第三十六話 闘技会(中編)
闘技会当日だ。
待ちに待ってなどない。
なぜなら先輩チームは私たちに全敗のままだったからだ。
私が場外から魔法のみを使うとかの変則参戦での四対四で辛うじて勝てるぐらいで、まともに戦って勝ったことは無い。
準備不足もいいとこだ。
だがミコルルもアラシュも、ジャンネまでも落ち込んでいる様子を見せない。
「やるだけはやりました! 後は全力をぶつけるだけです!」
「精一杯応援しますからね〜! 期待してますよ〜!」
「目指すは優勝だぜ! ファイト先輩!」
ジャンネとか優勝なんて言っちゃって。
そういうあからさまなヨイショは不快に思われるんじゃない?
「そうだな。私たちの訓練の成果を見せてやろう」
「努力は裏切らない……かもしれないもんね!」
「そこは『裏切らない!』でいいでしょ!」
「対戦相手に容赦しない……これは私のせいではありませんからね」
あいたたた!
なんだこの痛い人たちは!?
ヨイショに乗っかり過ぎでしょ!
「僕、卒業したら故郷の彼女にプロポーズするんだ」
「いたの!? 彼女!」
やばい。
変なフラグまで立て始めた。
もう! 早くアップに行ってください!
――ふう、ようやく行ったか。
さて、私は悠々の観戦と洒落込みますか。
「あ、姉様ー、こっちこっちっす!」
同じく観戦オンリーの後輩たちと合流。
「あ〜あ、実況と解説狙ってたっすのに」
「あら、そんなものあるんですか?」
「うん。プロレスの時の実況が評判良かったんだって」
「今回の実況解説、メインはクイラ先生とモルガノ先生」
クイラ先生め、プロレスの時ノリノリだと思ってはいたけど、実況気に入ってたんだな。
でもモルガノ先生とやるのか。
……仲良くできるのかな、あの二人。
「闘技会第一回戦が始まります。第四試合までの出場選手は各試合場に集合してください」
お、始まるぞ。
でも先輩たちは第十試合だから次の試合までは見学タイムだ。
うーむ、特異属性持ちがいるチームが有利かと思ったけど、基本属性だけのチームもよく魔法の使い方を工夫して戦ってるな。
でもやっぱり魔法の撃ち合いがメインになっちゃうんだ。
チームバトルだからってのが影響してるかもしれないけど、もっと直接攻撃を狙っていいような気がするんだけどなぁ。
まあまあ、でもこれはこれで面白いし、勉強にもなる。
自分たちの試合を気にせず見学できるこの立場も、案外役得なのかもしれない。
第八試合までが終わった。次は先輩たちが出る第十試合だ。
応援に行こう。
……先輩たちの対戦相手うちのクラスのチームじゃん。
ごめんなさい先輩、ちょっと声を上げての応援はできそうにありません。
その相手とは、ジャガノス君とゾンビッシュ君のいる男子チーム。
巨人、グール、トロル、オークの肉弾戦が期待できる構成だ。
さて、先輩たちはどう戦うか。
ファイッ!
始まった。
「ガッ*#¥チョ♪€%$!」
いきなりそれか!
ダブルバイセプスを決めたジャガノス君の体が赤く光る。
初戦だししばらくは様子見だと思ってたのに、完全に不意を突かれた。
さすがに自我を失う欠点は克服したのだろう。
サイドライン沿いを走って敵陣に突撃するつもりらしい。
前衛のデュラファス先輩が突進を食い止めようと走るが、スタートが遅れたせいで追いつけない。
このままではひ弱なオシティ先輩が吹っ飛ばされてゲームオーバーだ。
さらにガストン先輩とシルキル先輩の注意がジャガノス君に向いている間、敵のオーク、トロルコンビがこっそりと逆サイドから先輩陣地に入ろうとしている。
これは、たとえジャガノス君を止めても後の二人にやられてしまいそう。
初戦敗退か……まあ、あちらの作戦勝ちってことかな。
やっぱり先輩たちはジャガノス君に総攻撃態勢だ。
何かの呪いをかけ、霧で視界を覆い、マフラーで道を塞ごうとしている。
ん?
