第十九話 それが答えだ
私はモルガノ先生の先輩こと、ヒュウガ先生にも、かくかくしかじかお伝えした。
あ、それと後輩がお世話になってます。
ご迷惑をおかけしてませんかね?
「かかってるよ、ご迷惑」
え!?
ボソッと言ったけど私は聞き逃さなかったぞ!
す、すいません。
よく言い聞かせておきますんで、どこが良くないのか教えてください!
「いや、これは俺の教師としての能力の問題でもある。君が気にすることではない」
「分かりますよ」
モルガノ先生が優しい顔をしてヒュウガ先生の肩に手を置いた。
ヒュウガ先生はパシッとその手を払い除けた。
「まあそんなことより、だ」
遠くを見ていたヒュウガ先生の目に力が戻った。
「魔法以外の力を求める君の気持ちは良く分かる。俺も凡人種だからな」
人種は関係あるのだろうか?
まあいいや。
適当に頷いとこ。
「もしかすると君とキャミィが、その年にして気属性を扱えるのも、そこから来ているのかな。いや、理由はこの際関係無いか、失礼」
一体ヒュウガ先生の頭ではどういうストーリーが展開されているのだろうか。
「ところで君たち姉妹は少し勘違いをしているようだから言っておこうか」
?
「魔力は間違いなく己の体から絞り出すものだ。血肉のように見えはしないが、体力のように使えば疲労する。二年生なら魔力チャージは習っただろう?」
習いましたが、あんなの気力ゲージ溜めと同じですよ。
後輩にもこっそりやらせてみたが、やはり何とも感じていなかったみたいだし。
「これで魔法使いたい放題っす!」って言ってたぐらい。
「魔力チャージを一年生に教えるのはやめてほしかったがね。基礎ができずにチャージに手を出すと倒れる者もいるのだから。広まらなくて良かったが」
う、ごめんなさい。
人前でやるなと釘を刺しておいたのに、後輩め。
モルガノ先生が白い目でこちらを見てくる。
それにしても一応体力は使っているのか。
じゃああまり魔法憎しと制限を設けるのも考えものかなぁ?
でもみんな似たような魔法弾を撃ち合うのも格ゲーとして没個性じゃない?
キャラが全員カンフーメンな格ゲーなど、誰がやりたいと思うだろうか?
――そうか。
今分かった。
私はその人ならではの、その人だけの飛び道具を欲していたのだ。
「話を戻そう」
私がようやく知った熱い思いを伝える前に、ヒュウガ先生が話を始めてしまった。
「魔力量はさておき、魔法適性は如何ともし難い。我々凡人種は、魔法威力では他種族に大きく劣るのだ。だから俺は魔力に変わる力が無いものかと、ずっと考えていた。それこそ学生の頃からな」
「ヒュウガ先ぱ……先生」
何か回想シーンにでも入ってしまいそうな勢いだったが、そんなことはなかった。
目に妙な光を宿らせたままヒュウガ先生は続ける。
「身を削る。やはりそれしか無いだろうと思う」
「でも身を削って魔力を補充しても仕方ない、先輩が言ったことですよ」
「げ、クイラ」
奥の部屋から現れたクイラ先生を見て、モルガノ先生は顔を顰めた。
「教師なんだから俺のことは先生って呼べと言ってるだろ。クイラ先生」
「自分で担任してる生徒の前ではそうしますよ、先輩」
先輩って言ってはいるけど、腕組みして踏ん反り返ってて偉そうだ。
ちびっ子だけど。
言っても無駄だと諦めたか、ヒュウガ先生はやれやれと肩を竦める。
「彼女とその妹は気属性魔法を習得している。そう言えば俺が何を考えているか、分かるだろクイラ先生」
クイラ先生の眉がピクッと上がった。
私の方をジーっと見ている。
「あなたのファンです」
私は偽らざる思いを述べた。
「ワハハ! やはりお前か! モルガノのクラスなのに見どころのある奴な!」
愉快そうに笑いながらクイラ先生は奥に引っこんだ。
と思ったらすぐ戻ってきた。
眼鏡をかけている。
