第三話 担任決定
煙が出ているが別に肉が焼けているわけではなく、衣服に損傷も無い。
それより女性が驚いている隙に、私たちが不審者でない事実を明らかにしなきゃ。
「はい、これが推薦状です」
「あ、どうも」
丁寧に差し出された物を腰を低くして受け取ってしまう女性。
日本のサラリーマンか。
「いやいや、そうじゃなくて。結界どうしたの、あなたたち?」
「どうするっすか? 壊して通りました、って言ったら怒られるんじゃないっすか……」
後輩はさっきまでの強気をすっかり忘れたのか、小声で尋ねてきた。
落ち着け後輩よ。
私たちは普通に訪問しようと思っただけなのに、警報が作動してしまっただけなのだ。
実際のところ結界は直ってるし、理由を話せば分かってくれるはずだ。
「見学させていただこうと思って来たのですが、ここを通ったら警報が鳴ってしまったんです」
「あらそう? ダメよ。訪問者はあちらの門から入らなきゃ……ってだから違うんだってば……なんなの、このマイペースな子は。調子狂うなぁ」
振り向いてブツブツ呟く女性。
あ、コウモリみたいな羽根生えてる。
サキュバス? それともバンパイア?
種族特性で快楽主義だったりするのかな?
女性はまた振り返りこちらを見る。
私も彼女の人種を知ろうとじっと見つめる。
「うっ、何でそんなジッと見てくるの……それと本当に結界突破してきたの? オーガでも四分の一も行けずに失神する威力なのに」
ぶはっ
そんなバカな。
私は彼女の言葉に噴き出した。
「なにがおかしいの…………もうやだ、私は何と話してるの?」
ブランクがあんなぐらいで失神するわけないし。
「あ、あれっすか、門て。何であんな離れた所に門なんか作るんすかね。分かりにくいじゃないっすか」
「この子も私のペースを乱してくるのね」
さっきから独り言多いな、この人。
モンスターペアレンツとかの増加でストレスフルな毎日を送ってらっしゃるのか?
メンタルヘルスを必要とされてるのか?
ストレス解消と言えば闘神像〜……
あ、ここには闘神像が無いのか〜。
不満顔の後輩、悩ましげな女性、そして闘神像が無いことに気づき絶望する私。
不思議な三すくみがこの場に発生していた。
「おい! 何やってんだ!? 援護が必要なら早く知らせやがれ!」
おっと、新手が来たぞ。
赤い忍び装束みたいなのを着たガタイのいい三十路男だ。
野生的な顔立ちは青忍者のライバルを彷彿とさせる。
時代に迷ったあげく番長合戦に参加してしまうおっちょこちょいな人だ。
木っ端微塵の術〜。
「あ、ヒュウガ先パーイ助けてくださ〜い」
「学院では先生って呼べっつってんだろ! このバカ後輩!」
「先輩……ヒュウガ先生だってバカって言ったぁ!」
「うるせ………………ふう、分かりましたよ、モルガノ先・生!」
やはり二人は教員の方だったか。
「先生だったのですね。来月からご指導よろしくお願いいたします」
ヒュウガ先生がジロリと鋭い目を向けてくる。
「来月からってことは、君たちが寺院の推薦を受けたと言う子か」
お、話が早い。
「結界を突破したな?」
「そういう試練だと思いました」
「バカなの……?」
グサッ
モルガノ先生の教員らしからぬ言葉が私の胸を抉る。
「お前が言うな」
いいぞ忍者! もっと言ってやれ!
「どうやって突破した?」
「一部結界を殴り消して、後は我慢して」
「バカなのか……?」
グサグサッ
ここの教員は倫理が欠如しているぞ!
バカって言ったやつがバカなんだからな!
「え、でも結界ってそんな簡単に消せますっけ?」
「一応できる……って何故お前が知らないんだ」
大丈夫かな、ここの先生。
防犯は外部委託なのかな。
「試しに、と言いたいところだが、結界に手を出して不具合が起きてもいかん」
う、そんな可能性があるんですか。
「それに、ここで騒いで学生に不安を与えるわけにもいかんだろう」
うう、申し訳ありませんでした。
「とりあえず彼女たちは職員室に来てもらうぞ。他の先生方に声かけてきてくれ」
「了解です!ヒュウガ先パ……先生!」
私と後輩はトボトボとヒュウガ先生の後を歩いて行った。
そして今、私と後輩の前には四人の先生が。
その内二人はモルガノ先生とヒュウガ先生だ。
あとの二人は、仏顔の……何この人の種族?
