表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メゾン格ゲー  作者: みおま ウス
第二章 学園格闘者発掘編
69/138

第三十八話 長期休暇(その一)

 卒業式の三日後には一年生二年生の修了式が行われた。


 それから約一月の長期休暇に入る。

 本当はカプルコン寺院に顔を出したいのだが、急いでも往復で一月程かかるので、何かちょっとしたアクシデントに見舞われると、もうタイムオーバーしてしまう。

 まあ元々卒業するまでは帰省を期待されてもいなかったし、あと一年我慢するしかないか。


 さて、一月の過ごし方をどうするか。


 ジャンネもアラシュも、そして割と遠方のミコルルまで帰省である。

 彼女たち三人は、一緒に来るか、と誘ってくれたが断った。

 もちろんユリキャットちゃんがハァハァして誘ってくれたのも断った。


 と言うのも、先約があったからである。




「お待たせ」

「あ、ミサお姉様。全然待ってなんてないですよ。えへへ」


 はにかんだような笑顔の可愛い子はタクララちゃんだ。


「十五分前集合は社会人の常識っすよ!」


 ふてぶてしい笑顔の小憎らしい奴は後輩だ。


 私は休みの間タクララちゃんのお家にお世話になることになったのである。


「でも、本当にうちなんかでいいんですか? 狭いし、妹たちもうるさいですよ?」

「じゃあこの子は置いて行った方がいいかもね」

「ちょ! 何でそういうこと言うっすかね、この姉様は! せっかく数々の誘いを断って姉様について行ってあげようと言うっすのに!」

「じゃあ誘ってくれた男子の所にでも行けば良かったのに」

「酷いっす! あんな野獣のような目をした人たちの所に行ったら、ボクきっと酷い目に遭わされるっす! 妹の貞操が守れなくてもいいんすか!?」


 元はと言えば最初にウルウルとマムマムの誘いを遠慮して断ったアンタが悪いんでしょ。

 その後で後輩の元に何人も男子が、「ぜひ自分の家に!」って誘いに来た。

 それが嫌で、タクララちゃんとお茶してた私に泣きついて来たわけだ。



 ちょうどその時私たちは、お互いの休日の計画を話していたところだった。

 もちろんその時私はまだ何も決められてなかったし、誰からの誘いも受けていなかった。



 で、タクララちゃんはと言うと。


 学院のハウスキーパーさんたちも、学生寮がほぼ空っぽになることで、学生の長期休暇に合わせて休みを取ることができるらしい。

 タクララちゃんは久しぶりにご両親や妹たちの様子を見たい、ということで休暇を希望したそうだ。


 ところが彼女の実家とエディケイン学院の間は、魔物や野盗が出るあまり治安の良くない地域だ。

 不安がる彼女に、暇な私が護衛を申し出たところ、「ではうちに泊まっていただけますか」とお誘いを受けた。


 そしてちょうどそのタイミングで駆け込んで来た後輩が「是非とも! よろしくお願いするっす!」と泣きついて、タクララちゃん宅宿泊が決まったのである。








 ダチョウっぽい鳥に乗れないタクララちゃんとの旅は、乗り合い馬車ならぬ乗り合いトカゲ車に乗って行く。


「すいません、私がダチョボに乗れれば……もっと早く村に行けるのに」

「ボクはリザドーザーに乗るのも初めてだから楽しいっすよ。速度もそんなには変わらないし」


 この鳥の名前よ。

 日本を代表するファンタジーRPGの、有名マスコット名を侵犯しそうなギリギリなネーミングだ。

 だから私は名前を出さない。


 気遣いは大事である。



 トカゲ車の方は後輩の言うとおり、その重量感あふれる名前とは裏腹に快適な速度を出してくれる。

 ただ、巨体ならではの食事量と小回りの利かなさ、初速の遅さから専ら大荷物の運搬用として使われている。



 タクララちゃんがダチョウっぽい鳥に乗れないのは仕方ない。

 前世で言うと、ほとんどの人が馬を乗りこなせないのと同様、馬に乗る機会は少ないし、個人で持つには高価で手間もかかるものだからだ。

 私たちだって学院で騎乗の授業が無ければ、きっと乗ることはできなかっただろう。


 とかなんとか考えながら、トカゲの牽引する車内で雑談し、私はのほほんと寛いでいた。


 この暇な時間を何に使おうかな。

 タクララちゃんが近くにいるからメイドボールの練習も危険だし。


「クララっちは魔法どれぐらい使えるんすか?」


 あ、後輩め、タクララちゃんをアイドル活動に引き込もうと言うんじゃないだろうな?


