第二十五話 アイドル事変(その一)
ゾンビッシュ君は我が五組の学級委員だ。
学級委員と言えば〜?
――私としてはオヤジ顔のリーダーが良かったが、彼は丸眼鏡の真面目キャラである。
噂によると学級委員は成績に幾らかの加点がされるらしいのだが、先生の小間使いの如く授業準備に動く彼を見て、あるか無きかの加点目当てに役割を代わろうと言う人はいない。
これが立候補でなった役なら、まあ仕方ないねで済むのだが、彼の場合はみんなからの指名で役を拝している。
恐らく眼鏡をかけているからだろう。
学級委員あるあるである。
つまりそんな不幸な学級委員様の頼みとくれば、クラスメイトは進んで協力せねばならないのだ。
「ミサ君、協力してもらいことがあるのだが……」
はい! 喜んで!
姿勢を正して敬礼すると、困ったような顔をしてやって来たゾンビッシュ君は表情を和らげた。
「助かるよ。男子じゃ解決しそうにないことだったから」
なに?
女子寮内の問題?
「実は一年生とのいざこざで」
抗争とかあるの?
女子に仲裁役をやってもらいたいってことですか。
「一年生にアイドルって言う可愛い女の子のグループがいるんだけど」
ん?
何か嫌な単語が聞こえたような。
「その子たちのファンになったうちのクラスの男子たちが、アイドルの親衛隊って言う奴らと揉めちゃって」
うわ、もう聞きたくないわ〜。
間違いなくとてつもなく下らない話だわ〜。
「『ボクたちのために争わないでほしいっす! そんなことするなら解散するっす!』ってアイドルのリーダーに言われちゃったんだ」
後輩だよそれ!
解散させてくれ!
で、それにどう協力するのかね?
解散を促せば良いのかね?
「それを解散させるなんてとんでもない!」
売ってはいけない貴重品みたいな言い方しないでよ。
捨てるを選択してもいいんだからさ。
って、その言い方もしかして……
「僕もファンなんだから! 解散されたら絶望するしかないでしょ!」
知るか!
「頼むよ〜。親衛隊の奴らと仲良くせずにアイドルを解散させない方法、考えてくれよ〜」
未来の猫型ロボットに無理難題を吹っかける零点マンか。
そうやっておねだりする時は、オチで大抵痛い目に遭うんだぞ。
そしてよく考えるとゾンビッシュ君、あたかも第三者であるように振る舞っていたよね?
汚いぞ、このアイドルオタクめ!
それはそうと、親衛隊と仲良くすればいいんでしょ。
女子関係無いじゃん。
「だって親衛隊の奴ら、護衛みたいにアイドルを取り囲んで僕たちファンを邪険にするんだから」
親衛隊とやらは、やれ「五メートル以内に近づくな」だの、やれ「ジロジロ見過ぎるな」だのアイドルへの独占行為が酷い、と言うのが彼の主張だ。
そんな不遜な輩に媚びへつらいアイドルの前に立つことなど、とても許せるものではない。
だから争いはしないが親衛隊が幅を利かせる現状を改め、ファンの間のルールを作る。
そのルールを公式のものとしてアイドルに認めてもらうのに、私の仲介を求めると。
しょうもな。
とてつもなく気乗りしない。
が、後輩の活動が招いた争いと言えなくもない。
とすると監督者たる私が何かしら解決に向けて行動することは、まあ義務のようなものだろう。
本当解散させたろうかしら。
私はゾンビッシュ君の認めたルール書きを携え、ミコルルたちと共に一年生寮へと向かった。
「あ、姉様。どうしたんすか? もしかしてファンクラブへの入会希望っすか?」
やはりキサマか。
出て来た後輩はフリフリ過多の服装で、キャピキャピしている。
「あ、久しぶり」
「ミコルル、どうしたの?」
何てこった。
階段を下りて来たマムマムとウルウルも同じような格好じゃないか。
まさかとは思うが。
「ボクたち三人でアイドル活動してるんすよ。歌って踊ってバトルもできる。上級生にもファンが増えてきたんすから」
