第二十六話 アイドル事変(その二)
後輩がマムマムとウルウルたちお供ズの手を引き、ジャンネとアラシュがミコルルの手足を抱えて、双方を引き離した。
その間私は、忍者修行をしているであろうヒュウガ先生を探しに山へ入った。
道中でカエルが跳ねた。
突然ヒュウガ先生が死んでないか心配になった。
メカ忍者を倒して巻物が出るものと早とちりして、カエルを取ってないだろうか。
しかしよく考えたら忍者違いである。
変な勘違いをしてしまった恥ずかしさを忘れるように、急ぎ足で山を駆ける。
あっ、先生が降ってくるチクワを取ろうとしている。
危ない!
それは鉄アレイです!
違った。
忍者修行だ。
石やら枝やらを混ぜた土魔法で作った塊を空中で破裂させて、降りかかる屑の中から特定の物だけを取るやつ。
ステージクリアのボーナスを参考にして考案したものだから、先の誤解と合わさってまたまた勘違いしてしまった。
避けそこなった石に頭をぶつけ蹲る先生に近づく。
見いちゃった〜見いちゃった。
「いや、これは恥ずかしいところを見られてしまったな。ところでどうかしたのかね? 私に用があるようだが」
鋭いですね。
ありますとも、厄介な用が。
チョメチョメうしうし。
「何と言うことだ。うちのクラスの者が中心になってそんな問題を引き起こしているとは……」
よく考えたら、この人うちの後輩のことで既に何か悩みがあるんだった。
それなのに今回の問題の中心にいるのもまたうちの後輩。
いいや、気づかなかったフリをしておこう。
何か手伝えることがあれば協力は惜しみませんので、それぐらいで勘弁してください。
「ことがそれ程大きくなったとするなら、ブッドー先生たちにもご相談せねばならんな」
関係先が段々と広がり、とても小ぢんまりと纏まるような話ではなくなってしまった。
一体どうなってしまうのか。
最早ゾンビッシュ君の嘆願書など風の前の塵に同じ。
「ホッホッホ、困りましたねえ」
笑顔のブッドー先生、石なのにアゴ肉がタプタプってなってる。
硬いのか柔らかいのか、本当に困っているのか大して困ってないのか、色々と分かりにくい人だ。
「すいませんうちのクラスの生徒が!」
誤解ですモルガノ先生!
問題を起こしたのは一年生ですよ!
「まさか学級委員のゾンビッシュ君までそんな活動を応援していたなんて」
誤解していたのは私だった。
今、一年生と二年生の先生の何人かが集まっている。
宿舎に戻らず職員室でまったりしていた方々が捕まった形だ。
哀れとしか言いようがない。
「ううむ、しかし良く考えたものだ。整った見た目と際どい服装、それを歌と踊りによって絶妙に変化させている。卑猥さではなく可憐さに」
リッズアド先生のアイドルについてのこの評価。
概ね的を射ているかもしれないけど、まずそうな食リポっぽい言い方だ。
「イベントを計画し、会場を設定したりする行動力は素晴らしい。だが、営利の活動は認めるわけにいかんな」
デスシックル先生の鋭利な腕が鈍い光を放つ。
この人こそ一撃必殺技を持っている……
いや、カテゴリーが違うな。
クリティカルとかそっち方面だ、このリーサルウェポン先生は。
ところで何故この二人の先生が、当事者を褒めるようなことも言っているかと言うと……
「みんなー、今日もありがと〜!!」
「タッチミー……♪♪♪ウーキウキ……」
後輩とお供ズがアイドル活動とは何ぞやとを、先生方の前で披露しているからである。
このメンバーを前にしてこの雰囲気の中で、よくそんなノリノリで歌って踊れるよね。
精神力ステータスがカンストしてるんですか?
