第六話 悪いのはどっちだ
私の強パンチを受け止めたのはモルガノ先生だった。
戦闘に熱中していたとは言え、接近に気がつかないとは。
攻撃を防いだことと言い、さすが先生と唸るしかない。
「ミコルル!」
お供ズがミコルルに駆け寄る。
あれ? ちょっと待って。
ミコルルなにそれ?
何でそんなボロボロ感出してんの?
あなたが受けたダメージって、結界にぶつかったぐらいじゃなかったっけ?
この構図はちょっとヤバい。
いじめっ子といじめられっ子のそれっぽくないだろうか。
先生からの眼差しが痛い。
「見張りを強化してて良かったわ。あなたが何人も連れて戻って来た時に、慌てて出てきたの」
どういうことだ。
私が来たら慌てて出るとは、おかしな理屈を述べていると言わざるを得ないぞ。
「おい! 大丈夫だったか!?」
新手だ。
と、思ったらヒュウガ先生だ。
はい、私は大丈夫ですが。
「モルガノ、先生、大丈夫か?」
「はい、私はなんとか……それよりもその子が」
私はなんとかって、先生駆けつけただけじゃないですか。
ちなみにその子ことミコルルはまだ呻いている。
十五ドットの段差から転落死してしまう洞窟探検家並みのひ弱さだ。
もしかしてオワタ式だったんですか?
だとしたら、お供ズの後ろに控えながら攻撃してくるのも納得ですが……
それならそうと、あらかじめ言っておいてくれないと。
「結界に放り投げた後にあのパンチか。こいつはこいつで短刀なんて持ち出してたようだし」
やった! ヒュウガ先生が相手の得物に気づいてくれた。
これでイジメ疑惑は晴れたも同然。
「おい、起きなさいミコルル」
ペシペシと彼女の頬を叩くヒュウガ先生。
水でもぶっかけてやればいいんじゃないですか。
水魔法を使おうとしたらモルガノ先生が凄い勢いで振り向いた。
ピュピューピュー
私は口笛を吹いてごまかした。
「う、うん……」
「目が覚めたか。何があったか説明してもらうぞ。優等生の君がこんな殺し合いをするとは、一体どういう事態だったのかを」
あ、これは優等生の意見を採用して私が一方的に悪者になる流れでは!?
ヤバい、と思ったが、意見を申し出ようとする私の袖を後輩が引いた。
「大丈夫っすよ。いざとなったらボクの証言もあるっすから」
おお、初めて後輩が頼もしく見える。
そんなこんなで私たちは保健室に連行されることになった。
そう言えば保健室の前は通ったが、中には入らなかったな。
そこには回復魔法の達人がいるのだろうか。
それとも謎の培養液的な物が満ちた回復カプセルでもあるのか。
どちらでも良いが、早くこの虚弱ガールを治療してもらいたい。
ダイジョーブ博士が現れたら一か八か改造手術を受けさせてやってもいい。
一ラウンドも戦えない人を、格ゲー世界の住人と認めるわけにはいかないからね。
保健室の入口をくぐる。
「あら、いらっしゃい。またケンカしたの? ヒュウガ君」
「俺じゃねえっすから。いつまでもからかうの、やめてもらえないっすか」
オホホ、と上品に笑うのは艶のあるオバさまだ。
プルプルだ。
って言うかゼリー状だ。
「ホ、ホイミスライメン……」
こら、スライメンは個人名でしょうが。
だがそう言いたくもなろう。
プルプルな頭部は髪もプルプル。
触手みたいなんだもの。
そしてやはり、彼女は回復魔法の達人だった。
あっという間にミコルルを治療してしまった。
「はっ! ここは……」
「手間をかけさせたな。キュアプリン先生にお礼を言っときなさい」
毎シリーズ女の子を虜にするアニメのヒロインみたいな名前だ。
「ダメじゃない結界に触れたりなんかしたら。毒と麻痺にもかかってたわよ」
あっ、そう言えばそんな状態異常効果があった気もする。
幾つかは抵抗したし、幾つかはその場で回復したから忘れてた。
あの暴漢にやられたんです!
