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メゾン格ゲー  作者: みおま ウス
第二章 学園格闘者発掘編
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第三十四話 遠征実習(その四)

 どうやら実の祖父と孫らしい。

 自分の祖父をジジイと呼ぶ不良は第三部の主人公以外に心当たりが無い。

 レアだぞこいつ。


「そうか……あのアンリーか。あれほど小さかったのに、よく立派に……」


 感極まってるところ悪いんだけど、とても立派には見えませんよ。

 さっきだってポケットに手を突っ込んで闘神像蹴ってたもの。


「俺は記憶に無いがね」

「それはそうじゃろ。こんな小さかった頃のことじゃ」


 こんな、と言ってフールー氏は腕をお腹の前で重ねて、エア抱っこをして見せた。


「ふん! そこから一度も顔を見せねえ冷てえアンタを、親父はどうして……」


 何だろ、複雑な家庭環境が暴露されるのかな。

 私のイメージだと孫を見せに実家に行くのは子どもの方なんだけど。

 祖父祖母の方から行くのって、義理の息子とか娘の方に気を遣わせちゃいそうじゃん?

 たとえ「遠慮なく来てくださいよ〜」とか言われてもね。


「確かにわしは忙しさにかまけてギーズをろくに訪ねもせんかったし、あの子が来て追い返したこともある……」


 あらら、フールー氏ショボーンとしちゃったよ。


「ふん、それでも親父は何かと言うとアンタのことを持ち出して、俺に口やかましく説教垂れて来たけどな!」


 罵りたいのかデレたいのか、どっちなんだこのチンピラは。


「聞けばジジイ、昔は腕っ節が自慢だったらしいじゃねえか。だったら俺がよぉ、そんなジジイをボコって親父に言ってやんよ。『アンタの息子はアンタが尊敬するジジイに勝ちましたよー。気分はどうですかー?』ってな」


 それの何が楽しいのか、ギャハハとチンピラは笑っている。


 フールー氏は頭を抱えている。

 若かりし頃の腕自慢をバラされて恥ずかしいのだろうか。


「それぐらいに……」



 待つのです



 老人イジメもそれぐらいにしとけと、注意してやろうかと声を出しかけて、私は闘神像から止められた。


 ……気がした。


「んだガキぃ。さっきからチョロチョロ目障りだぞ」


 チンピラはガスッと闘神像を蹴りつける。


 イライラ。


「やめんか! 何ということをするんじゃ」

「あぁ!? 別にただの像じゃねえか。こんなのありがたがって、オヤジも! テメェらも! クソくらえってんだ!」


 ぐぬぬ、もう我慢ならん……



「あ、闘神像の顔が!」

「お、怒ってる!?」



 ジャンネたちから驚きの声が上がった。


 本当だ! 御尊顔が怒り面に変わってる!


「な、なんだ……顔が変わったからって」


 明らかにビビるチンピラ。



 フールーよ……



「フ、フールさん! 闘神像が……!」


 闘神像が望んでいることが伝わった気がした。


「なんと、そのようなことを……お嬢さん、あなたは大地闘神の御心が分かるんじゃな」


 闘神像はフールー氏に力を見せろと望んでいる、はず。


 ほら、期待してますよフールー氏!

 そんなチンピラ早くボコッちゃってください!


「アンリー、見ていなさい」


 あれ? チンピラ置いてどこ向いてんですか。


 フールー氏は闘神像に向き合い、拍手拝礼した。


「思えば自ら祈りを捧げるなど何年ぶりでしょうか。久しぶりにわしの祈り、受け止めてくだされ」


 え〜、そう言うことなの〜?



