第二十九話 アイドル事変(その五)
私だってあれぐらいの服装がいいんですけど。
「安心しろ」
不満を読んだのか、クイラ先生が言う。
「あの下にはちゃんとプロレスのスーツが着込んである。しかもクラシックスタイルの、だ。生意気な」
どこを見たら分かるんだろう?
適当かな?
と思っていたら後輩たちが服に手をかけ全身を一回転。
幾つかのパーツに分かれて宙を舞う服の下からは、クイラ先生と同じ伝統的なプロレススタイルが……
やっぱスク水かい!
後輩たちめ、未発達な体を逆手に取ってロリコン路線を打ち出してきた。
「か、かわいぃ!!」
「ネ申だ! ネ申の降臨だ!!」
一部から異常興奮した声援が上がる。
彼らを犯罪者予備軍のような目で見る人たちを責めることはできない。
なぜなら私も、彼らのことをヤバい人たちだと思っているからだ。
ところで種族を越えて「可愛い」と声援を送る人たちは何なのだろうか?
恋愛とか性的な感情では無いはずだが、これがアイドル騒動の魔力なのかもしれない。
「さあ上がって来るがいいっす!」
後輩たちが私たちをビシッと指差した。
とうとうか。
私とミコルルは覚悟を決めて堂々と花道を歩き出した。
「カッコいい!!」
「ステキー!」
「ミコルルさーん!」
「ハァハァ、ミサお姉様ー!!」
女子からの黄色い声援が多くて少しホッとした。
ガウンのお陰かな。
ミコルルと目配せして微かな笑顔を交わして、私たちも伸身宙返りでリングイン。
ワッと一層観客席が沸いた。
「やるっすね。似合ってるっすよ、そのガウン」
「ありがと」
「さ、早く脱ぐっす」
「……」
「姉様?」
むむむ、やっぱり躊躇うよ。
「ミサ。せえの、でいきましょう」
「ミコルル……」
よし、決心ついた。
やってやろう。
「せえ、」
「の!」
バッ
ガウンが高々と舞い上がり、私たちは水着姿を露わにした。
「キャーーーーーーー!!!」
「かっわいい!!」
「カッコいい!!!」
「ハァハァ! ミ、ミサお姉様ぁ!!」
「ユ、ユリキャットさんしっかり!! 先生ー! ユリキャットさんが鼻血出して倒れましたあ!!」
入場時よりもずっと大きな声援が私たちに降り注ぐ。
物凄い圧力だ。
女子の声援で大部分は掻き消されるが、男子の声援もかなり多い。
は、恥ずかしい。
さり気なく体を庇うようにすると一層声援が大きくなった。
うぅ、どうすればいいの。
「へ、へえ。そんな格好するんすね姉様も」
「私たちには破廉恥とか言っといて」
「でも美しい」
敵チームに言われたい放題だ。
ミコルルの闘志も高まってきた。
「赤〜コーナー、」
レフェリーの選手紹介が始まった。
予定通りミコルルがマムマム、ウルウルとリング内で戦い、私と後輩はリング外で牽制し合いながら乱入の機を窺う。
ガウン着てもいいかな?
カーン
そんなことは許されないとでも言うように、試合開始のゴングは鳴らされた。
「まず私が」
『ウルウル選手のタックルは鋭く低い!』
「脚を取りに来てるぞ!」
『セコンドのジャンネとアラシュの声が飛びます!』
『二人とも上級生チームのプロレス特訓に付き合った友情の徒らしいですね』
『ミコルル選手腰を落としタックルを受け止めた!』
『いい反応ですよ』
『ウルウル選手と頭を突き合わせ取っ組み合い!』
『ウルウル選手タックルに自信があったのか、真正面から受け止められて動揺してますね』
さっきからうるさいな、と思ったら解説実況席にいるのクイラ先生じゃん。
うちらのセコンドについてくれないんかい。
その隣にはブッドー先生が。
引退した高名なプロレスラーみたいな風格を感じる。
もしかしてブッドー先生もプロレスファン?