あああ、頭が痛い。
ミコルルの視線も痛い。
ミコルルごめん。
うちのバカがあなたの妹分を巻き込んでしまって。
「その内一学年の半分くらいアイドルメンバーにして、グループ名も正式に決めたいすね。ヘルミッショネル四十八みたいな」
マスク狩りと殺人技がごちゃ混ぜになったみたいな名前になってるぞ。
キン肉超人系アイドルか。
「解散しなさい」
私じゃない。
冷たく言い放ったのはミコルルだ。
「何で」
「いくらミコルルでも横暴は許さない」
お供ズの二人はいつになくミコルルに反発している。
ピリピリした空気漂う場になってしまった。
気付けばジャンネとアラシュはこっそり距離を取っていた。
渦中に取り残されたのは私だけ。
避難するよ、って袖でも引っ張ってくれれば良かったのに。
不満げに二人を睨むと、彼女たちは苦笑いで肩を竦め、そっぽを向いて私をあしらった。
「横暴ではありません」
そんな私など眼中にないように、ミコルルは厳しい言葉を投げつける。
「そんな下着の見えそうな破廉恥な服装で、アイドル活動などと言う明らかに学業と関係無いことにうつつを抜かす。弛んでいるとしか言えませんね。正道に戻るよう諭すのは、あなたたちの保護者として当然の行為でしょう」
「下着が見えないようにするのも修行。現に私たちは未熟だからレギンス履いてる」
「学業だって疎かにしてない。実際私たちはそこそこの順位にいるはず」
成績のことは置いといて、お供ズの方が屁理屈に聞こえること請け合い。
「そこそことは何ですか。私たちは故郷を代表して来ているのですよ。もっと真剣に勉学に励まないでどうするのです」
だが熱中の只中にいる人を正論で責めて、それが受け入れられるかと言うと、必ずしもそうはいかないわけで。
「勉強だって手を抜いてない! これはちょうどいい気分転換になる課外活動!」
「このまま行っても、少なくとも実技では一年生修了時に当時のミコルルを超えることは間違いない!」
ほらほら、ミコルルとお供ズの間で会話の温度差が出てきたよ。
「何ですって!」
そしてミコルルの方がお供ズの熱に引っ張られちゃった。
挑発か自信か分からないけど、お供ズの超える宣言にミコルルが過剰に反応。
案外負けず嫌いなんだからこの子は。
「ど、どうしよう姉様」
君はこのグループのセンターじゃないのか後輩よ。
どうしようじゃなくてビシッと収めなさいよ。
「もう解散しなさい」
それが一番手っ取り早いでしょ。
「そ、それはできないんす」
なぜ。
「だってもう大量のプレゼントとかもらっちゃってるっす。それにライブで予約した体育館とか、握手会とかのイベントのチケットがあちこちに……」
最悪だ。
大規模イベントでしかも金銭がらみときたか。
このクラスの担任は一体何をしていたんだ。
……ヒュウガ先生か。
放課後はあれこれやってたわ、あの人。
ほったらかされた子どもやクラスが、転がり落ちる典型を見せられているようだ。
どうしよう。
ミコルルとお供ズはヒートアップしてきてるし、アイドル活動も収拾つきそうにない。
私は助けを求めるようにジャンネとアラシュをチラリと見た。
遠っ!
さっきよりもずっと離れて立ってんじゃん。
今までの話を聞こえなかったって言い訳して、関わり合いを避ける魂胆だな。
そんなことはさせないぞ。
絶対巻き込んでやる。
「よろしい。決闘です」
「ちょ、ちょっと……」
後輩が間に入ろうとする。
「そちらは二人で構いません。格の違いを教えて差し上げます」
「バカにして……!」
「二年を待たずにここで超える……!」
ああ、互いに油を注いで火を付け合っている。
後輩が救いを求める目でこちらを見る。
もうダメだ。
こうなったらヒュウガ先生呼んでなんとかしてもらおう。




