第十話 続けられるか
放課後、修行に参加すると言うアラシュとジャンネを連れてミコルルが校庭に来た。
またあの、口の片端だけを上げたニヤリ笑いをしている。
どんな心理を表しているのか、彼女と付き合いの浅い私には窺い知れない。
「おうミサ、今日からよろしくな!」
「自主練は大事だもんね。私もよろしく〜」
「ジャンネ、アラシュ、二人ともよろしくね。今日は初日だから軽くやるけど、物足りなかったら言ってね」
「何だよ遠慮すんなって!」
「私は様子見歓迎かなぁ。大丈夫だったらハードにしていけばいいんだもんね……なんでこっちに寄って来るの、ミコルル?」
なんだか変な笑顔を浮かべて、アラシュに寄ってるって言うか、ジャンネから距離を取っているようの振る舞いをするミコルル。
さっきから挙動不審だ。
どうしたのだろうか。
「何でもありませんよ。ささ、楽しみにしてくださいね」
「おう!」
ジャンネはただただ元気いっぱいだが、アラシュのあの目。
私は知ってる、あれジト目って言うんだ。
何かを怪しんでいる時の目。
でも何でそんなジト目でミコルルを見るのかは分からないんだけどね。
そんなことはいいや。
さあ、始めよう。
「運動の基本は足腰だからね。まずは準備運動がてらランニングしよう」
この数日でちょうどいい場所も見つけたし、張り切って工作もしてしまった。
気に入ってくれるかな。
「お、この坂道を走るのか?」
「準備運動にはいいかもね……何で噴き出してるの? 何か可笑しかった? ミコルル?」
「何でもありません。ほら、よそ見してると転びますよ」
私たちが向かっているのは、この学院に至る山道の麓だ。
そこから山を駆け上がることは合っているのだが、残念ながらジャンネの予想はハズレである。
「あれ? どこ行くんだ?」
見てのお楽しみだよ。
首を傾げるジャンネたちを連れ、私は木々の中へと立ち入った。
そして三人に私が作った道を披露した。
「え、と。何かあるのかな? 草と木と、剥き出しの地面しか無いように見えるんだけど」
ガーン。
よく見てよ〜。
「ふふ、私には分かりますよ。ほら、私の指す方を良く見てください」
お、ミコルルさすが!
「う、これはもしかして……この獣道みたいな所を走れってか?」
獣道かぁ、登山道と言って欲しいなぁ。
「じゃあ先導するから、逸れないようについて来てね。ミコルル、念のために最後尾よろしく」
「任せてください。ビシバシ追い立てますから」
つい後輩に言うように最後尾を頼んでしまったが、ミコルルってひ弱だったじゃん。
大丈夫かな?
ちょっと心配になりながらスタート。
う〜ん、やっぱりカプルコン寺院周辺の山に比べると物足りない傾斜だし、木々や岩も小振りなんだよな。
しかしその分、細かい凹凸を増やしたり、サラサラの砂地エリアを作ったりと工夫を凝らしたつもりだ。
ひ弱ミコルルが置いて行かれてもいけないし、今日は道に慣れるぐらいにしとくか。
早歩きより少し速いぐらいで。
「この山って……学校より高いんだよね?」
何を今更。
一年山の学校にいたんじゃないのかね?
「ほらほら、遅れてますよジャンネ」
「分かってんだよ! ちくしょう、砂に足取られて走りづれえ」
ミコルルがジャンネのお尻をつついている。
ちょっとこれは、思いのほか遅いわ。
おっとりなアラシュは分からんでもないが、ジャンネまでひ弱衆の一員か。
あれか? そのスイカップな二つのメロンが重りになってるのか?
もげばいいのに。
そう言えば……ふと思い出した。
私たちって四人パーティーじゃん。
上限より二人も少ない人数なんだけど、このひ弱っぷりで大丈夫なんだろうか?
体力の分を補って魔力が多かったり、魔法テクが優れてるならいいんだけど。
いかんいかん、何を弱気になっているんだ。
体力が無いなら付ければいいじゃない。
幸いジャンネもアラシュも、私の中では格ゲーキャラのアタリがついてるんだから。
体力ゲージ一本満タンにするぐらい、やってみせねばならない。
準備運動を終えたぐらいでやり切った顔をするアラシュとジャンネを見て、私は決意した。
その後の修行が納得のいかないものとなったことは、言うまでもないだろう。
入学前にミコルルにやらせた呼吸法にも至れない始末。
はぁ、でも無理強いして「もうやだ!」ってなったら元も子もないからなぁ。
学生時代の友達なんてのも初めてだから、嫌われちゃうのも寂しいし。
「どうする? 今日だけで、やめとく?」
気づけば私の口から出ていたのは、相手の機嫌を窺うような、そんな言葉だった。
「バッカ! バカバカ! ホントバカ! おま、今日のは調子が悪かっただけだっての! これがアタシの実力だと勘違いしてたらマジバカだぜ!」
「バカって言う方がバカなんだから、やめときなよ。でも私も、たった一回で諦めちゃうような情け無い子だと思ってほしくないかな」
え、じゃあ二人とも……?
