第二十八話 みんなで気合いだ!
大地闘神(と思われる)声に導かれるまま、私は座禅を組んだ。
思えば気属性を使ってみせたリーレイの言葉を心に留めるとしておきながら、どこかそれを信じていなかったかもしれない。
私は前世の知識の方を信じてしまっていたのだ。
丹田に熱い力を集めて何たらかんたら……
気を習得した様々な主人公たちの言葉である。
違う!
ここでは気とは魔法の一種なのだ!
思い出せ、あのリーレイの変態的な目を!
過剰な思い込みを!
「ミサ、なんか失礼なこと考えてない?」
「お、リレイっちも分かるようになったっすか」
「そういうのは大体合ってるぞ」
「ちょっと離れとこう」
私は今まさに心にある強攻撃成功の感動、大地闘神への感謝、格ゲーへの思いと祈りを凝集する。
そしてそれをかき回す。
サッカーボールをヒールで跳ね上げ、スピンのかかったボールを蹴り抜く如きイメージ。
最強の必殺シュートだ!
ボッ
あっ、今何か来た!
集中集中。
おお、私の胸に小指の先程の力の塊が。
分かる。
これはリーレイと同じ力、気属性だ。
断然小さいけど……
いいんだ。
とりあえずこれを操る。
ムムム。
お、お、遅い。
ビー玉大のエネルギーが、ゆーっくりと胸から拳へと動いて行く感じ。
次は脚に。
ムギギ。
これは、気属性の集中特性ってやつだな。
次は分散。
行くぞ。
はっ!
あっ、消えて無くなってしまった。
ああ、もったいない。
でも力んだ割には疲労してないな。
はあっ!
よし、再生成ももうできるぞ。
やっぱり大きさはビー玉程度か。
ビーすけー!
できてみてようやく思うのは、リーレイって本当に気属性の才能があるんだと言うこと。
あんなに大きな気を扱えるんだから。
何はともあれ、ありがとうございました。
感謝の正拳突き一発。
もちろん気を込めた拳で。
少し威力が上がった気がするけど、攻撃に使うと気が吹っ飛んでしまった。
必殺技枠かな。
まあまあ、必殺技も惹かれるが、優先すべきは防御だ。
次の課題が決まった。
一つ、せめて前腕や下腿など、防御に使用する部位は気で覆えるようにすること。
一つ、防御の度に気が消失しないように、留めておけるようにすること。
この世界の魔法が詠唱制でなくて良かった。
属性への適性と、魔力と、魔法を発動させる意思があれば、あとは試行錯誤を重ねるだけだ。
そう、必ずしもイメージ通りにいかないのが、この世界の魔法なのである。
例えば、火の魔法をどう発動させるかと言うと、熱い想いを何かにぶつけるのだ。
言ってて恥ずかしいのだが、滾るハートと言うやつだ。
決して現象としての炎をイメージするのではない。
水もそうだ。
心に穏やかな潤いを巡らせねばならない。
風なら自由、土なら安定という具合に。
一応属性から連想できるものではあるようなのだが、知らなければ中々答えに辿り着けるものではない。
だからそれぞれ違った属性に適性のある人たちに教えてもらえる、今の環境はとても良いのである。
ここで気属性に話を戻そう。
和尚はかつて火属性と無属性に適性がある、と自らのことをおっしゃったが、無属性は大抵誰にでも適性はある。
その性質は魔力を操ると言うものであり、無属性に適性が無いと魔法の威力が安定しないなど、ちょっと困ったことになる。
無属性とはこのように、魔法を使う前提スキルのような存在だが、それだけに発展の奥行きも深い。
基本属性以外の様々な属性で、火とか風とか分かりやすい現象が出ていないものは、大体無属性の亜種とか言われる。
気属性もその無属性の亜種と言われていると和尚はおっしゃっていた。
風属性を介さないで扱えるのであれば、やはり以前考えたように誰にでも使える可能性があるのではないか、とは既に考えていることだ。
だから私はトンダたちに、気属性を習得してもらうべくこう言おう。
「リーレイっぽくなってみて。違う。ほわちゃ的なポーズじゃなくて、ヘンタイぽい時のやつ」
「誰がヘンタイじゃコルァ!」
「落ち着くっす! 多分悪い意味じゃないっすから!」
「本人すら良い意味で言ってないと思うがな」
怒られた。
どう表現せよと言うのか。
「よし、整理しよう」
和尚が言うとみんな大人しくなるんだ。
よし みんなきけ
試合前のミーティングはとても大事。
「リーレイは言っておったな。『え、と。みんなが私のこと助けに来てくれてぇ、すごくドキドキしてぇ』」
いや、再現はしなくていいんですよ。
リーレイが言ってもイラッとするのに、和尚が言ったらもう、何て言うか、救いが無いですよ。
「『私にもできる気がしてぇ、その気になってぇ、気合い入れてみたらぁ』」
だが尚も続ける和尚。
もしかして気に入ってます?