「ええと、火と水と光の生活魔法ぐらいなら」


 え? ハーピーだから風属性に適正があるんじゃ?


「ちゃんとした魔法を教えてくれる人もいなかったので……」


「じゃあ魔法の練習に付き合うっすよ! 魔法使えると楽しいっすよ!」


 よし、後は任せなさい。

 ずいっ。


「あ、姉様なに割り込みしてんすか! ボクがクララっちに教えるんすよ!」

「あわわ、お二人とも落ち着いて……! あの、私は使えなくても大丈夫ですから!」


 ほほう?

 これを見てもそんなことが言えるかな?


 私はガラガラ回る車輪に向かって魔法を放った。

 少量の水を出すだけの水属性生活魔法と、風の鞭を合わせたダブルキャストだ。

 水の鞭がタイヤを打って泥を落とす。


「ほわああ、タイヤがキレイになって汚れてキレイになって……お掃除に便利そうです〜!」


 ふっふふ、そうだろうそうだろう。

 一人の家政婦として、この高圧水洗浄機さながらの便利お掃除魔法の誘惑には抗えまい。



「あ、ボクはこんなことできるっすもんね」


 後輩がタクララちゃんの服の端っこに付いた、泥跳ね汚れ部分を手に取った。


「ちょちょいのちょいっ、と」


 ぬぬぬ!

 火と水と土のトリプルキャストだと!?


 後輩は温水で汚れを浮かすと、土属性の魔法で器用に土の汚れだけを取り去った。


「わわ、凄いです! 取りにくい汚れなのに……!」


 おのれ、肉弾戦なら……

 しゃがみ弱キック鬼連打で一瞬にしてピヨらせてやるものを!



 とにかくもタクララちゃんは魔法の魅力に気づいたようだ。

 後輩と私の、二人の力で。

 主に私の!



 タクララちゃんは引っ込み思案で気遣いの子だから、感情とか気持ちを上手くコントロールできるだろうか。

 どちらかと言うと、後輩みたいに欲望に忠実で、図々しいタイプの方が魔法得意な傾向がある気がするんだ。


 上手くいかない時には、ちょっと傲慢で自分勝手な気持ちになるといいかもよ、とアドバイスする。

 隣を見習うといいよ、と。


「姉様に言われたくないっす! キング・オブ・自分本位じゃないすか!」


 なんだと!

 世界平和のために格ゲー世界を願う私のどこが自分本位だと言うのだ!?


「クスクス」


 ん?


「ミサお姉様ってそんな風に怒るんですね。新鮮でちょっと面白いです」


 かあぁ


 くっ、後輩のペースに呑まれてしまっていた。

 タクララちゃんに勘違いされた私のイメージを挽回する機会よ、この後来てくれ!








 トカゲ車で丸一日走って翌日の日が傾き始めた頃、丘の頂上で狭い盆地が見えてきた。


「あ、あそこが私の村です。小さい村ですけど、いい人ばかりですよ」


 お、割と近かったね。


 山に囲まれてるから、日が昇るのは遅く、沈むのは早いんだろうな。

 でもそういう所は長閑で住民の雰囲気もいい、に違いない。



 丘を下りる前にトカゲ車から降りた。

 あの盆地まで行ってもお客さんはいないから、労力を省くためらしい。


 まあ歩いても大した距離じゃない。

 日暮れまでには村に入れるから良し。

 意気揚々と丘を下りた。




 そしてもうすぐで平地に差し掛かるという辺りで……


「ん?」

「姉様、これは……」


「タクララちゃん、こっちへ。この子と手を繋いで、逸れないようにね」

「え?」


 私の皮膚をピリピリと刺すようなこの感覚。

 恐らく後輩も同じものを感じたのだろう。

 表情が険しくなっている。


 これは、魔物のレベルが二つ三つ上がったのではないか。



 幸いにもまだ明るい内に、魔物に遭遇せず村まで来た。

 しかし


「え? どう、して……」


 村を囲う壁は出入り口が木の板を張られて封鎖されていた。


 異常事態、だね。

 どう見ても。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