ジャンネとアラシュなんか冷や汗垂らして直立してるし、ミコルルは嘆かわしいと言わんばかりに目を両手で覆って震えっぱなしだ。
さすがに十代前半のお子ちゃまのダンスに目を奪われる大人はいない。
……モルガノ先生以外。
「ハイ!」
後輩たちが腕を突き上げると、モルガノ先生も釣られて腕を上げそうになってるし。
ダンスに合わせて小刻みに体が動いてる。
そんな活動の応援、とか言ってゾンビッシュ君たちのことを恥じるような素振りを見せていたのに。
まあ確かにこの、ライブの臨場感というか、高揚させる魔力のような熱はある。
こういう熱に当てられる人がファンになるんだろうな。
「とは言っても既に会場の設営は進められ、金銭や物品の返還も容易ではありません」
モルガノ先生を除いて真剣な話は続いている。
「なに、我々で公式の機会を作り、与えてしまえば良いのですよ」
フン、とニヒルに笑い提案したのはクイラ先生だ。
この人も大概トラブルメーカーのニオイを振り撒いてるんだよな。
とりあえず続きを、どうぞ。
「どうせもうすぐ前期末テストでしょう。その最終日にしましょう」
「最終日と言えば、闘技会ではありませんか。そんな日に、このアイドル活動とやらをさせるのですか?」
そうか、一年生は前期末に闘技会をやるのか。
「アイドル活動とやらはダメです。させるのはプロレスです」
なんで!?
ほら、他の先生方もキョトン顔してるでしょ。
後輩たちだって動きを止めて「え?」って顔してるじゃないですか。
クイラ先生はニヒルな顔を崩さない。
「アイドル活動を許しては今回多くの学生を巻き込み、学内の秩序を乱した変事を許すと解釈されてしまいます。ここは懲罰として、同じ見せ物でもプロレスをさせ、この活動を助長させた者にも反省させることが必要でしょう」
どう言う理屈なんだ!?
ええと、今の理論を整理しないと……
「クイラ先生がプロレス好きなだけなのでは?」
そう言うことか!
その指摘をしたのはデスシックル先生。
鋭い目つきが腕の刃からの反射光で余計鋭く見える。
「そ、そんなことはありません! ただ、見せ物に投資をした者たちの感情と興行性を満たし、アイドル活動は学校から禁止することを分かりやすく示し、尚且つ彼女たちの修練になり、魔法ばかりに凝り固まっているだろう観戦者に物理戦闘の重要性を認識させる一助になるだろうと考えた次第で、はい!!」
初めて見るクイラ先生の焦った態度。
どんだけ恐ろしいのよ、デスシックル先生。
「そうですか。しかし彼女たちの戦闘能力が低ければ、ただの滑稽な見せ物に成り下がる可能性もありますよね。他者から見える形の懲罰というものは、私の好むところではありませんねえ。特にこの、学びの場においては」
教育者としては素晴らしい考えをお持ちのようだ。
ただ、鋭い刃の付いた腕をジャッ、ジャッと打ち鳴らしながら言うのはやめていただきたい。
クイラ先生がガクブルしてるじゃありませんか。
「実は彼女たちの身体能力は、一年生でトップクラスなんです」
ここでヒュウガ先生の補足が入った。
「魔法に関しては種族特性もあって、安直に優劣をつけられるものではありませんが、こと戦闘力に限ると……かなりのレベルにあると評価しています」
少し言葉を濁したのは問題児である後輩のせいだろうか。
「ホッホッホ、デスシックル先生、彼女たち三人の内一人は寺院からの推薦者ですよ」
「なんと、ではこちらのミサ君の……」
「はい、妹です」
名目上ですけど。
デスシックル先生は唸っている。
「ううむ、寺院出身であるならば、進んで規律を破るとは考えにくい」
「節穴か」
モルガノ先生!
死にたいんですか!?
失言に気づき慌てて自らの口を手で塞ぐモルガノ先生。
良かった、デスシックル先生には聞こえなかったようだ。
「よし、私は賛成しましょう。プロレス開催に」
クイラ先生がガッツポーズをした。
やっぱこの人自分がプロレス好きなだけなんじゃ。
結局、他に妙案も出ず、自称アイドルの三人はプロレスをすることになった。
しばらくして気づいた……
プロレスプロレスって言うけど、プロじゃないだろ!
ど素人レスリングだよ、ただの。




