第四十七話 ヤバい新入生(中編)
番長希望者一人だけを誘い出したい。
ワラワラとツッパリが集まってしまうと、騒ぎになって先生の目に留まるかもしれないからね。
どうするか計画を練っている時、歯軋りするゾンビッシュ君の姿が目に入った。
ゾンビッシュ君……
アイドルファン……
ツッパリ君に個人的な恨み……
当てにならない友人………………
ニヤリ。
思い立ったが吉日。
私は早速後輩とミコルルに話を持ちかけた。
「なるほど、では明日にでも。私は今からヒュウガ先生に上手くお願いして参りましょう」
「ボクはそのゾンビ先輩にお願いすればいいんすね……個人的に会うって、気は進まないすけど」
よしよし。
明日が楽しみだ。
「ジャンネ、アラシュ。今日はちょっと用事があるから先に行っておいてください」
ミコルルはヒュウガ先生の引率だ。
私はゾンビッシュ君の様子を隠れながら監視する。
ゾンビッシュ君が放課後のツッパリ君を発見。
「おい、番長気取りの一年生」
「はぁん!? んだコラ! ケンカ売ってんなら買うぞ!」
よし、ちょうど取り巻きがいない状態のツッパリ君に接触したぞ。
「お、落ち着きたまえ。君、この学院のテッペンを取るんだろ?」
「それがどうしたガリヒョロ」
「ガリ……! くっ、生意気な一年め!」
「何ブツブツ言ってやがる。やるのかやんねえのか、どっちだ?」
「だ、だから落ち着きたまえ! 君は一年生をシメてイキがっているようだが、本当にこの学院に君臨する人を知らないのだろう?」
「あ? あんたは知ってるような口ぶりじゃねえか」
「当然だ。実はその方から君を呼び出すように頼まれているんだ。ついて来る度胸はあるかい?」
ツッパリ君が思案している。
慎重派だったか?
「いや、罠なら罠でも構わねえ。集団で来ても返り討ちにしてやらあ」
乗っかった!
そしてゾンビッシュ君がツッパリ君をランニングコースに案内し始めた。
グッジョブ、ゾンビッシュ君。
「くく、こんな人気の無い山で罠を張るたぁ、この学院の支配者もセコいこと考えやがる」
考えがセコいとか言われてしまった。
なんかムカつくけど我慢だ。
よし、二人が目的地に到着した。
「あれ? 話題の一年じゃね?」
「本当だ〜。何? 新規参加者〜?」
まだ話を聞いていなかったらしいジャンネとアラシュは、準備運動を中止してツッパリ君に近寄る。
後輩は俯いて口の端を片方だけ上げている。
「どういうつもりだぁ? 女ばっかじゃねえか」
「何だ? 組手の立ち会いをしてほしいとか言うから誰かと思えば……一年生じゃないか」
怪訝な顔で口を開いたツッパリ君の後ろで、ちょうどやって来たヒュウガ先生が嫌そうな声を出した。
ツッパリ君はバッと振り向き驚きを露わにしている。
ヒュウガ先生のことは教師だと知っているようだ。
「おい、俺はてっきりミサとキャミィが組手を行うと思っていたんだが」
先生は、連れ立ってやって来たミコルルに文句を言いたそうにしている。
「いやいや、ボクとこの男子との組手っすよ。下級生だけど、ボク女の子だから……いいっすよね?」
「君が性別を持ち出すか」
先生は凄〜く不満そう。
「組手ってなん」
「組手って何ですか!? キャミィちゃんがそんな! 怪我したらどうすんですか!?」
ツッパリ君の疑問に被せて、ゾンビッシュ君が悲鳴に似た叫びを上げた。
これにはツッパリ君も面食らっている。
「ふ〜ん。何か知らねえけど頑張れよ一年」
「死なないでね〜」
「ちょっと待て、俺はまだ認めてないぞ。そこの一年生も意図せぬことのようじゃないか」
ジャンネとアラシュは見物を決め込んだみたい。
ヒュウガ先生は困っている。
「そうですよ! キャミィちゃんの魅力でメロメロにして、アイドルを復活させる活動家にするじゃないんですか!?」
ゾンビッシュ君は放っておこう。
