第十八話 誰に聞けば
敗戦ショックのせいか、我がクラスの男子がようやくパリピ状態から脱した。
一人感染源たる原種でもいるのかと思ったが、ものの見事に全員が素と思われる状態になっている。
一体何に影響を受けていたのだろうか。
他のクラスの子たちは、眼帯着けたり包帯を腕に巻いたり、黒いコートを襟立てて着たり、バリエーションに富んでいたのに。
うちの男子たちは画一化された半端な格好で過ごしていただけだ。
半端に終わったから黒歴史となる思い出もそれほど深くないかもしれないけど、どうせならもうちょい恥を掻いても良かったように思う。
それでも今の状態は悪くない。
元が御曹司ばかりなんで、大体の子は品の良さが自然と出ている。
悪ぶってる子たちの、あの楽しもう楽をしようという、ある意味エネルギッシュな姿勢も嫌いではない。
だが私は自分のペースでボーッと過ごせる、今の落ち着いた雰囲気も好きである。
どことなく不自然なテンションの高さ、違和感の拭えないバカ騒ぎが教室から消え、私はようやくこのクラスに愛着を持てそうな気がしていた。
さて、環境が落ち着いたところで、私もそろそろ進めねばならない。
そう、必殺技の開発である。
気属性でガードした上から体力を削れる必殺技。
既にジャガノス君は、自制を欠くと言う不完全なものではあるが、その域に至った技を持っている。
斯く言う私も、彼に完全に後れを取っているわけではない。
必殺技に関して、ある程度の構想はあるのだ。
一つは、無敵時間有りの直接攻撃。
無敵時間は気属性を上手く使えば、ほんの一瞬なら作ることができると思う。
攻撃と共に気が発散してしまっても、それは必殺技直後の隙と言う、格ゲーを彩る要素と言って良いだろう。
問題は全身を気属性で覆って攻撃することが、今の私ではできないことだ。
頭、肩、腕、拳、胸、腹、脚、足。
割と自在に気を纏う箇所をコントロールできるようになったとは思うのだが、全身を隈なく覆うとなると中々難しいのだ。
イメージとしては、気を薄く薄〜く伸ばして体に張り付ける、って感じでいいと思うんだけどなあ。
そうできないのは気属性の適性値が低いからなのか、それともアプローチの仕方が間違っているのか。
まだ答えは見えていない。
ところで今の段階でも、やろうと思えば体の極一部を気で覆って必殺技とすることは可能だろう。
突進系の必殺技として、第三以降の必殺技に使うのは良い。
しかし自分としては記念すべき最初の必殺技を、全身無敵の上昇系直接攻撃にしたいのである。
カエル飛びアッパー型にせよ、宙返りキック系にせよ、完璧な対空性能を誇り、地上の相手には大ダメージを与えられる上昇系必殺技は、私の憧れの技と言えるものだ。
もう一つ、無敵時間有り上昇系必殺技と並ぶ、是非ともモノにしたい必殺技がある。
飛び道具だ。
え?
魔法弾があるだろ、だって?
う〜ん、何か違うのよ。
あんなポンポン撃てる安っぽいのじゃなくてさ。
私はこう、なんて言うの?
持てる力を凝縮させて、凄まじいエネルギーを外に撃ち放つような、そんな放出系必殺技を編み出したいの。
波動の力を使うのに二話も三話も使って力を溜めるのは、ちょっとやり過ぎだと思う。
でも、「武器を持った奴らが相手なら使わざるを得ない」、って思えるぐらいの頼れる技ってカッコいいよね。
あれは超必殺技だけどさ。
ああ、考えても考えても良いアイディアは浮かばぬ。
この魔法世界に馴染み過ぎたせいか、体から何かを放出するとなると魔法ばかりが思い浮かんでしまう。
もう気合い溜め(魔力チャージ)、魔法ぶっぱでもいいんじゃね? と言う妥協案が私を押し潰そうとする。
いやいや!
その行き着く所は格ゲーではなくシューティングだ、と言うことは前から懸念しているじゃないか!
この世界において弾幕シューティングはミニゲームの扱いで良いのだ!
