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メゾン格ゲー  作者: みおま ウス
第一章 路上格闘者編
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第四話 お勤め

 子どもの体が悪い方に作用したか!?

 後輩のイヤらしい目付きを受けてもズバッと否定できない私がいる。


「おお、もう魔力が出たのだな! どうだ、その感覚は掴んだか?」


 ゴブシム和尚の言葉でハッとした。

 そうだ、私の手には水属性の魔石があったよ。


 念のためズボンの臭いを嗅いだけど、この液体は無臭だ。


「ちぇっ」


 今舌打ちしたな。

 後輩はピューと口笛を吹いてごまかそうとする。


「と、ところでその感覚はどんなんだったっすか?」


 まあ良かろう。

 せっかくできたんだから、私も復習しとかなきゃね。


「ええと、モヤモヤしてきた気持ちを抑えようとズボンに手を入れてムズムズしてたらジワッと」

「……やっぱお漏らしじゃないんすか?」

「感じ方はそれぞれであるからな。やはり不幸な育ちが影響を……」


 後半ボソボソと口ごもり、和尚が憐憫の目で見てくる。



 何だろうか。

 それぞれと言いつつ、やはり主流派な感じ方があるのかな。

 それに大きく外れてた私、とか。


 ーーいいや、考えてもしょうがない。

 それよか復習復習。

 濡れたズボンを脱いで乾かし、色気の無い布パンツ一丁のまま水属性の魔石を握り念じる。


 ちなみに後輩はロリコンではないため私のこの姿に欲情などしない。

 と、言うかそもそも女性への興味が無いんだけどね。


 和尚も出会った時は腰蓑みたいなパンツ一丁だったから何も言わない。



 魔力発動の鍵は何だろうか。

 望郷の念? 違うな。

 悔しさ? これも違う。

 死の恐怖……もダメか。



 ああ、必殺技コマンド入力したいな〜。


 ――ピチョン――


 はっ!?


「お、今出たぞ。もうコツは掴めたのだな?」



「愛です」


「む?」

「愛が、私の魔力の原動力でした」

「……そうか、愛か」


 和尚が苦しそうに胸を押さえ、顔を背ける。



「姉様、何を考えたんすか」


 不審者を見る目つきをして後輩が近づき囁いた。


「格ゲー」

「やっぱり」


 文句は言わせない。

 私の格ゲー愛に。


 しかし後輩は私にイチャモンをつけるでもなく、口をへの字にして目を閉じて、そして魔石を握った。


「できたっす!」

「おお! キャミィもか。お主ももしや……」


「愛っす!」


 和尚が口を引き結び目を潤ませる。


「そうかそうか。お主たちがここへ来たのは、大地の導きだったのかもしれん。これからは拙僧と共に大地に想いを注ぎ、大地から愛を受けようではないか」


 言葉の意味は良く分からんし、私たちの頭に置かれた和尚の手は筋張っていたけど、ほんのり温かかった。








「カミイ」

「キャミィっす」

「ちっ」


 私たちの寝具やらのアメニティを調えるために和尚が外出している間、私は後輩に先程のことを問うことにした。


「あなたの愛って何よ」

「厳密に言えば正義っす」


 後輩はエヘンと胸を張った。


「正義って?」

「巷で冗談ぽく言われるじゃないっすか。『カワイイは正義』って。あれ、自分は本気でそう思ってるっすから」


 コイツのことだから、てっきり行き過ぎた自己愛が魔力を呼び覚ましたかと思ったわ。


 どうやら後輩の女装趣味は、カワイイを自分に施すための手段だったらしい。

 よく分からん。

 それが私の格ゲー愛と同列だと?

