第五話 しばいたろか
出てくださいって言われても換金中なんだし、勝手に離れられない。
「換金が終わったらね」
て言うか聞きたいことあるなら、別にここで聞けばいいじゃん。
誤解を解く努力ぐらいはするよ。
「ミコルルが言ってるんだから、早く来て」
「ここの人の仕事の邪魔になるでしょう。少しぐらい待ちなさい」
「いいから」
マムマムとウルウルが爪を伸ばして来た。
二人とも伸縮自在なのかその爪。
少し痛いんだけど。
「ね、姉様……」
後輩が狼狽えている。
私は溜息を吐いた。
「急ぐ理由は? どうして外に出るの?」
「引き伸ばそうとしてる……余計に怪しい」
「荒っぽくなるかも。店に迷惑をかけるといけない」
なぜ荒っぽくなる?
「ミコルル、どういうことなの?」
さん付けでなんか呼んでやらないからな!
「端的に言えば、あなたたちが他人の狩りを妨害したり、ドロップ品を横取りしたのではないかと思っています。あの弱い魔法でこんな数のドロップ品を持っているなんて、不審です」
了解。
決闘だ!
私は手袋を床に叩きつけた。
「何をしてるんですか?」
キョトン顔で見られた。
貴族式に決闘を申し込んだつもりが……どうやら違ったようだ。
ダチョウのギャグっぽくなってしまった自覚もある。
私はいそいそと手袋を拾い上げた。
「えと、街中で暴れていいんすか? 校則違反だとか退学だって言われるのは嫌っすよ」
「む……」
む、と言う顔をするミコルル。
そんぐらい考えとけよ。
こちらがしょうがなく学生証を呈示すると、先方は唸って苦い顔をした。
「仕方ありません。学院に行きましょう。そこの校庭であなた方の欺瞞を暴いて見せましょう」
はいはい。
そこから私は暴走三姉妹を無視してギルドでの手続き終了を待った。
「先に行ってください」
ダチョウっぽい鳥に跨り三姉妹が言う。
目的地一緒なんだから、乗せてくれればいいのに。
「乗せてほしいっす! マムマム、ウルウル、ダメっすか?」
「ごめん」
「今は、ダメなの」
なんかコイツら私と後輩で、扱い違くね?
ダラダラと牛歩戦術をとってやってもいいが、ここは……
「あっ! 待ちなさい!」
私はダッシュを始めた。
障害物を飛び越えて直線で学院に向かう。
へへ、慌ててやがる。
こっこまっでおいでぇ〜!
で、圧倒的リードで学院到着。
挑発でも食らえ。
余裕!
「余裕っち!」
こんな時にもあざとい後輩。
「なんなんですか! 野生の獣みたいな動きして!」
息が上がってるぞミコルルさん。
乗り物に跨ってただけなのに、修行が足りないんじゃないの〜?
「もう許しませんよ! お仕置きです」
ほう、仕置きとな。聞き捨てなりませんなぁ。
お仕置き……月に代わって……いや、これじゃない。
まあいい。
まずは白黒つけるか。
今回はちゃんと門から入ります。
先生に怒られるし。
後ろの小娘を突き飛ばして結界ビリビリの刑に処してやっても良いが、それでは誤解が解けなさそうなので我慢だ。
よし、私たち以外にグラウンドに誰もいない。
心置きなくシバいたろうじゃないの。
「大丈夫っすか? 魔法めちゃ強かったらどうするんすか?」
今更そんなこと言うなよ……
そうなったら、DO・GE・ZA、かな?
暗黒の学生時代の到来が約束されてしまう。
森の中だから派手な魔法は控えてました。
なんて言われたらどうしよう。
逃げるんだよォ!
そのたった一つ残された策を使っていいのだろうか。
「今更逃げられませんからね」
エスパーか!
くそぉ。
こうなったら遠距離攻撃手段の確保だ。
しゃがんでコッソリ石を拾い集める。
「……石投げて攻撃とかやめてくださいよ。名誉あるエディケイン学院の生徒として、相応しい戦いを望みます」
なんだよ!
なんか卑怯だぞ、その言い方!
ええい、魔法がなんだ。私だって火水風土無雷気属性を使えるんだぞ。
威力がアレなだけで。
いや、間違えた。
何を考えているんだ私は。
“格ゲーを魔法合戦にしてはいけない”
大魔法で画面がホワイトアウトするような試合を認めるわけにはいかないのだ。
格ゲーらしく
いざ尋常に! 勝負
――あ、今ピンと来た。
ミコルルってば侍魂の子じゃないの?
