってただけだったのか……」
この迷惑者め。
「急がずとも二年生や三年生とも手合わせする機会は巡ってくる。それまで授業を疎かにせず、きっちり基礎を固めたらどうだ」
「確かに……先輩は俺の魔法もすぐ見破ってた。そうだな。俺も勉強してみるか」
ツッパリ君が少し晴れやかな顔になった。
「でもこれでテッペンが見えたわけだ。うっし! こっから這い上がってやる!」
「え? 君もアイドル志望なんすか?」
「あ?」
後輩とツッパリ君が顔を見合わせ、二人の視線は同時にゾンビッシュ君に移された。
「ぼ、僕は正確に伝えましたよ! この学院に君臨する方がいるって!」
「何の?」
「アイドルに決まってるじゃないですか! 彼をアイドルの虜にして不良から足を洗わせるんですよね!? そしてアイドル復活の手駒にするんですよね!!」
後輩は静かに頷いているが、ツッパリ君は意味が分からないと言う顔をしている。
「この先輩がテッペンじゃねえの?」
ツッパリ君は困り顔でヒュウガ先生に尋ねた。
「昨年キャミィはそこのミサに負けているよ。姉妹だがね」
プロレスですけどね。
「へ、へえ。なああんた、あんたは敵わない奴いるのかい?」
「そりゃね」
和尚とかスライメン先輩とか。
「あ、あとデスシックル先生とか怖いかな」
「そうだ。君も学年主任の先生方と学院長は怒らせるなよ。特に三年生学年主任で生徒指導のデスシックル先生。人生に幕を下ろしたくなければな」
だから怖いよ!
なんなの!? この学院、殺人者が紛れ込んでるの!?
こうして新入生のツッパリ君は、迂闊なことをしたらその身がヤバいと知って、やたらとケンカを売ることは控えるようになったのだった。