「明日からもやるに決まってんだろ!」
「私もね。でもミコルルは許さないかな」
「え! 何でですか!?」
驚いたような声色だが、顔はニヤケているミコルルさん。
どうしたのだろう?
「それだよ、それ。私たちを騙して、楽しんでたんでしょ」
アラシュが白い目で見ているぞ。
騙してた、と言うがミコルルは悪びれた様子も見せない。
何を騙されたのだろうか。
「人聞きの悪い。先入観を持たないように配慮しただけですよ。それに、これぐらいで挫けるあなたたちでないことは、分かっていましたから」
おお、ミコルルがそんな気遣いをしてくれていたとは!
ありがたやありがたや。
「アタシもようやく分かったぜ。悪いのはミコルルだ。いつか黒焦げにしてやる」
「手伝うよ」
何故だか二人がミコルルに向ける目は冷たい。
まあいいや。
とにかく明日からも頑張ろう!
それと、ちょっとメニューの見直しもしてみるかな。
翌日、ランニングコースは、二人に気づかれない程度に地面を整えて走り易くしてみた。
明からさまに変えて、プライドを傷つけるのは良くないもの。
「あ、凄いじゃないですか。昨日の今日で」
ミコルルも気づいた上でノッてくれているようだ。
「なっはは! そうだろそうだろ。このコースもアタシのハートの熱さにゃ勝てなかったってこった」
意味は分からないが、何か勝利ゼリフっぽくて好きだな、今の。
「意味が分からないよ。でもきっと、今の私には追い風が吹いてるんだね」
そういうのも好き。
「アラシュの方こそ意味分からねえし。ほいっと、お先〜」
「むむ、負けないよ」
ほらほら、ミコルルもニヤリってしてないで負けずに走りなさい。
準備運動終わって呼吸訓練。
「ぶほっ!」
早々に脱落するジャンネは呼吸調整しなさ過ぎ。
性格が出ちゃうのか。
アラシュは落ち着いて細く長い呼吸で頑張っている。
ミコルルもかなり要領を掴んでいるようだが、彼女が口を窄めて息を吐くと、冷たく白い空気がフワーッと出る。
さすが雪女。
よしっ、調子が出てきたところで楽しい修行に入ってもらおう。
組み手もどき訓練だ。
ケガ防止のため受身はしっかり練習する。
この受身はランニングでも使えるんで、本気でしっかりだ。
そしてまずは魔法抜き、徒手空拳でかかって来てもらう。
「オラ! オラ! オラオラァ!」
「全部受け止めてる。凄いなぁ」
躱すのは相手のストレス解消にならないだろうから、私はジャンネの攻撃を全て受けている。
精密な動きのできるパワー型超能力のように、両拳のラッシュをしてくるジャンネだが、威力は弱い。
一応気属性を纏わせガードしているが、それも不要かもしれない。
しかしデタラメなラッシュだなぁ。
悪い意味で。
こちらの隙を見ようともしない。
これは要改善だね。
受け取り交代で、私の攻撃をジャンネが受ける番。
間合いを最初から僅かに外すことで、防御し易くしてあげる。
「くっ、結構響くぜ!」
「何言ってんの。まだ弱攻撃だよ」
「ジャクって、弱か! くっそぉ、よし、強いの来やがれ!」
いいのかな?
一発ぐらいいいか。
よし、腰を落として受ける気満々のジャンネに強パンチだ。
「五秒後に行くよ」
一、二、三、四……
「ジャンネ! 避けてください!」
ゴウッ
ミコルルの声が早かったか、ジャンネの動きが早かったか、どちらかは分からないが、強パンチは避けられた。
そして強攻撃後の無様な硬直を晒す私。
「な、なにあれ……」
「この前はあんなのを私に打ち込もうとしたんですね……」
アラシュは小刻みに震え、ミコルルはムッツリ顔で何か考えている。
しかし、決め打ちだったとは言え、私も隙を晒してしまった。
反省だ。




