第二十四話 帰ってよ
呪い属性は相手に不利な状態異常を与えたりステータス低下を与える、要するにデバフと言うことで良いのでしょうか?
「もちろん他にもありますよ。軽く披露いたしましょうか」
オシティ先輩は魔力を高め始めた。
その前に呪印解除してもらえません?
……とは集中する先輩に言い出せず、三角座りをするタクララちゃんの隣に座った。
ワラワラワラワラ
「ひっ」
床から黒い手が生えて来た。
タクララちゃんは慄いている。
肘から先辺りの黒い手は、仲間を呼んでいつまでも増える伝統のモンスターみたいだ。
攻略本で経験値稼ぎ中級として紹介されていたのは、Ⅱの頃だったと記憶にある。
床から壁から天井から生えた十三本の手が私たちを取り囲んでいる。
一本が手を差し出してきたので握ってみよう。
フン!
ブシャッ
秘孔を突かれたザコみたいに無惨に飛び散ってしまった。
「乱暴しないでください! デリケートなんですからね」
怒られてしまった。
一つ一つに一般男性の握力ぐらいはあって、強度は大の大人が踏みつけると壊れるぐらいらしい。
それだけあったら数人の行動を十分阻害できてしまう。
恐ろしい魔法じゃないか。
「補充できないんですよ!」
一度出したら全部消滅するまで新たに出すことはできないそうだ。
見つけたら速攻で潰すことが推奨される、と。
空中には飛び出せないことも判明。
ふむふむ。
不意を突かれなければ対処は難しく無さそうだ。
先輩としては仲間と連携していかに敵の動きを封じるかが、チーム戦を制する要となるだろう。
「私の戦略についてはいいんです、今は」
そうでした。
これが全てではないようだが、ここまでで性能紹介は終了。
本題の呪印研究に話を戻された。
やだなぁ。
呪印状態で魔法を使おうとしてみる。
火から順番に。
「なるほど、確かにちょっと抵抗を感じますね」
家庭で一回に出せる水量に制限があるのに、別々の水道でお風呂を入れながら食器洗って顔を洗ってるような感じ。
蛇口ひねっても水が出ない。
闇属性除き基本属性終了。
「やっぱり凡人種の方は属性が豊富ですね」
「もうちょっとありますよ」
雷属性終了、気属性終了。
「そんなものまで……!」
紫電を走らせる私の手を見て先輩は目を見開いている。
しまった。
同じ属性を使えるんだから後輩にやらせれば良かった。
思いついたのが今となっては遅すぎる。
無念。
さて、どの属性も一律に抵抗を受けた感覚があったが。
「さ、残るは闇属性ですね」
嫌だなぁ。
消してやるか。
こっそりと呪印に魔法を当ててみる。
消しゴムの如く消せないだろうか。
「そんなことでは消せませんよ」
くそ、バレていた。
どうすればいいのだろうか。
「はい、どうぞ」
仕方なしに闇属性魔法を使う。
……おや?
変わらないな。
「何ともないです」
幾つかの闇魔法を試したが、他の属性と同じく魔力が注ぎにくい感覚しか得られなかった。
「では生活魔法を」
え〜、やっぱりやるんですか。
仕方ないなぁ。
心の準備をして……
えいやっ!
ふぅ、少し視界が揺らいだが心構えを取っていた分、前より随分マシだったな。
理由は分からないけど、生命力に直接影響する魔法はヤバいのかもしれない。
「オシティ先輩、魔力を使いきってください」
「何ですか?」
「大事なことを確かめたいんです。あ、ご自分に消費魔力増加の呪印を施して」
先輩は呪いの手を作っては一斉に消して、また作ってと繰り返し魔力を枯渇させた。
「魔力切れです。これからどうするのですか?」
「では一旦魔力補充してください。それからまたやっていただくことがありますので」
「? そうですか? では、はぁぁぁぁぁあ……あ? あ?」
「きゃぁあ! い、いきなり倒れたあ!?」
先輩は白目を剥いて私のベッドに仰向けに倒れた。
うん、やっぱり魔力消費量を増やすと、魔力を回復させる時の生命力の消費量も増加させるみたいだ。
早めに見つけられて良かった。
これが自己消費だけに影響するのか、それとも他人に向けての闇魔法、エナジードレインやエナジーフローにも影響を与えるのかは調べないといけないな。
「よいしょ、と」
「ミ、ミサお姉様、どこへ?」
「保健室へ。タクララちゃん、ここの出来事はナイショにしといてね」
タクララちゃんはお口を押さえながらコクコクと頷いてくれた。
バレてもオシティ先輩の暴走だからいいんだけどね。
あまりおもてなし出来なかったことを謝り、二人して部屋を出た。
「あらあら、またオシティさん来たのね。新しい常連さんの誕生かしら?」
キュアプリン先生は、困ったわ、とプルプルしている。
「多分、後一回は来ると思います」
「そうなの? ううん、このぐらいならライフポーションは不要ね。今日は魔法を使わずしっかり休むこと。いいわね?」
承知いたしました。
しっかり言っておきます。
気付けの魔法をプリンと施してもらって、なんとか立てるようになった先輩に肩を貸し保健室を後にした。
「や、やってくれましたね」
恨みがましく耳元で囁いてますが、逆恨みというやつですよ。
呪わないでくださいよ?