ジャガノス君がマフラーに沿って走ってるぞ。
まるでコーナリングするミニ四駆みたいに、くるんと向きを変えて……
自陣に突進して行ってしまった!
先輩たちも何が起きたのかイマイチわかってないようだが、それ以上に慌てているのは敵チームだ。
「バカっ!! ジャガノス! 敵はあっちだ!!」
「止まれ止まれー!」
「うわっ、君たちはそのまま敵陣に行けよ!」
敵の狼狽のお陰もあって、トロル&オークコンビに気づいた先輩たちは守りをしっかり固めることに成功。
デュラファス先輩がトロル君を、ガストン先輩とシルキル先輩がオーク君を討ち取って、とどめはジャガノス君のオウンゴール。
ゾンビッシュ君をぶっ飛ばして自陣の砦を破壊した。
ツイてツイてツキまくるどこぞのヒーローみたいなラッキーで勝ってしまった。
変身解除したあとの反動が恐ろしいことになりそうだ。
ふ、と笑みを浮かべたり、目立たず拳を握り締めたり。
幸運で勝ったのに喜び方でクールぶってる先輩たち。
もっと「勝ったぜー! やったー!」「ラッキー!」とかやれば可愛げもあるのに。
とか思ってしまう私は心が狭いのだろうか。
うん、よくないな。
クラスメイトの敗北ということもあって微妙な心境になってるようだ。
よし、次は心を入れ替えて、目一杯応援するぞ。
と、こんなことを思ったせいか、先輩たちの次の対戦相手も私のクラスメイトだった。
すごいじゃん、一回戦突破して……
そのチームはなんとユリキャットちゃんたちである。
リーダーのユリキャットちゃんは試合開始まで、誰かを探しているのか辺りをキョロキョロ。
そして、ハァ、と溜息一つ。
ハァハァしてない凛々しいユリキャットちゃんは初めてかもしれない。
私はまたもどちらも応援できないから、物陰に隠れていた。
二回戦は一回戦のお間抜けっぷりは何処へやらの好試合だ。
オーガの前衛対デュラファス先輩は、デュラファス先輩の優勢だが、中衛のユリキャットちゃんがいい動きを見せる。
時に、押し込まれそうになる前衛を助太刀に行っては、機を見て離脱。
今度は手薄になった中衛のサポートに行く、といった感じで。
でもそれは、ユリキャットちゃんに頼った戦い方とも言えるんだよね。
それを見逃すような先輩たちではないよ。
私が場外にいるバージョンでの対戦で勝てるようになったのは、戦況を観察し、攻撃や防御の手薄な所を見極められるようになったから、なんだし。
ユリキャットちゃんがハァハァ言い始めた。
でもこのハァハァは応援したくなるハァハァだ。
おかしいな?
ユリキャットちゃんだけ疲れるのは、彼女の運動量が飛び抜けて多いから仕方ない。
また、ギリギリの均衡を保たせているのが彼女だから、背負うもののプレッシャーが疲労を加速させているのだろう。
ああ、動きを読まれた。
待ち構えていたデュラファス先輩が、助太刀に飛び込んで来たユリキャットちゃんを撃墜。
彼女が落とされては勝敗は火を見るより明らかである。
勝負あり!
先輩チームが二回戦も突破だ。
「うっ、うっ……」
悔し涙を流すユリキャットちゃんに、私はこっそり近づいた。
「ナイスファイト」
「は! ミ、ミサお姉様!?」
「いい動きだったよ」
「私、ミサお姉様に頑張ったところ見てもらおうって……う、うう」
「うん。よく見てた。かっこよかった」
「う、うわあぁぁん!」
私の胸に飛び込んできたユリキャットちゃんをヨシヨシする。
猫耳の触り心地が秀逸だと初めて気づいた。
「ハ、ハァハァ」
!?
なんかユリキャットちゃんの腰が砕けた!
何故かまずいという予感が私を襲う。
「あ、チームメイトが待ってるみたいだね! またね、ユリキャットちゃん!」
「あ、お姉様……!」
シナを作ったようなユリキャットちゃんを振り切って私は離脱した。
あの謎のハァハァが無ければ、頑張り屋のいい子だと思うのになぁ。