動く石像種?
「私は一年生の学年主任ブッドー、石人種です。よろしくお願いしますね」
「ミサです。この度はお騒がせして申し訳ありません」
「キャミィっす。お許しくださいっす」
石人種だって。
こんな種族もいるんだ。
ブッドー先生はホッホッホと笑いそうな穏やかな顔をしている。
石像だからか表情はジワジワ〜っと時間をかけて変わる。
だが私の直感は、きっとこの人は憤怒顔も持っていると囁く。
顔の前でクロスさせた腕を下ろした時には、怒りモードに変貌しているやつ。
怒らせちゃいけないタイプだ。
もう一人は、懐かしい。
ドラゴニュートじゃないか。
ゴニューゲルさん以来だ。
「私はリッズアド。寺院出身ならゴニューゲルと言う者を知っているかね?」
お?
「はい。ゴニューゲル師は五年程前に一度カプルコン寺院でお会いしました。我が師、ゴブシムも彼の遠布祈送法には甚く感心しておりました」
リッズアド先生はニヤリと笑った。
「私とゴニューゲルは従兄弟でね。高名なスライメン師の推薦をゴニューゲル経由で受け取ったのは、何を隠そう私なのだよ」
おお、まさかゴニューゲルさんの親戚だったとは。
「面白い姉妹がいると聞いてはいたが、まさか結界を強引に突破して来るとは驚いたよ」
はて。
ゴニューゲルさんとは極短い時間しか顔を合わせていないはずだけど。
まあいいか。
和尚とかスライメン先輩から何か聞いたのだろう。
「そうそう。強引に結界を突破した方法、私も気になりますねえ」
ホッホッホ、とブッドー先生が笑っている。
予想的中。
強引にって言ったとおりなのだが。
気属性魔法見せれば分かっていただけるだろうか。
「これ、見えますか?」
リーレイぐらい膨大な気なら目視できるのだが、私や後輩はモヤモヤ〜っと何か出ている気がする〜程度なのだ。
「何か見えます?」
「見えはしないが、力強さのようなものは感じるな」
「確かに。力が集中しているような……そういうことですか。これは、気属性ですね?」
ブッドー先生は気づかれたようだ。
さすが教師。
和尚も博識だと思っていたが、同じぐらいに知識が豊富な予感。
「気属性!? こんな子どもたちがですか!? バカな……」
だからバカって言った方がバカなんだぞ!
どうにもこのヒュウガ先生は口が悪いようだ。
苛立った私はヒュウガ先生に攻撃してくるよう申し出た。
見て分からずともやってみれば分かるだろう。
「だがな……子どもの君たちに手を上げるのは」
「気になさらず。少しでも削れたら嬉しいので」
「マゾなの!?」
モルガノ先生に誤解された。
ヒュウガ先生は引いている。
違うんです。
削れたら必殺技級ってことなんで研究対象にできるんです。
しょうがない。
後輩に殴らせるか。
演技じゃないから良く見ててくださいよ。
「でやあ! っす!」
つい最近ようやく強攻撃に至った後輩のパンチを上段ガードで受け止める。
ズン
床が揺れお茶碗の中身が少し溢れた。
ごめんなさい。
「うわ、重そ……」
そりゃ強攻撃ですから、それなりにはズシリと来ますよモルガノ先生。
「俺にもそのパンチ、打ってきてくれないか?」
「やだ……先輩ってマ」
「うるせえよ! 受けてみねえと本当に威力ある攻撃か分からんだろ!」
「ホッホッホ、ヒュウガ先生はお認めになりたくないようで」
「……!」
やれとおっしゃるならどうぞ。
「うりゃあっす!」
「ぐっ!?」
ちょっと不意打ち気味になってしまった。
それでも受け止めたのはお見事。
さすが教師。
「だ、大丈夫ですかヒュウガ先パ、生」
「……ホンモノだ………………くっくっく……はーっはっは!」
「せ、先輩がおかしく……」
「ブッドー先生」
「はい何でしょう」
ヒュウガ先生が真剣な顔でブッドー先生に向き直った。
ブッドー先生は変わらずホッホッホ顔だ。
「まだ一年生の担任、未決済ですよね」
「ホッホッホ」
どっちだよ。
「俺に、コイツらの担任を任せていただけませんか」
「ホッホッホ、良いでしょう。では二年生の彼女の担任は、モルガノ先生、よろしくお願いします」
「……ええっ! 私ですか!? …………な、なぜ……」
そんなガーンって顔しないでください。
失礼じゃないですか。