「おい、さっきから俺がそこの女にやられるみてえに言いやがって……まとめてぶち殺すぞ?」
「よし、君は先生と一緒に戻るか」
トラブルの予感を覚えたらしいヒュウガ先生がツッパリ君の肩に手を置いた。
その手を振り払いツッパリ君はビシッと後輩を指差す。
「先生よぉ、こいつをぶちのめしても俺に文句言わないでくれよ」
「やめなさい。傷を広げることになるぞ」
あらま、この言葉はダメですよ先生。
ほら、ツッパリ君の口元が引きつり体が小刻みに震えてる。
「知らねえからな……!」
ダンッと地面を強く踏み込みツッパリ君が後輩に突進した。
そして……大振りのパンチは空振り。
後輩の姿を見失ってツッパリ君はキョロキョロしている。
「作法がなってないっすねぇ。姉様にぶちのめされるっすよ」
先の相手の言葉を使って、後輩がクスクス笑いながら声を掛けた。
ツッパリ君はバッ、と後ろを振り向いてファイティングポーズを取る。
「ちょこまかと……速さ自慢のネズミか?」
ツッパリ君が吐いたセリフを聞いて、みんなの視線が可哀想なものを見るそれになった。
「先生〜、開始の合図をお願いしていいっすか?」
「すぐ止めるからな。ほら、離れて対面。お互いに、礼! はじめ!」
先生の掛け声がやっつけ感でいっぱいだ。
またツッパリ君の大振りパンチ。
後輩は正面から掌で受け止め、その拳を握り包んだ。
「う、動かねえ!?」
「あれれ? 魔法使いタイプだったんすかねえ。見た目詐欺っすね」
「おい、嬲るような真似はよしなさい」
ヒュウガ先生に注意された後輩は、肩を竦めて前蹴り一発。
ツッパリ君はフワッと柔らかく浮き上がり、着地はズザザッと痛そうな音を立てて転がった。
「おい、ミサの妹ちゃんよぉ、もうやめてやんなよ」
「もういいんじゃないかな〜。これ以上見せられても、ちょっと引いちゃうって言うか〜」
あ〜あ、同情が始まっちゃったよ。
これは戦ってる方もお互い気分良くないよね。
後輩は構えを解いていない、が、ツッパリ君は這いつくばったまま立とうとしない。
「もう終わりすか? 何がしたかったんすか、君は?」
誰も彼もがつまらなさを隠せないでいる。
じわ、とツッパリ君の目に液体が滲みてきた。
「コラァ。根性見せんかーい」
「意地張れ一年〜」
っと。
突然聞こえてきた迫力皆無の掛け声にみんなが反応した。
「あなたたち! どうしてここに」
ミコルルが眉を顰める。
襟を立てた学ランでやって来たのは、マムマムとウルウルだった。
「生意気な一年をシメようかと思ってたら、キャミィが何かやってるから気になって遠くから見てた」
「横取りされた」
「まだそんなことを……」
苦虫を噛み潰したようなミコルルを、二人は気遣う様子も見せない。
「立てー」
「気持ちで負けんなー」
こんな声援で誰がやる気を出すのか……
と思いきや、ツッパリ君は自分の顔を握り拳で殴り始めた。
ガス、ゴス、ドカッ、バキッ
止めた方がいいんだろうか。
やがて手を止め立ち上がった彼の顔は、見事に腫れて涙と鼻水に塗れていた。
「あ〜、痛え……気合いが痛過ぎて泣けてきちまったぜ」
強がりだ。
本人は誤魔化したつもりだろうが、みんな「え〜」って顔してる。
いや、お供ズだけは良く言ったみたいな顔だった。
何なのそのノリ。
「こいつは使いたくなかったが……もう殺す!」
うおおお!
と雄叫びを上げるツッパリ君。
熱い感じになってきた。
だが後輩は冷めてるぞ。
何だこの圧倒的な温度差は!
そして簡単に殺すとか言っちゃダメでしょ。
危ない奴だな君は。
とりあえず魔法全開みたいだ。
ツッパリ君の体に蔓草のような紫の炎が巻き付いていく。
「ここからは俺もアンタも、命の削り合いだ! 行くぜ!」
「なるほど。さっきよりは面白くなりそっすね。相手をしようじゃないっすか」
後輩が口角を上げた。
思いがけずラウンド2、ファイッ! である。




