第二十八話 アイドル事変(その四)
そろそろ観戦を終了して準備せねば。
体育館裏の控え室へと向かう。
ニヤニヤしたジャンネとアラシュがついて来る。
「何ですか二人とも。変な顔して」
「いいからいいから。友達の晴れ舞台が楽しみなんだよ〜」
「晴れ舞台って、私たちは規律に反した下級生にお仕置きをしに行くんですからね」
「分かってるって」
「よし、来たな」
体育館裏の控え室に到着。
クイラ先生のお出迎えだ。
「さあ着替えるぞ」
そう言えばプロレスの服装ってどんなだろ?
体操服だと破れちゃうし、道着を使うような絞め技など習っていない。
今更な疑問を抱く私たちの前に、ジャンネとアラシュが衣装箱を持って来た。
「ご苦労! さあ、主役の二人に披露してやってくれ!」
ババーン
箱は開けられ中身がバッと広げられた。
な、なんじゃこりゃぁ!!??
「な、な、なんですか! この破廉恥な服装は!?」
ミコルルに同感だよ!
ジャンネとアラシュがイヤらしい顔をして掲げたのは、薄く滑らかで小さな布地……
って、スク水だろこれ!
「これが伝統的なプロレススタイルだ!」
酷い!
絶対嘘だ!
「まあだが、貴様らは有望とは言え素人だ。この姿はまだ早い。私が着ておこう」
着るんかい。
とにかく助かった。
ちゃんとしたやつ出してくださいよ。
「不本意であるが、此奴らが貴様たちのためにと考案したスーツがある。それを使うといい」
ちょっと、アラシュさん、ジャンネさん?
な、なぜまだニヤニヤしているの?
不安に駆られる私たちの前で、二人がスク水の下から取り出したのは、アイスブルーのセパレート……
って水着だろそれも!!
肩と胸にフリルが付いて、下半身はスカート付きの三角パンツ。
着られるか!
今からガチバトルやる奴の服装じゃないでしょ!
一応上は肩を覆ってポロリはしなさそうだけど、このデザイン、谷間と横乳が見えるよ絶対。
後輩たちと違って私はそこそこあるんだからな!
ミコルルなんて意外とナイスバディなんだぞ。
雪女だからその辺の魅力も結構あるんだからね!
水着着る雪女なんているか!
「いや! もう残念、無念! な」
「ホントだよ〜。せっかくデザインしたのに自分で着られないなんて〜。ね」
き、貴様らぁ。
貴様らがこの水着来たら……
ジャンネは公然わいせつでアラシュはロリコン罪確定だぞ!
イヤよイヤよと言う私たちの前に、スク水に着替えたクイラ先生が現れた。
白衣を着て眼鏡を掛けている。
ガク
私たちは退路を断たれたことを悟った。
「もうすぐ出番で〜……す……」
ああ、呼びに来てくれた事務員さんが固まってしまった。
そりゃそうだよ。
こんな水着の人物なんて不審者じゃん。
すいませんホントもう。
「そ、そういうのも」
ん?
「そういうのもイイですね! あえて正統派から外れた反逆者スタイル? よっ、お二人さん! マッスル期待してますよ!」
マッスルって何だ!?
ガチムチじゃないのに!
……ハッスル? ハッスルなのか!?
この人もプロレスファンなのか。
そしてこの世界のプロレスってどんなんよ。
今更だけど。
ううむ、よし!
ここまで来たら後戻りできん。
開き直って堂々と出て行ってやる!
「よっ、魅惑の白肌! 太ももが眩しいよ!」
オジサンか、このお姉さん。
すいません、やっぱりジャケットとか着させてもらっていいですか?
え、無いの?
ショボーン。
コンコン私もミコルルも落ち込んでいると、控え室のドアがノックされた。
応対に行ったのはアラシュ。
「あれ? 君は寮の、それに食堂のお姉さん」
「すいません、ミサお姉様がこちらにいらっしゃると伺って」
「ごめんね。ちょっとお届け物があるんだよ」
タ、タクララちゃんにミノンさん!?
タンマタンマ、こんな姿見せらんないよ!!
