第二十九話 合宿(前編)
「リ、リーレイお姉ちゃん、何してんの?」
「はっ? アンタたち、何故ここに!? こ、これはその……違うんだってば!」
あ〜あ、リーレイのダラけきった様子がラーニャたち四妹弟に見つかってしまった。
リーレイがカプルコン寺院に来て早三年。
後二年で刑期を終えるところまで来ているのだが、今や彼女はすっかりここの生活に馴染んでいる。
そして今、休日に寝転がりテレビを見るお父さんみたいなポーズでいたところを、サプライズでやって来たシスターズに目撃されたのである。
一応ここの名誉のために言うと、全体的な生活としては決してダラけたものではない。
リーレイも恐らくは偶然あんな格好をしていただけに違いない。
「だからこれは違うんだよぉ。もうこのままここで暮らしてくのも悪くないかな〜、なんて思って……な、い、あ、あはは〜」
「お、お姉ちゃん……」
ちょっとやめて。
そこはきっちり否定しないと。
「あ〜あ、シスターズが裏切られたって思っちゃうっすー」
「こらやめんかキャミィ。ラーニャ、これはたまたまだぞ。いつもは懸命にお主たちのことを祈っておるのだからな」
やーい、和尚に怒られてやんの。
後輩も十一歳過ぎぐらい、通算では前世の私に迫るぐらいの年齢だろうに、未だにガキンチョのままだ。
「冗談ですよ。リーレイお姉ちゃんがここで頑張ってるのは、よく分かってますから」
「うん」
「僕たちも」
「ねー」
「み、みんな〜」
いい感じの雰囲気に紛れ姿勢を整えようとするリーレイ。
良くも悪くも慣れたと言うことなのだが、一応服役中の彼女にとってはよろしくない。
ちなみにこの三年で被害者を全て見つけ出し、弁済は完了している。
和尚がこっそり調査したのだ。
刑期を終えた時、何の負い目も無く町に戻れるように、って。
にくいね、和尚。
さて、リーレイは後で気合い入れて直すとして、シスターズだ。
彼女たちを今回ここに呼んだのは、以前企画した強化合宿のためである。
どうやらミーニャはまだ資産家のお宅に家政婦として勤めさせてもらっているそうだが、他の三人は何と冒険者業も時折行っていると。
薬草の採取ぐらいだよね、って思ってたけど、魔物の討伐なんかもやるんだと。
それは危ないな〜ってことで、四人に強制的に休暇を取らせ、ここで三日間だけの合宿を行うことになったのだ。
まずは走り込みだ。
走りに関しては悪くない。
ラーミア、猫人、犬人、兎人、種族特性も走りに良いのだろう。
まあよくついて来る方だ。
ただし、それも地に足を着けて走ることに限定すれば、だが。
「ちょっとミサ。さすがにアクロバティックランニングさせる、なんて言わないよね?」
シスターズの姉として心配かね?
分かってる。
いきなり私たちと同じ水準を求めるわけもない。
でも見てみなよ。
普通のランニングでさえ、ちょっとずつ遅れ始めている。
「あ、めんごめんご。ついペースが速くなっちゃった」
過保護か。
そんなことじゃ妹たちの強化にならんよ?