鷹と狼なんて連れちゃって、修羅と羅刹モード丼か。
くくく、これは俄然やる気が出てきたわ。
「やばいっす。君たち早く謝った方がいいっすよ」
「? 何を言っているのですか。謝るのはそちらでしょう。今なら然るべき措置を執りますが、痛い目には遭わずに済みますよ」
「知らないっすよ。スイッチの入った姉様に目をつけられたら……」
何か話しているミコルルたちと後輩の間に入り、私は後輩を下がらせた。
「さあ、始めましょう。三人で、かかってきてもらいましょうか」
「どういうつもりですか。そんな提案を受け入れられるとでも……」
「三人一セットでしょう、あなたたちは。武器は宝刀と、守護の二人。あ、狼っ子は2Pモードでしょうけどね」
「何故、宝刀と守護のことを……」
「意味不明なことも言ってる。きっとデタラメに言葉を並べただけ。惑わされないでミコルル」
「何か不気味。油断せず三人で行く」
「マムマム、ウルウル……分かりました。三人で行きましょう。ミサさん、でしたね。負けの言い訳にはさせて差し上げませんよ」
ミコルルはそう言って短刀を鞘に収めた。
「それ、出さなきゃ。素手じゃあつまらないわ」
クリーンヒットすれば体力バーがごっそり無くなるし、ガードしても削りが発生する武器攻撃。
だがそれが、侍魂の醍醐味ではないか。
「そんなこと認められるわけないでしょう! 学生同士の勝負ですよ!」
「使おうミコルル」
「嫌な予感がする」
「あなたたち……でも丸腰の相手に」
「ごちゃごちゃ言ってないで、黒子だとでも思えばいいでしょう」
「またわけの分からないことを……! いいでしょう。打ちのめされなさい!」
ようやくだ。
さて、お手並み拝見。
ふむ。
まずはお供の二人から来るか。
マムマムが宙に浮いた。
ほう、聞いたことがある。
飛行属性とやらだな。
ウルウルは地を這うように低い姿勢で突進して来る。
属性はまだ分からないな。
っと、土魔法で爪を模したか。
せっかくの上下からの二面攻撃なのに、マムマムの攻撃が低空過ぎる。
甘い。
下段ガードで二人分ガードできるぞ。
「なっ! あっさり防がれた!?」
削りも無し。
そこで手を止めてどうする。
まあいい。
なら彼女たちは置き去りだ。
狙うはミコルル。
「しまった! ミコルル!」
「すぐ立て直しなさい! こちらは対処します」
吹雪!
氷雪属性ってやつか。
ガードしてもいいが足が止まるとお供二人に追いつかれるな。
飛び越える……
いや、食らってみるか。
私は右手を顔の前に突き出し、そのままミコルルに向かって駆けた。
「愚かな。そのまま凍てついてしまいなさい!」
寒っ。
火の洗浄魔法を体に巡らしても向こうの冷気が上だ。
まあでもこの程度なら、本気でガードすればダメージは無い。
もう分かった。
「修行を重ねて出直しなさい」
最後に励ましの言葉をかけてあげる。
あなたたちには期待するところがあるからね。
「くっ!」
咄嗟に突き出された短刀は、私の体に最短距離で向かって来る。
だがその分軌道が読み易い。
こんな速さでは武器破壊も武器落としもやりたい放題だね。
下から手の甲で相手の手元を打ち、短刀を上へと弾き飛ばす。
「……っ!」
ニコルルは口を引き結んで防御を固めた。
はい、残念。
そんな相手には投げと相場は決まっているんです。
うりゃー!
って天高く放り投げ、アルゼンチンバックブリーカーを決めたいところだが、まだできる自信は無い。
仕方ないから普通に背負い投げだ。
方向は……
当然結界だあ!
「きゃあああぁぁぁ!!!」
バチッて来たでしょ?
そしてはね返ったミコルルにぃ、距離を詰めてぇ、とどめの強パーンチ!
ドゴォッ
「またあなたなの……グラウンドで堂々と私闘って。ちょっと来てもらおうかしら」
あら、先生いつの間に……
これ、もしかして良くない雰囲気?
なんでぇ!?




