第三十三話 遠征実習(その三)
広いお風呂、おいしい食事、柔らかな布団。
宿に到着したその日、クラスメイトは二日に渡る野宿の疲れを大いに癒やした。
そして翌日は自由時間。
放牧地で動物たちと触れ合う者。
商店街へ行きショッピングを楽しむ者。
もしくは広場でアメフト的な謎のスポーツに興じる者。
それぞれ限られた時間を有効に使おうと行動している。
私はと言うと、宿の屋根に上り闘神像を眺めている。
来訪者がどのように祈るのか見物するためだ。
なるほど、これが開放的なタイプの闘神像への祈りマナーか。
神社への参拝みたいだ。
きちんと礼をして、何度か殴る蹴る、もしくは魔法を撃つと満足したように去って行く。
時々子どもがふざけて飛び蹴りしたりしているが、親や周囲が注意するし、そこまで不届きな輩は見られない。
祈りを独占して良い雰囲気ではないなぁ。
とりあえず一度参拝客に交じって祈りを捧げよう。
他の人に迷惑のかからない時間帯とかあるなら教えてもらおうかな。
フールー氏に。
「お、いたいた」
「ミサ、お祈りに行くのでしょう?」
「私たちもやってみたいんだけど」
屋根から下りるとミコルルたちと会った。
「もう買い物済んだんだ?」
「まあな。そう欲しいもんも無えしさ」
「私はヌイグルミ一個だけ」
「私はマムマムとウルウルにお土産を。大した物ではありませんが」
う、お土産か。
後輩にたかられそうだ。
一応準備しとくか。
何にしよう。
ご当地ストラップとかそんな感じのがあれば便利なんだけど。
三面寝闘神キーホルダーとか。
“お仕事選びません”な猫ちゃんマスコット的なお土産は大変便利である。
「確か礼をして後は思い切って攻撃すればいいんですよね?」
大体合ってる。
できれば拍手拝礼してほしいけど。
願いごとを受け入れてもらえるといいね。
「あら、誰か先客がいますね」
「何か変じゃね? 一人でウロウロ歩き回って……お、止まった」
「あ! 蹴ったよいきなり!」
何だこの不届き者は!
帽子被って顔は見えないけど、うちらより年上の雰囲気なのに!
注意してやろう。
そう憤って近づいた。
「おい見えねえのか! 俺がやってんだろ! あっち行ってろ!」
むか!
一応本気で祈っている可能性を考えて、少し離れて待っててやったのに!
完全に言いがかりだ。
「ちょ、待て待て!」
「ミサ、落ち着いてください!」
「お兄さん、早く謝って!」
ふう、危ない。
闘神像を前にして祈りと無縁の暴力を振るうところだった。
「なんなんだテメェらは…………ちっ、やめだやめだ。こんな動かねえ像殴ったところで力試しになんかなりゃしねえ。殴りてえなら勝手にしやがれ」
ジュリーみたいな捨て台詞を吐いて帽子男は出て行った。
出て行ってくれって言えば良かった……
三人が私を慰める。
ぐむむ……くそ、忘れよう!
真摯な気持ちで闘神像に向き合うのだ。
ふー、ふー。
……よし。
拍手拝礼。
初めまして、いえ、お久しぶりです、で良いのでしょうか。
私は世界に格ゲー要素を浸透させるべく、学院で教養を高めながら人材の発掘に邁進しております。
まずは私のX連コンボから、行きます!