「こ、これが準備運動? て言うか一段一メートルオーバーの百階段とか……殺す気?」
初心者は手を使っても、横壁使って三角飛びの要領で上がってもよし。
慣れたら何段跳びで上がれるかが最速チャレンジへの鍵だ。
しかし初級者コースでこれか。
忍者式ジャンプ力アップ法は年単位で時間かかるからなぁ。
どうしたものか。
と、考えている間にランニングが終わってしまった。
次は簡単、木登り壁登り〜。
「木登りって久しぶりにやったよ。楽しかった〜」
ワフリヌが笑顔で言った。
そうだろうそうだろう。
ランニングレベルを見てわざわざ枝や節くれの多い木を選んだのだから。
「で、次はどこ行くの? 行き止まりだよ、ここ」
「これ登るんだよ」
壁があるでしょ、目の前に。
「……壁だよ、これ?」
「うん」
「リ、リーレイお姉ちゃ〜ん」
こら男子。
情け無い声でお姉ちゃ〜ん、とか言うんじゃない。
どこかの女装家みたいになっちゃうぞ。
「大丈夫だよ。ちゃんと命綱用意するし、よく見たら足場だって多いでしょ?」
「お、お姉ちゃんたちの方はツルツルだね……」
そんなことはない。
よく見たまえ、細かい亀裂とか入ってるじゃないか。
これだけの手掛かりがあれば、あとは体の使い方で何とかなるのだよ。
「落ち着いて、ワフリヌ。闘神像を掃除していた時も張りついたり宙吊りになっていたでしょ? 同じだよ」
お、ミーニャよく気づいたね。
そう、闘神像をお掃除できれば、君たちの壁登りは大して難しくないのだよ。
ワフリヌもなるほど、と手を打っている。
納得したようだ。
ちなみに私たちはより高難度の壁登りを目指している。
最終的にはツルツルの巨大な柱に油を流すのだ。
ゴール寸前は高圧噴射のトラップ付き。
修行も気の持ちようでアトラクションになるのか、シスターズは壁登りを気楽にこなしている。
そして、結局一度も命綱に体を預けることなく、壁登りをクリアしたのだった。
次の修行、反復横跳び。
現場、池の上。
「ここは何? 泳ぐの?」
「いいえ、横っ跳びであの上を高速往復するの」
「あれって、葉っぱだよね」
「葉っぱだね」
見れば分かるでしょ。
しょうがないから、首を傾げるシスターズに一回やって見せることにした。
「うわ、速ぁい!」
「なあんだ、沈まないなら安心だね」
はい、デモプレイおしまい。
ではどうぞ。
ドボン
一瞬で落ちた。
リーレイが笑いを堪えている。
「お姉ちゃん!」
プハッと水面から顔を出してラーニャが怒る。
「あっはは! めんごめんご。この葉っぱ、上に何かが乗ったと察知するとひっくり返るんだ。察知される前に動けば平気だからさ。あ、あとそこ魔物出るよ」
「へ? ……キャー!!」
ラーニャは飛び魚のように水面から飛び上がり、陸へと上がった。
「い、今、ゾワゾワって何か這ったんだけど!?」
彼女は脚を触って身震いしている。
「ブハッ」
「お姉ちゃん!」
今度は噴き出したぞ、リーレイ。
ラーニャはムキーッと腕を振り上げ抗議の構えだ。
「大丈夫大丈夫。よっぽど長いこと水中に居なければ撫でられるだけだから」
「長居したら?」
「引きずりこまれて、食べられるかもね」
嘘だ。
ちょっと魔力吸い取られるぐらいなのに。
触手が長いだけで恐らくは最弱の魔物、それがラーニャの脚をくすぐった池クラゲと言う魔物である。
「ひいっ」
ほら、怖がって腰が引けてしまった。
「大丈夫大丈夫。今のあなたたちでも全力でやれば落ちることはないはずだから。じゃ、私が手を叩くまで続けるんだよ。行かなきゃ簀巻きにしてドボンだよ」
「大丈夫っす。一生懸命やれば落ちても私たちが助けるっすから」
「うわぁん!」
泣きながらヒョイルが横っ跳びを始めた。
ふむ、さすが兎。
跳び姿は中々様になっているぞ。
だがそれでは上体がぶれ過ぎだな。
「あ」
ほら体が流れて切り返しが遅れた。
「ひゃっふ、へっふ、へっふ!」
ヒョイルが慌てて陸地に向かって泳ぐ間、次のチャレンジャーが跳び始める。
ドボン
「キャッ」
ドボン
「ひゃっ」
次々と落ちていくシスターズ。
しょうがない、ちょっと再デモプレイといくか。
後輩、あれ取って。
「はいはい。どぞっす」
「それは?」
私が用意したのは魔物ドロップ品。
この辺りの魔物では今まで一つしか出てない超レアドロップの高性能アーマーである。
なんとどの装着者にもピッタリ合う、自動サイズ調節機能付き。
足が地面にめり込む程の重量だが、きっと防御力は抜群だろう。
難点はトンダとブランク二人がかりでないと体から外せないことぐらい。
まさにハイパーアーマー。
「呪いの鎧っす」
違うって言ってるだろ!
解呪しなくても外れるんだから!
とにかく、これで体の芯を安定させることの重要性を学んでもらうとしよう。