目つきが悪いと思ったがそういうことだったか。
「気属性。気属性の性質は集中と分散……なるほど。先輩の考えてることは大体分かりました。魔法の二重行使をするんですね?」
「さすがだなクイラ先生」
「そこの尻と乳にしか栄養の行ってない女と違いますからね。おっと、最近は腹にも行ってるんだったか」
私たちの視線がモルガノ先生のお腹周りに注がれる。
「見ないで! 適当に言ってるだけだし! 万年お子ちゃま体型女の僻みだし! 妬み嫉み! チビ!」
どさくさに紛れて普通の悪口が聞こえたぞ。
「あぁん!?」
「おぉん!?」
首を傾け唇を捻じ曲げ、上下で睨み合う二人は本当に先生の資格を持っていらっしゃるのか。
こういう人がいるから、教員資格の再受験制度うんぬんの声が上がるのではと思わんでもない。
「やめろ。なぜお前らはいつも喧嘩するんだ。仲良くできないならお互い離れろと、学生の頃から言ってるだろ」
「コイツがいつも私の真似するんです!」
「お前がいつも私の後をついて来るんだろ!」
睨み合いの止まらない二人を置いて、ヒュウガ先生は私たちを連れて外へ出た。
「魔法の二重行使は一年生で習うことだが、君は分かるか?」
「はい、多分」
一年生の学習内容は、ミコルル大先生にみっちり教わりましたから。
私は右手に火を灯し、左手に水滴を作り出した。
魔法の二重行使とは言葉のとおり、同時に二つの属性を扱うという、ただそれだけのこと。
教わるまでもなく昔からやっていた。
火と氷を同じ強さで混ぜたら、全てを消滅させる極大魔法ができるんじゃないかとか思って。
その試みは、互いに打ち消し合っただけで何も残らなかったが。
そもそも二重行使なんて特別なスキルみたいな名前付けてるけど、魔法使う時なんてほとんどの場合、無属性魔法で制御しているはず。
常時二属性同時に使っているんだよ。
まあそんな揚げ足取りは脇に置き、同時期に別の属性を使おうとしなければ、ブランクは雷属性に開眼してないだろうし。
「見事なものだ。では俺の考えていることを明かそう」
ふむふむ。
概ね分かったが、ミコルルさん解説お願いします。
分かってなさそうなジャンネ君のためにですよ。
「闇属性の吸収を自分に使い、それを気属性で集中させ、最終的には外に撃ち出すってことですよね?」
闇属性にもほとんどの種族の者が使える生活魔法が存在する。
眠れない夜に自分にかけ、睡眠を促すものが有名だ。
これは吸収の特性を利用したものだが、自分の生命力を吸収したのに戻すことはできない。
そんな欠陥があるぐらいだから誰でも使えるのかもしれない。
「ん〜? 生命力を集めて……それを魔法に変えりゃいいんじゃねえの?」
だから魔法にしてしまっては、適正値の高低によって威力が制限されてしまうんだよ。
火魔法一本で行ける君とは違う、凡人種の悲しき苦悩よ。
「モルガノ……先生は君たちにしっかり教えているのか? 個人的な魔力量の上限と適正値のことがあるだろう」
ほら、私たちまでおバカ認定された。
更にはモルガノ先生にまで飛び火した予感。
「俺の考えがどのような結果を迎えるかは分からん。生命力を集めてはみたが、『魔力に変換した方が何倍も効率が良かった』と言うことになることもあり得る。だが俺はこの考えに希望を持っている。分かるだろう、同じ凡人種の君ならば」
私は静かに頷いた。
ヒュウガ先生とはまた別種の希望だろうが、たしかに私も必殺技の開発という望みを抱いている。
そのためなら実験でもなんでも、いくらでも付き合おうじゃないか。
さあヒュウガ先生、今から何をしましょうか?
「俺が気属性を使えれば早いのだが。学生である君を頼ってしまい情け無い限りだ」
そういうのいいから。
ほらほら。
「では、闇属性魔法で自身の生命力を吸収してくれ」