 それも納得できぬ。


 まあいい。

 後輩の内心への深い考察など時間の無駄である。



 それより魔力の原動力とは言ってみたけど、結局どういう仕組みなんだろうか。

 感情の発露と連動してるわけではなさそう。

 でも愛とは? 自分で言っといてなんだけど。

 格ゲー愛が呼び水となったことは間違いない。

 が、それがどこにどう作用して魔力なる不思議パワーが発生したのか。

 和尚の反応を見る限り、必ずしも愛を感じなくても魔力を生み出せるみたいだし。


 謎は謎のまま放置されることになりそうだった。








 和尚が帰って来た。

 大きな布を二枚広げ、これに乾燥させた草を入れて仮の布団にするって。


 後輩は不満そうな顔をしているけど、善意でやってくれてるんだから和尚にそんな求めちゃダメでしょ。


 せめて裁縫ぐらいは自分でやらせてつかあさい。


「これこれ、針仕事はミサにはまだ早かろう」

「大丈夫。得意ですから」


 心配する和尚に頼んで針と糸を借りた。


「はい、あなたも」

「は〜いっす」


 渋々の後輩も裁縫に参加である。


 和尚は困った顔をしていた。




「おお、まことに達者ではないか。本職顔負けだぞ」


 和尚が感心している。


 ふふん、さもありなん。

 前世ではかの有名なソーイングコンテスト番組、ソーイング・ブーを毎シーズン見ていた私だ。

 観衆のブーイングを受けながらも、型紙無しから服を仕立てるあの猛者たちには敵わないものの、私もそれなりに腕に自信あり、なのだから。



 それから何日かかけ、コツコツと生活環境を整えていった。

 和尚も、ここを任されたばかりだからタイミングはちょうどいいと言っていた。








 寺の内外がすっきりすると、和尚は言った。


「よし、これで修行と祈念に専念できるな」


 出た、修行。

 私たちも小坊主として置いてもらっている限りは、この修行と祈念をせねばならない。

 そう和尚から言い含められているのだ。


 後輩は嫌そうな顔をするが仕方ない。

 お勤めと思って励むのだ、後輩よ。



 和尚について菩薩っぽい像のある広間に行った。

 今日私たちは見てるだけ。

 和尚の修行デモンストレーションプレイ、スタート。


 座禅を組んで深呼吸、そのまま上半身を倒していく和尚。


 はじめはストレッチからかぁ――


 と思っていたら、胸まで床に着いたぞ。

 そこで止まらずに床にめり込ませるの? ってぐらい頭をぐりぐり床に擦り付け、組んだ脚が上がって行き、最終的には頭の後ろで脚が組まれた状態で座ってる。

 もはや座禅とは言えない奇妙過ぎる座り方。


 修行って苦行系かぁ……

 それは、ちょっと気が進まないぞ。


「心配するな。これはほんの準備運動で拙僧なりの精神集中法。お主らに強制はせんよ」


 我らの引き顔を見た和尚が苦笑している。

 趣味と言われると、この苦行が途端にフィットネス系のヨガに見えてくるから不思議



 ――!!!!!



「あーっ!!」


「わっ! びっくりしたっす! なんすか突然!?」


 ガリガリ、僧侶、折檻、炎、ヨガとくれば、いくらなんでも思い出さないわけにはいかない。

 格ゲー界のパイオニアとも言えるあのゲームの、対人戦チャンピオンの使用キャラにもなった聖者だ。

 ゴブシムって名前だって結構寄ってるのに、ここまで思い出さないなんて……ショックだわ。


 何事かと私を見る和尚に尋ねる。


「手脚、伸びますか?」


「はあ?」


 黙っててそこの後輩。



 和尚は目を丸くして一言。


「何故それを……」


「え? 伸びるんすか? まじで?」


 ダメ押しの一手までいただきました。

 後輩まで驚き、私の胸は熱くなる。

 潰えたと思った夢が、目の前に再び復活したかのようなこのときめき。

 鼻血出そう。


「伸ばして伸ばして! 伸ばしてください! あ、フワッと高くジャンプして回転しながら飛び蹴りも!」

「お、落ち着け! 突然どうした?」


 和尚の狼狽は当然だろう。

 大人しかった幼児が豹変したのだから。

 自分でもおかしいのは分かっているが、これは堪えられるものではない。

 私は重ねておねだりした。



「分かった分かった。じゃあ今はその回転飛び蹴りとやらをやってみようか」


 和尚はやったことの無いドリルなキックを実践してくれるようだ。

 未経験の技にチャレンジしたいなんて、和尚も中々アグレッシブじゃないの。


 私はお山座りして深呼吸を繰り返し待つ。








「テーレレテレテレ〜」


 後輩が闘将のオープニング神曲のイントロを口ずさむ。


 和尚残念! それは百戦中百勝するキックです。

 縦回転じゃないんだよ〜、ドリル回転してくれなきゃ。


「ありがとう……」


 悪気の無い和尚には感謝するほかない。








 どこか満足げな和尚は次に私たちを外へと連れ出した。


 そして来たのは、まだ入ったことのない裏口。

 一子相伝の世紀末な暗殺拳道場か、はたまたハンターな暗殺一家のお屋敷か。


 バカみたいに巨大な門を開いて中に入ると、私を睨む憤怒顔の像が立っていた。

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