第三十五話 闘技会(前編)
遠征実習から帰ってすぐ始まった後期の授業、行事は、大きなアクシデントも無く過ぎていった。
前期と比べると三年生と交流を深める機会は多く、私たちは班ぐるみでオシティ先輩の班と友好を結んでいた。
そんな三年生ももうじき卒業する。
残すは卒業前の最大の行事、闘技会。
これは全学年合同の、四人編成チームでのトーナメント戦と、個人トーナメント戦の二種類から成る熱血硬派なスポーツだ。
闘技会の順位はある程度成績に加味されるし、闘技会で上位になることは学院でトップクラスにいたという証明にもなる。
そこで栄誉を求める学生たちは、この時期懸命に訓練に励んでいる。
クラス内、班ごとに模擬戦をしたり、個人戦出場希望者は先生に稽古をつけてもらったり。
三年生もほとんどは自分のクラス内で模擬戦や訓練をするのだが、オシティ先輩のチームだけは違う。
私たちと訓練をしているのだ。
いや、最初は私たちが先輩に頼んだのだが。
少々わけありゆえに。
でも先輩たちも歓迎してくれている。
何でも同級生とやるよりも張り合いがあるのだとか。
ホントかな?
みんなクセが強いからクラスメイトに敬遠されてるだけじゃないのかな?
だって呪い属性のオシティ先輩をはじめ、みんな一癖あるんだもの。
豪霊鬼デュラファス先輩は両手剣が武器のガチ前衛。
首無し馬召喚で敵陣に突撃し、特技の身体分離で敵の攻撃を躱しつつ敵を斬る。
首無し馬に跨り、自身の首を手に持つ姿はホラーとしか言いようがない。
関節以外は分離できないからボディとか狙われると脆いんだけどね。
中衛は二人、瘴霊鬼ガストン先輩と、妖霊鬼シルキル先輩。
ガストン先輩は霧を使って相手を撹乱、時には自ら敵陣に斬り込み、時には後衛を守る前衛寄りの中衛だ。
だが霧には時折意図せぬ毒素が交じるため、味方も気をつけねば害を被る。
シルキル先輩は身に纏った長いマフラーを手足のように操り、巧みな土属性魔法と合わせて味方の防御を担う後衛寄りの中衛だ。
但し彼女のマフラーはイタズラ好きで、偶に主の意向を無視して飛び回る。
そのためマフラーに頼り切ってしまうと、追い詰められている時ほど大変な目に遭う。
土属性の巧みさより、マフラーを完璧な支配下に置く努力をすべきだったと思わざるを得ない。
これでオシティ先輩の呪い属性が加わるのだから、不気味さはピカイチだ。
それでも前衛サイドに男性二人、後衛サイドに女性二人と、一見するとまあまあのバランスのように思える。
ちなみに種族の鬼繋がりで意気投合したらしい。
さて、そんな不気味な癖強鬼族だが、私たちとまあまあいい勝負をする。
わけではない。
残念ながら先輩たちは弱い。
呪いとか毒とか嫌らしいっちゃ嫌らしいのだが、ダメージ覚悟のゴリ押しで突破できてしまうのだ。
「ううむ、私の剣技が全く通用しないとは……自信を無くしてしまうな」
デュラファス先輩はとても紳士だ。
十五歳程度とはとても思えない落ち着きを見せる。
でも、首をくっつけてから言ってもらえません?