「むぅううん!」


 おお、フールー氏の筋肉が盛り上がり上着を破った。

 何故か身長まで大きくなったように見える。

 凄い迫力だ。


 当社比二倍近くに膨れ上がった丸太のような腕を、体を軸に旋回させる。

 なぜだろう、今のフールー氏からは道士の気配をヒシヒシと感じる。


 まだ止まらない。


 飛び上がり横向きで足踏みするような連続蹴り、手刀を突き出し低く突進、そして両手の掌をぶつけた。


「むぅううん!」


最後に再びの咆哮と共にフールー氏の気迫が目に見えて立ち昇り、ズシン、と重い響きが渡った。



 掌を合わせ頭を下げたフールー氏の姿は、カプルコン寺院で祈りを捧げる和尚たちにも劣らぬ真摯さがあった。




 素晴らしい祈りだった。

 これなら闘神像も……って、そんな都合よく変わらないか。

 闘神像は悲しみの面のままだった。


 けど、フールー氏の目には涙が浮かんでいる。

 彼の祈りに、闘神像から返されたものは何なのだろうか。




 さて、これで終わりではないぞ。


 私は呆然としているチンピラの元へ行き、その袖を引いた。

 ほら、お前の番だぞ。

 どうぞ、と恭しく闘神像の前へと引っ立てる。



「いや、もう良いのじゃ。お嬢さん」


 フールー氏は私とチンピラの間に割って入り、チンピラの手を取った。


「ギーズに何か、あったんじゃな?」


 それは闘神像から教えられた?

 それとも家族の勘?


 チンピラはその手を振り払うことなく俯いている。


「別に、ちょっと調子を崩して弱気になってるだけだ。それなのに俺に頼らないで……アンタの所へ行けって。行って鍛えられて来いって……」


 それからチンピラことアンリー氏は訥々と語り出した。




 どうやら彼の父親は、病床に伏せっているが、長男アンリー氏の介護を望まず、心身の修練を期待しているらしい。

 また、闘神像の御尊顔のことにも触れ、祖父を手伝えと指示したそうだ。


 当のアンリー氏と言うと、ほとんど会ったことも無い祖父フールー氏に信頼を置けない。

 また、勝手に悲しみの面などを見せる闘神像のことを良くも思っていなかった。


 それが不信感を元にした態度の悪さだったというわけだ。

 けれども祖父、フールー氏が闘神像に祈りを捧げた時、アンリー氏にも伝わってくるものがあったらしい。



「俺も、もう一度やってもいいかな? 今度は真剣に、さ」

「うんうん、やってみなさい。大地闘神のお心は広い。真剣な祈りを持つ者を蔑ろにすることは無いからの」


 ぎこちないが拍手拝礼し、アンリー氏は祈り始めた。


 大振りだけどあまり威力の無さそうな、不恰好な打撃だ。

 それでもその祈りの深さはとてもよく伝わってきた。



 私たちは老人とその孫を残し、そっとその場を立ち去った。




「何だかよく分かんねえけど、まあ悪いようにはならなそうだよな」

「そうですね。悪ぶってたあの男性も、無理して態度を悪くしてたような感じですし」

「でも闘神像を殴って何が分かったんだろうね〜?」

「あら、何を祈ったのですかアラシュ?」

「え? え、祈りって、ええと」

「そういや祈りを捧げるんだっけ? たっはーアタシは気持ちいいからボコスカやってただけなんだよなー」


 ああ、なんてもったいない。

 そりゃ確かに爽快感はあるけどさ。

 祈りを受け入れてもらえた時の感動は独特なのに。

 仕方ないなあ。



 その日はもう、宿で別のことを楽しむことにした。








 それから帰る日までの間、私は闘神像への祈りを心行くまで捧げた。

 仲良くなったフールー爺が時間外にできるように便宜を図ってくれたお陰である。

 寺院の巫女とか言う、適当な名目で。

 後で寺院の関係者に怒られないだろうか……








 名残り惜しくはあったが学院へ帰る日が来た。


 アンリー氏の姿は無いが、フールー爺の清々しい笑顔を見ると、二人が上手くいってると思えた。


 さり気なく手を振った。

 フールー爺もさり気なく手を振ってくれた。


 今度来た時は闘神像を笑顔にしててね。




 帰り道も当然二泊の野宿である。

 もちろんクラスメイトはブー垂れる。

 素晴らしい環境で四日も寛いだのだから、反動もまた凄まじい。




 帰り着いた後、くたびれたクラスメイトの姿を見る。

 彼らの思い出は楽しかった面が濃くなるのか、はたまた辛かった面が濃くなるのか。

 私は大体いい思い出に占められそうだ。


 一部を除いて……主にユリキャットちゃん関連の。








 後日、フールーさんから学院にお手紙が届いた。


 その中で、お孫さんに商売や、他の修行をさせていること。

 息子さんが快方に向かっていることなどが、それとなく書いてあった。

 多分私の班ぐらいしか分からないだろう。



 そして一番のニュースは、闘神像の御尊顔が微笑みの面に変わったことであった。

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