「『すっごい体に力が漲ってきたんですぅ』だな?」
違います。
そこは言い切らせずに言葉かぶせてました。
それは置いといて、私の場合は強攻撃成功の高揚した気持ちを、色んな感情と融合させるようにサイクロンしたら……
ぶわぁっと盛り上がるような万能感が……
あれってトリップとかそんな感じだったのかな?
え、私ってヤバい奴?
「う〜ん」
後輩が名探偵のようなポーズで考えてる。
なにかね?
「ゾーン、じゃないすか?」
「ゾーン?」
後輩を除く私たちは声を揃えた。
後輩はちょっと自信無さげだ。
珍しい。
「めっちゃ凄い集中状態のことっす。周りが見えてるのに見えてない。聞こえているのに聞こえていない。打つ前からボールの弾道が見えたとか、相手のパンチが止まって見えたとか、そんな超能力状態になるんすよ」
コンセントレーション!!
ラーメン大好きな人がナイスショット打つ前のあれか?
相手のパンチが止まって見えるのは、アドレナリンがどうのこうのじゃなかったっけ?
アドレナリンとかドーパミンとか、私はそんなに詳しくないぞ。
それはともかく、言われてみると確かに超集中していたような……
「なるほど、それは良い推理ではないか?」
「そ、そっすか?」
謙虚に照れる後輩、新鮮だ。
「思えば祈りの時など感覚が研ぎ澄まされる瞬間はあるが、そこから魔力の操作に移ったことはなかった」
うんうん。
祈りの時はひたすらにボコスカやるか、全力の魔法をぶつけるかだから。
「感覚が極限まで研ぎ澄まされた状態の時に、魔力を渦高く巻き上げるのか?」
おお、いい線いってる気がする。
「感覚が研ぎ澄まされてる時か、俺はよく分からない。もしかしたらあったかもしれないが」
「我も分かるような分からんような。そこからだな」
「大丈夫っすよ!リレイっちのあんな状態でいいんすから、みんな自信持つっす!」
「この言われようは何なのかなあ!」
そうか、ゾーンに入る方法は人それぞれなんだ。
困ったな。
自分以外の心理状態なんてちょっと分かりそうにない。
和尚〜、どうしましょう?
「案ずるな。お主たちは既にその精神状態に、己の意思で持って行ける水準にあるはずだ」
さすが我らが和尚、ゴブシム師だ!
未熟な我ら修行僧を導くべく、見守ってくださっている。
「キャミィはミサと同じような所があるから、すぐ分かるだろう。トンダは故郷への思いを胸に、天高くから見下ろすように己を見てみてはどうだ? ブランクはお主の優しさがそのまま力になるだろう。自身もその慈しみに包んでみよ」
「姉様と同じって……そんなぁ」
おい後輩。
聞こえてるぞ。
「兄への……里への思いを」
「俺自身を、慈しむ」
後輩はさておき、トンダとブランクは和尚の言葉に感じ入るものがあったようだ。
目が澄んでいる。
二人とも闘神像に向かって礼をした。
「大地闘神、祈りをお受けください」
「俺も、よろしくお願いします」
「私もーっす! 今日も可愛いパワーを炸裂させるっすからね!!」
置いて行かれてたまるか、と飛び込んだ後輩と共に、トンダもブランクも、気属性を習得した。
よしっ、よしっ!
着実に世界は格ゲー化に向かっている!