そんなことを言われたらどうしよう。
「さて、説明してもらおうか」
ヒュウガ先生がミコルルに説明を促す。
ドキドキ。
「その前に、少々お時間を下さい」
ミコルルは立ち上がり、私の前に来た。
な、何よ。
そして床に膝を突き、
「ミコルル!」
寄って来ようとするお供ズを手で制し、頭を下げた。
「大変申し訳ございませんでした。この度は私の勘違いで、不愉快な思いをなされたと存じます。どうか、お許しください」
お、おう。
分かっていただければ、いいん、ですのよ?
「ミコルル……」
「ほら、あなたたちも」
「ごめんなさい」
「申し訳ありませんでした」
「いいんすよ。一度戦ったらマブダチっす。ねえ、姉様」
お前は戦ってないだろ!
と突っ込みたい気持ちを抑え、私は笑顔を作った。
くっ、顔が引きつる〜。
「ええ、お互いもっと精進しましょう」
勝利ゼリフも言えないなんて!
こんなの格ゲーじゃないやい!
「あらあら、あなたも相変わらずなのね。お転婆さん」
「しっ……やめてくださいよキュアプリン先生……」
あれ? モルガノ先生なんで治療してもらってるんですか。
先生方が二人とも、プリン先生に頭が上がらない様子なのも気になる。
「で、説明は?」
「はい、実は……」
ミコルルの説明は私と後輩にとって、一切の不満無きものであった。
それにしても説明上手だなこの子。
優等生とか言ってたし、実技よりも勉学寄りで頑張ってたのかも。
「なるほど。しかし光りモノまで出しての決闘は、控えめに言ってもやり過ぎだな。もっとも君の方が痛い目を見たようだが。モルガノ先生が受け止めてくれなければどうなってたか分からんぞ」
ハハハ、脅かしすぎでしょ。
小さい子じゃないんだから、そんなんで怖がるわけ……
「……!」
ミコルルは顔を青くしてモルガノ先生を見ていた。
「私の愚かな勘違いで危険を冒させてしまい、申し訳ありませんでした。助けていただきありがとうございます、モルガノ先生」
「い、いいのよ。学生は過ちから学んでいけば。これから気をつけてね」
いいこと言うじゃん先生。
そんな先生はミコルルを向いたまま、私の方に視線だけを向けた。
「あの、ミサさんも二年から当院の生徒になるから、二年生同士仲良くね」
せ、先生〜。
なんていい人なんだ。
学生同士が一度の諍いで蟠りを持たぬように間を取り持つ。
先生の鑑でっせ、あんさんは。
「ところで、キャミィさんはともかく、ミサさんが二年生から編入とは、何か理由があるのでしょうか」
手続きが遅れたせいみたいだけど?
「詳しくは知らないけど、寺院の推薦らしいの。あとは、プライバシーに関わることだから、本人に直接聞くのがいいと思うわ」
一先生では事務手続きまでは存じないようだ。
どのみちこの場で、学院の不手際を持ち出すつもりも無かったが。
「ボクたち小さい頃から寺院で育ったんすよ。捨て子だったっすから」
こういう時に後輩のコミュ力の高さを思い知る。
「そ、そうだったのね」
先生方やミコルルたちの視線が憐れを見るものになった。
いやいや、今世の両親は顔も知りませんし、お寺では和尚たちに良くしていただいたんで、同情されることは無いんですよ。
「寺院ではどんな生活をしていたのかしら?」
オホホ、とプリン先生がお尋ねになる。
この人は好奇心旺盛なタイプっぽい。
プルプルだから皺も分かりにくいし。
落ち着いた口調の割に若く見えて、いつまでも美人保健教師の座に君臨しそうだ。
「拾われた三歳、四歳の頃から修行と祈りを。魔物を狩ったドロップ品や自作の農作物で食事を作り、時に町へ行き換金や買い出しをする。そんな日々を過ごしてまいりました」
「あらあら、中々ハードだったのね」
頬に手を当て微笑むプリン先生は色気プルプルだ。
「そんな、過酷な生活を……どうりで強いわけですね」
どんな想像してるんだか。
行ってみなよ、カプルコン寺院。
楽しいから。
そんな想像力逞しいミコルルは、溜息を吐いたと思ったら俯けていた顔を上げて笑顔を見せた。
「今日は完敗です。でも、同じ学生ですし、負けたままでは終わりませんからね」
彼女が差し出して来た手を、私も笑顔を返し握った。
コンテニュー・連コインどんと来なさい。
でもまず君は、体力バーを伸ばしたまえよ。