テン、テテ、テン、テン、テン、テン、テン、テン、テン、テ
最初見たときはかなりの衝撃だったなぁ。
まさに魅せる技だが、繋げるタイミングは独特だったから、できる人の後ろで何度もタイミングを盗み見たものだ。
家庭用のプラクティスで見られるようになった時は、便利になったと思うと同時に自力発見、到達の喜びが半減したようながっかり感に襲われたんだよ。
「えぐい連撃してやがる」
「こんなの食らったら死んじゃうよ……」
「でもミサ、生き生きしてますね」
あ、ジャンネたちの言葉とは別に何か頭に響いてきた。
……う〜ん、やはり気づかれましたか。
Ⅹ連と宣言しておきながら隙があるものだから、闘神像は疑問に思われたのだろう。
コンボ中に「ん?」って感じの僅かな間を差し入れられた。
そう、この連撃、実は途中防御や割り込み攻撃が可能なのだ。
近年では本当に、魅せることが主眼の技となってしまったのである。
失礼しました。
次は派生技を工夫して披露いたします。
ありがとうございました。
「お、すげえ手応えだな!」
「クセになりそうだよね」
「あ、うふふ」
お、ミコルルが嬉しそうにしてる。願いが受け入れられたのかな。
「それにしても思いっきり魔法撃ってるのに〜」
「傷一つつかないってスゲエよな。どうなってんだかな?」
そうでしょうそうでしょう。
さあ君たちも祈りたまえ。
あ、そうだ。
闘神像にお尋ねせねば。
どうして悲しみの面をお見せになるのか。
フールー氏が気にしてらっしゃいますよ。
闘神像の御心を尋ねるのだからこちらも心を込めて全力を尽くさねば。
ヒュウガ先生に禁止された必殺技だ。
あのチンピラのせいか、ちょうど私たちの他に人もいなくなってるし。
「ん? 何かしようとしてますか?」
「うん、ちょっと離れてて」
「何すんだ?」
「必殺技」
「ちょっと! それって禁止されてるやつじゃないの!?」
「わ! バカ! 何やろうとしてんだ!」
「危ない! 離れましょう!」
オシティ先輩のせい、と言うか先輩との実験のお陰で生命力を感じ取りやすくなったからね。
ヒュウガ先生に禁止された時のような、不快さを感じるまでの抽出はダメだ。
あとは生命力と言っても体力ゲージが減らない程度に調整して。
必殺技撃つ度にこちらがダメージ受けるのは良くないもの。
よし、できた。
はあぁぁぁぁあ!
行けぇ! 名無しの生命球!!
以前より小振りの、ソフトボールより気持ち大きいぐらいの球体が飛んでいく。
バッティングセンターの豪速球打席ぐらいの速度で。
「伏せろー!」
「きゃああああ!」
ズン
重々しい音がし、闘神像が震えた。
それだけだ。
「な、何も起きてない?」
「すげえな、闘神像……」
が、私には分かった。
必殺技完成。
もう一度言おう。
必殺技、完成だ。
名前は?
あ、はっ、はい、そうですね。
あ、闘神像のお顔が怒り面になってる。
……と思ったらもう戻っちゃった。
あっと、名前、必殺技名ですね。
ええと……
生命力、怒り面、ボール。
命怒ボール
あっ!
まだ考え中なんですけど!?
あぁ、命怒ボールに決まってしまった。
声に出すと意味が分からないぞ。
サイコソルジャーの麻宮さんみたいに言ってみれば様になるかな。
「メイドボール!」
ズン!
な、なんか出たぁ!
「おい! いきなり撃つなよ!」
「危ないでしょ!」
え、何ですかこれ?
ショートカット
そんなシステム!?
え? 登録したら後は技名で出せちゃうんですか!?
あ、そこまで便利ではない。
そ、そうですよね。
ん? ポーズが無いと?
……そんなんで?
あはは、出すたびに「メイドボー」って言うんですか?
これは多少手間でもショートカット使わない方が精神的にいいかも。
ところで悲しみの面の件は……
「君たち!」
あ、フールー氏。
そんなに慌てて走ると転びますよ。
「さ、先程闘神像の御尊顔が変わってなかったかね?」
「え? そうだったっけ?」
「それどころじゃなかったって言うか」
「すいません、気づきませんでした」
いや、変わってたけどね。
「そうか……見間違えじゃったか」
言いそびれた。
「フールーさん……」
「おい! さっきの女どもだな! 今の衝撃は何だ、何しやがった!?」
また別のが駆けつけてきた。
さっきのチンピラだよ。
「なんじゃね君は?」
「ああん? ああ、ジジイか。俺はアンリー。あんたの孫だぜ、一応な」
帽子を脱いだチンピラを見て、フールー氏は目を丸くした。
「ギ、ギーズ」
「ああ、若い頃のオヤジそっくりらしいな、俺は」
何だろう。
フールー氏は縋るような目をしているけど、チンピラからは敵意のようなものを感じる。
割って入った方がいいのかな?
待ってましたよ
え? 闘神像がそうおっしゃるならいいですけど。
じゃあ私も見てます。