「何ウンウン唸ってんだよ」
「ちょっとジャンネ、この状態のミサにあまりちょっかいかけないように、と言ったではありませんか」
「学ばないよね〜」
おっと、思考に没頭し過ぎていたようだ。
机で頭を抱える私を、いつの間にかジャンネが下から覗き上げていた。
かくかくしかじか。
三人寄れば文殊の知恵。
それが四人となればいかほどの知恵となるだろうか。
その全知なること、かの“すべてをしるもの”も真っ青なことだろう。
攻撃するとすぐリターンするあれだ。
「すいません。言ってる意味がよく分かりません」
「私も……もしかして何か深い意味があるのかな〜?」
「なっはは! 何真剣な顔してバカなこと考えてんだよ! 体のエネルギーを撃ち出すって、それが魔法じゃんよー!」
大笑いして肩をバンバン叩いてくるジャンネを、私は嫌そうに見た。
あ〜あ、そんな風に何も考えずに受け入れられたら楽なんだろうな〜。
魔力が個人に蓄えられた謎パワーってのは分かるんだけど、その量は魔力が尽きるまで分からないし、使っても疲れたりしないんだもの。
魔法は便利だから使っちゃうけど、一対一の対戦で使いまくると格ゲー枠から絶対外れちゃうんだよ。
こだわり過ぎなのかなぁ?
制限し過ぎると非力系魔法キャラが参戦する余地が無くなってしまいそうだし。
誰か“対戦格闘において魔法を適切に使用するガイドライン”でも作ってくれないかな。
「大体ミコルルでも答えられねえのにミサに分かるわけねえじゃん!」
むか。
常に赤点の危機に晒されている奴に頭脳のことを言われるとは。
私の非難めいた視線を意に介さずジャンネは言う。
「そういうのはよぉ、先生に聞くもんだろ?」
あ。
そうか。
先生ってそういう存在だったんだ。
よし、赤点王に啓かれた蒙が闇に閉ざされる前に、早速モルガノ先生に教えを請いに行こう。
ガラガラ
たのもー
「あ」
「あ」
両腕両脚をおっ広げてソファに身を沈めているモルガノ先生と目が合った。
口にはクッキーみたいなお菓子が咥えられている。
ガラガラ
時の砂とかリターンとかって、こういう時に使うんだよね。
コンコン
「どうぞ」
淑女然とした声が戸の内から掛けられた。
「失礼します」
私は引き戸に両手を添え、静かに戸を開け一礼した。
先程は私しか目に入らなかったはずだが、今回モルガノ先生の前にはジャンネ、ミコルル、アラシュもいる。
見るからに顔色を悪くする先生。
(大丈夫です。先程のお姿は私しか見ておりません)
(ほ、本当でしょうね?)
私と先生との間にのみ通じる心の声が交わされた。
先生は嫋やかに膝に手を置き微笑んだ。
「あら、どうしたの? こんな放課後に」
「ちょっと私たちでは分からない問題がありまして、ご教授を願いに参りました」
「あらおほほ。ミコルルさんでも分からない問題などと、授業中には出した覚えがありませんよ。どこまで先を勉強してらっしゃるの?」
モルガノ先生は口元に手を当て優雅に笑った。
「あの、それがミサさんの提示した問題で」
ほんの一瞬だが、先生がピシッと音を立てて固まったのを、私は見逃さなかった。
かくかくしかじか
もちろん先生が何故固まったのかなど分かりはしないのだから、私は自分にできること――事情の説明をした。
「ちょっと、何を言ってるのかよく分からないわ」
え〜、何か投げやりな態度じゃないですか?
「魔法使えばいいじゃない。何のための魔力だと思ってるの? あなたの頭の中はどういう魔境になってるの?」
先生いつもの丁寧語はどうしたんですか。
「魔力任せの魔法バトルは嫌だからもっと違う力を探してるって? ……へえ〜………………意味分かんないし」
口を尖らせて肩を竦めるモルガノ先生。
その顔ちょっとムカつくんですけど。
「おい、何か面白そうな話してるじゃねえか」
あ、ヒュウガ先生。