それだとデフォが首無しみたいじゃないですか。
「私はこの子たちが優勝すると思うな。ね? ガストンもそう思うよね?」
「う、うん。僕もそう思う……かもしれない」
「もう、いつもはっきりしないんだから。そんなんだから霧も言うこと聞いてくれないんだよ」
確かにこの優柔不断さが魔法に影響してるとも思えるが、それをシルキル先輩が指摘するのはいかがなものだろうか。
マフラーが暴走するのに。
俗に言う「お前が言うな」状態だと思ってしまうぞ。
「お褒めいただいてありがとうございます。でも、私たちは闘技会に参加しないのです」
「え? な、何でだい? まさかオシティのせいで……」
「私のせいで……って、何で私なんですか! 何もしてませんわよ!」
「ご、ごめん」
やはりオシティ先輩はトラブルメーカーの認識で合っている、と。
それにしても、このチームにおけるガストン先輩の立場の低さときたら……
「違いますよ〜。私たちはミコルルとミサが闘技会出場禁止なんです〜」
「え? ――あ、もしかしてその二人と言うことは」
「ピンポーン! プロレスの影響なんだぜ!」
まことに遺憾ながらジャンネの言うとおりだ。
私もミコルルも、もういい加減プロレスのことは忘れ去られたと思っていた。
ところが闘技会の開催が全校集会で正式に告知された直後から、学生の間で署名運動が始まったのだ。
私たちにプロレスをさせろ、という内容の同意を求めるものである。
クイラ先生が署名しようとするのを見た時は、思わず頭を叩いてしまった。
あとブッドー先生も、ソワソワと署名者を影から窺っていたのを確認済みだ。
これに待ったをかけたのは我らがデスシックル先生とヒュウガ先生だ。
「アイドル騒動の時に、一応の妥協点としてプロレスを許容しましたが、やはり規律を乱すものだったのでしょうか」
臨時の学年集会が開かれ、デスシックル先生が登壇された。
歯軋りするように腕の刃を擦り合わせるデスシックル先生。
その姿を見た後で、プロレスをするべきだと言い続けられる勇者は現れなかった。
一年生もヒュウガ先生がビシッと言ってくださったらしい。
そして私とミコルルは、闘技会選手として参加することで興奮する学生がいてはいけないから、と念のために闘技会の参加自体を見送られることになった。
しかしここで「成績はどうなるんだ!」と噛み付いたのはジャンネである。
と言うか彼女しか成績を心配する人は当班にはいないのだが。
ミコルルは最上位近辺の常連だし、私も上位一割に入れるぐらい。
アラシュも真ん中より上である。
ここで一つ注釈を入れたい。
闘技会の成績は、実技項目に加算されるので、既に実技満点近い私たちが点数加算されても意味はほとんどない。
つまりジャンネの抗議は言いがかり以外の何でもないのである。
ところが、泣いて土下座するジャンネの訴えに、闘技会の運営委員会は「それもそうだな」と思ってしまった。
そして、一つの条件付きで座学枠にも影響ある加点を認めた。
それこそが自分の贔屓のチームをサポートすること。
特定のチームだけそんなサポートをつけていいのか、と思ったが、四人チームに限っては良いと言われた。
闘技会は四人一チームだが、班員が五人もしくは六人の班では四人以外はサポートに回るし、教員が特にサポートするチームもあると言うのだ。
まあ、教員がサポートすると言うのは、あまりにも戦闘能力が低過ぎる可哀想なチームだったりするのだが。
ジャンネは泣いて土下座し、今度は運営に感謝を表すこととなった。
て、ことで私たちがサポートすることにしたのは三年生のオシティ先輩たちのチームだった。
後輩たちは私たちと同じ理由で参加禁止だし、二年生よりは三年生の方が上位を狙えるだろうという目算もあったからだ。
「プロレスの時は、あの場の雰囲気って言うか、トリックとか演出かもって思ったけど……ミサちゃんって本当に凡人種?」
シルキル先輩は、私がドロップキックで後輩を校舎までぶっ飛ばしたのを演出って思ってたみたい。
まああれは後輩が軽いことと、あの子自ら後ろに飛んで威力を殺したこともありますから。
「個人戦も出られないのはもったいないですよね」
「僕はまたプロレスが見たかったな……」
私とミコルルはバッと体を隠した。
「やらし……ガストン」
「ち、違うよ! そんな目で見てたんじゃなくて! ほ、ホントだよ」
それからガストン先輩が集中砲火を浴びて撃沈したことは言うまでもない。
先輩たちは体力不足の面もあるので、基礎訓練も行うが、闘技会までの期間は短いので気休め程度にしかならないだろう。
それよりは連携だ。
いかに安定した陣形を維持し、敵の数を減らし、または隙を突いて敵の陣地を破壊できるか。
今のところ私たちに全敗中だが……
大丈夫か先輩!?