それでプロレスに反対しなかったんじゃ……
二人の掛け合いは、落ち着いた解説のブッドー先生と、熱い実況のクイラ先生って感じ。
うるさいけど、解説で心情まで読んでくれるなら私には助かる所多し、かな。
うん許そう。
『おおっと、ミコルル選手、ウルウル選手の懐に潜り込んだ! これは大技、ブレンバスターだぁぁぁ!!』
『あっと、ホールドが甘いですねぇ。すっぽ抜け気味になってしまいました。でもウルウル選手へのダメージは小さくありませんよ』
『ミコルル選手悔しそうだ! だが間髪入れずに追撃に向かう!』
「ウルウル!」
『コーナーに立ったマムマム選手が飛んだー! 滑空しミコルル選手に襲いかかる!』
『ここでミコルル選手止まりましたよ。どうやら誘いだったようです。マムマム選手は止まれそうにありません』
『ミコルル選手ジャンプ! ひねりを加えた宙返りでマムマム選手の背中を取った〜! こ、これは幻のキン肉インフェルノか〜!?』
『クイラ先生、そのキン肉インフェルノとは? プロレスファン歴四十年の私が初耳なのですが』
ブッドー先生の声が震えてる。
長いファン歴をして知らぬ技が出たことへの驚きか、興奮か、はたまた恥じらいか。
その辺は解説してくれそうにない。
『飛空者の制空権を奪って壁に激突させる大技です! ああっ、しかしコーナーポストではなくロープに突っ込んでしまった〜! 幻の大技失敗!!』
『なんという技が出てきたのでしょうか。こわいですねぇ、おそろしいですねぇ』
失敗したとは言え二人相手にミコルル優勢。
立て続けに出た大技で観客も大盛り上がりだ。
「いいよミコルル! ダメージあるよ!!」
セコンドからも激励が飛ぶ。
「マムマム」
「うん、ウルウル」
『ここでアイドルチーム距離を取りました。仕切り直しでしょうか』
『ミコルル選手も慌てず慎重に様子を見ています……おーっと、アイドルチーム同時に動いた! ウルウル選手がロープを使い四方に跳ね、マムマム選手は高く舞い上がる!』
『これは難しい判断を迫られます。さあどう出るかミコルル選手』
「どっちか潰してミコルル!」
二つに意識を向けているようで、どちらの状況も把握できていないと判断した私は、飛び出すことを決めた。
「おっと、させないっすよ!」
『飛び出そうとしたミサ選手にキャミィ選手が飛び蹴りだ! ミサ選手上手くガードしたが援護に行けず!』
『ミサ選手の顔に焦りが見られます。そしてミコルル選手は、ああ、上を見た瞬間にウルウル選手を見失いましたね』
「ミコルルーっ下だあっ!!」
『視線を下に向けたミコルル選手が青ざめるー! 既にウルウル選手が足元から飛び上がっていたー!!』
『垂直落下のマムマム選手のレッグラリアットとウルウル選手のジャンピングラリアットで』
『決まったー!! 必殺のツープラトン! 二つのラリアットがクロスしたあぁぁぁ!!』
どわぁっ
会場がどよめいた。
しかし
『良く見てくださいミコルル選手を』
『ん? な、なんとミコルル選手、間一髪急所は外したかー!?』
『一瞬飛び上がってレッグラリアットの打点をずらし、下からのラリアットには腕を挟みましたね』
あ、危なかった。
覆面レスラーならマスクが取られて反則負けになるところだった。
でも
『なるほど、好判断で必殺攻撃を凌いだミコルル選手、素晴らしい!』
「立てー! ミコルル!!」
「しっかりー!」
『しかしダメージは軽くなーい! マットに倒れたミコルル選手。レフェリーがカウントを取り始める! ワーン、ツー!!』
『これはミサ選手が放っておきません。リングイン、ミコルル選手に駆け寄ります』
「させないっす!」
『当然キャミィ選手もこれを妨害に行く! 二人の激突か〜!?』
『おや、ミサ選手のフェイントでしたか。急反転してロープに体を沈めましたね』
『そして、タイミングを外されバランスを崩したキャミィ選手にぃ……強〜烈、な、ドロップキーック!! キャミィ選手を校舎前までぶっ飛ばしたああ!』
『信じられない威力です。リングアウトのカウントが開始されます』
『ミサ選手、ミコルル選手に肩を貸し立たせました! カウント中断です! ミコルル選手ロープにもたれて回復を図ります! マムマム選手とウルウル選手、ミサ選手を警戒しキャミィ選手のことも気になり追撃できない!』
『キャミィ選手間に合いそうです。リングインで復帰です』
『互いにダメージを抱えてますが振り出しに戻りました! さあ両者次はどう出るか!?』