キュッと身を縮めてしゃがみ込んだのは無駄な抵抗だった。
そんなことで隠せるわけもないのだから。
「キャッ!」
タクララちゃんの短い悲鳴が私に降り掛かる。
顔が熱い、体中が熱い。
お願いだから見ないで〜。
「あらあら、珍しく露出の多い格好じゃない。でも細いねえ。そんなんじゃオークの男にゃモテないねえ。あっはっは」
「ミサお姉様、か、かわいい」
うう、タクララちゃん顔赤いよ。
無理して言ってない?
「さあさ、立って立って」
ミノンさんに促され私は立った。
腕で胸を隠し両ももを寄せ、極力体を隠しながら。
「そんな寒いかい? でもちょうどいいか。タクララちゃん、ほら」
「はい!」
タクララちゃんがハラリ、と私に掛けてくれたのは、一着のガウンだった。
「え、と、これは?」
「タクララちゃんね、ミサちゃんが闘技会に出るって聞きつけて、こっそりこれを作ってたんだよ。お裁縫教えてください、って私に頼んできて」
これを、タクララちゃんが?
ミノンさんも……
「どうですか……?」
少し硬い表情でタクララちゃんが尋ねてくる。
あ、この生地って、魔物ドロップで余った物をプレゼントしたやつかも。
いや、そんなことはいいか。
縫い目を触る。
とても丁寧に縫われ、目立たないように返してある。
ボタン位置も正確。サイズも私にピッタリ。
これを三週間程度で作ったって?
普段仕事してるのに。
ガウンに袖を通してバサッと翻してみた。
「カッコいい」
思わず呟いた。
白地に焦げ茶の羽根を模したような柄は、鷹のイメージかな。
タクララちゃんらしいや。
ほう、と周囲からも感嘆の溜息が聞こえる。
「良かった……」
タクララちゃんが顔を綻ばせた。
可愛い。
「その下着も可愛いけど、ガウンもよく似合ってるよ」
「ありがとうタクララちゃん、ミノンさん。すごく嬉しいよ」
偽りなく嬉しい。
二重の意味で。
下着と評されるこの格好を、カッコいいこのガウンで隠せるのだ。
「ミサ? まさか一人だけ……」
氷点下の眼差しがミコルルから注がれる。
いいじゃない!
元はと言えば私は巻き込まれた側なんだからね!
「あの、もう一着あるのですが、よろしければ受け取っていただけますか?」
「ください!」
ミコルルのこの食いつきよう……
こちらは紅白のガウンだ。
これも私があげた生地だったかな。
裁縫練習用の。
私のガウンを作る前の試作品のような気がする。
よく見ると少しバランスが取れていないところがあるし。
でもちょっと巫女さんぽいからミコルルに合っていて、作りの拙さはごまかせそう。
「いいですねこれ!」
「気に入っていただけて嬉しいです」
目が泳いでるぞタクララちゃん。
「そんなもの着ても試合が始まったら脱ぐのに」
クイラ先生は恥ずかしくないんですか?
ないんだろうな。
「最終試合が終了しました。この後特別試合が行われます。体育館からグラウンドの中央、校舎にかけてのルートを開けて待機していてください」
校内放送が流された。
ああ、いよいよ始まってしまう。
でもさっきよりずっと気は楽だ。
私はガウンの左襟を掴み開ける前を隠すと、ヨシ、と気合いを入れて控え室を出た。
「すげえぇ、リングだろアレ!?」
「うおおお、本格的じゃん!」
「キャミィちゃあぁぁん!」
「マムマムちゃあぁぁん! ウルウルちゃあぁぁん!!」
「ハァハァミサお姉様」
体育館からグラウンド中央の特設リングに向けて、花道が出来上がっている。
逆サイドの校舎側も同様、ロープで堰き止められた観客が早くも熱狂の渦にいる。
闘技会ですっかり場が温まっているようだ。
う、これだけの興奮と注目に晒されるとやっぱり気圧されるよ〜。
ブシュー ブシュー
突然校舎前の地面から煙が噴出した。
ピンクとオレンジと水色の三色の煙だ。
観客の目は一気にそちらへと向かう。
「みんな〜! 今日は集まってくれてありがと〜!!」
左右の観客に向けて手を振りながらリングに駆けてくるのは、後輩たち解散アイドルだ。
派手な登場しやがって。
服装は……
ホットパンツにカウボーイハット、ミニスカセーラー服、スリットの深いチャイナドレス。
軽々とロープを跳び越えしてリングインした。
プロレス正装はどうした!?