「まあまあ。これで闇魔法だけでなく、魔力を使って生命力を消費する場合も効果が増幅するって分かったんですから」
問題はこれが他者の生命力に影響を及ぼす魔法について影響するかどうかだ。
もし他者の生命力を減らす魔法もパワーアップするとしたら、それはとても恐ろしいことである。
呪印→ライフドレイン(効果大)の極悪コンボが完成してしまう。
そんなお手軽チート技を許すわけにはいかない。
発覚と同時に対策会議を開催する所存。
あ、でももうちょっと複雑な工程を踏んでからだったら有りかな?
文字どおりの必殺、俗に言う即死技。
想い〜が〜
テーレッテー
に代表されるフィニッシュだ。
陸上競技会になるとガクッと来るけど、あのフィニッシュはカッコ良くて好きです。
いやこれは困ったな。
お手軽技は阻止せねばならないが、即死技は完成してもらわないと。
夢が広がるなぁ。
「もしもし、もしもーし。ダメですね。一体何を一人でニヤニヤしているのでしょうか。もしかして先程の実験の後遺症? 私のせいなのでしょうか」
よっ!
オシティ先輩!
戦国格ゲー界の期待の星!
ピピピ〜ピ〜ピピピ ピピィピーピーピー
即死フィニッシュを決めた時の挿入歌を口笛吹き吹き、私は先輩を三年女子寮まで送って行った。
「明日も来てくださいね」
そう言った私に対して先輩は、じっとりと湿り気を帯びた視線を向けて帰って行った。
翌日の放課後。
ガラガラ
たのもー
「あ」
「あ」
職員室の戸を開けると、モルガノ先生は涅槃仏のように横たわり、片手は枕に使いもう片方の手はお菓子を口に運んでいた。
悲劇は繰り返されるものなのか。
リターン!
ガラガラ
コンコン
「どうぞ」
淑女然とした声が戸の内から返された。
こんにちはモルガノ先生。
「お休みのところ失礼いたします、モルガノ先生」
「オ、オシティさん」
モルガノ先生は私の後ろのオシティ先輩を見て冷や汗を浮かべている。
(もちろん大丈夫です。私しか見ておりません)
(ほ、本当でしょうね?)
堂々と頷くと先生も安心されたようだ。
で、私は早速訪問の理由を先生にお話した。
「ちょっと、学生にそんな危険なことをさせるわけには……」
先生は渋い顔をしている。
「あ、そうだ」
ところが何か思いついたらしく、部屋の奥へ引っ込み、すぐに戻って来た。
クイラ先生を伴って。
「ったく、用件を言え用件を……ん? コイツは三年生の。どういうことだモルガノ」
「はいはい、お待たせしました。実験と言えばクイラ先生ですよね。ではどうぞ」
「あ?」
怪訝さを露わにするクイラ先生に事情を説明。
「ありがとうございます。クイラ先生に監修していただけるとは光栄です」
「ほう、貴様も分かってるようだな。この駄教師との違いが」
モルガノ先生は口元を引き攣らせながらも笑顔を保っている。
絶対何か企んでるじゃん。
「では、実験どうぞ」
モルガノ先生はクイラ先生の両肩を持ち、オシティ先輩の方へとグイと押した。
「む」
クイラ先生が口をへの字に曲げている間に、オシティ先輩がクイラ先生の体を受け止め、呪印を施した。
え、そんなことやっていいのかな……
私の思ったとおり、モルガノ先生がクイラ先生にエナジードレイン一発。
「お? あ?」
立ったまま上半身をフラフラとピヨらせるクイラ先生。
結論、呪印は他者からの生命力吸収・漏出魔法の威力を増やすことはなかった。
あくまで呪印を施された本人の魔力消費量と、魔力を使った生命力消費を増加させるものだったというわけだ。
その後、モルガノ先生とクイラ先生の間で取っ組み合いのケンカが始まったことは言うまでもない。




