第二十七話 唸れ!強パンチ
修行は続いている。
リーレイもようやくアクロバティックランニングのなんたるかを分かってきたようだ。
つい先日、地面に足を着かずにランニングコースを完走してきた。
忍者修行を欠かさず続けてきた巨体二名もかなり素早くなってきたぞ。
あまり体重をかけ過ぎず移動する方法を編み出したとかで、木を折らずに飛び移れるようになっている。
後輩は魔法の研究に熱心だ。
まだ魔法少女を目指しているんだって。
火、水、風、土の基本属性は面子が揃っているため捗っているようだ。
雷はもう少しで何か掴めそうらしい。
気属性は私と一緒で研究中である。
私も推定九歳半。
十歳になるまでには気属性を習得したいものだが……
まだ発動させることはできていない。
強攻撃を成功させる方が先になるかもしれない。
「姉様〜、私たちが気属性を習得するには、体力が足りないんじゃないすか?」
「どういうこと?」
「ほら、和尚が言ってたじゃないすか。鍛えられた精神と肉体がどうこうって」
むう。
私は唸った。
「精神……」
「いや、なんでそっちなんすか。精神モンスターの姉様でステ不足してるなら、みんなダメっすよ」
誰が精神モンスターだコラ。
「その点肉体は私たちどうしよもないっすよね? 子どもなんすから」
後輩の言いたいことは分かる。
この身になって分かったことだが、子どもの方が柔軟性や身軽さという点では優れている。
だが、どうしても容量と言うか、エネルギーの総量としては低いと言わざるを得ない。
大人の体は一々エネルギーを食うが、やはり発揮できるエネルギーも大きいのだ。
私が強攻撃を未だ放てないのも、その辺りがネックとなっている。
ただ、もう少しという感触はあるのだ。
毎日直向きに祈り、殴り、蹴る。
一撃も疎かにしないその積み重ねが、私の攻撃を効率の良いものへと変えていってるのかもしれない。
十歳になるまでに、気属性開眼が先か強攻撃到達が先か。
期待とか希望があって、楽しい日々であることは否定しようもない。
そう、気属性のことをあれこれ悩み考えることだって楽しいのだ。
シスターズが町に戻って、三回目の買い出しの日が来た。
今回はリーレイ、トンダ、ブランクの三人が当たり。
和尚、私、後輩は留守番だ。
買い物当番に外れたのは残念だが、良い面もある。
闘神像への祈り時間がその分回されるからだ。
寡占状態うまし。
相変わらず闘神像はいい手応えを返してくださる。
また、私の打撃が着実に成長していることを教えてもくださる。
一々空手稽古で木をへし折ったりしなくてもレベルアップが分かるのだから自然にも良い。
木を殴り倒したり岩を壊したりと、そういう方法でしか力を測れないと思っている人たちには、是非闘神像への祈りをお勧めしたい。
手応えと言えば、最初に私が闘神像を殴った時と現在とでは、感触が異なる。
最初はボウンって感じで空洞の大きな薄い箱でも殴った感じだった。
それが今は、厚く弾力のある革張りのソファなんかを殴る感じだ。
経験無いから分からないけど、サンドバッグとか殴るとこんな風だろうか?
吊り下げられた精肉を殴るアレも経験してみたいのだが、その段階は通り過ぎてしまったのだろうか。
強攻撃に至った暁には、自動車を殴る感触ぐらいになるかもしれない。
もっと強化されると戦車とかかな?
きっとどれだけ強化しても、ストレス発散には素晴らしい効果を発揮するのだろう。
それだけ大地闘神は懐が深いのだ。
絞り込むように、打つべし、打つべし。
自分の意思で拳を突き出す行為と、闘神像から返される打撃の衝撃。
二つが私の体と精神を鍛える。
祈りは受け入れられ鍛錬に適している。
己のレベルも知ることができるとくれば、大地闘神を信仰する人が絶えないのは納得がいく。
ビシビシビシバシバシバシ
ふう、今日もありがとうございました。
買い出し班が帰って来た。
「どうだった?」
「いやぁ、大変だったよ〜。あはは」
ん〜?
この反応は、大変なことがあったけど解決したって感じかな?
「大変だったと? あの子たちに何かあったか?」
和尚は本気の心配モードだ。
「あ、大丈夫です。みんな無事だし健康ですから。……でね、ちょうどみんな休みだったからさ、みんなで買い物行こうって話になってね」
こらリーレイ、あなたは一応服役中でしょうが。
まあ元々の目的が買い出しだから大目に見ていいのかな。
「その途中で誘拐事件に遭遇しちゃったんだよ」
「なんと!」
で、掻い摘んで話すと、その誘拐事件を解決したのが買い出し班とシスターズなのだと。
被害者は資産家の御息女で、誘拐犯の一人を倒したのがミーニャだって。
そんな弱い誘拐犯に攫われる御息女って赤ちゃんか。
と思ったら、ミーニャと同い年らしい。
まあそれで御息女とご両親に気に入られてミーニャたちは、その資産家宅に専属家政婦として雇われることになったそう。
今までは派遣のような形だったから、一気に安定感が増したわけだ。
「ちょっと、それって身辺警護も職務に含まれますとか言わないよね?」
「え? そりゃ多少は期待されてるんじゃない?」
そんな無茶な。
私のパンチ一発も耐えられない程度の、最低限の護身しかできない弱っちがそんな期待されて良いわけがない。
「大丈夫だよ。ここで掃除とかをこなしてたんだよ? ここ出てからも修行の真似ごとしてるみたいだし」
掃除してたから何だと言うのか。
余計不安だわ。
たまにはここに招いて研修させる必要があるかもしれない。
「暮らしがもっと安定したら、あの子たちが小旅行気分でここに来ても良いかもな」
「やった!」
和尚は安心したようで、そんな気の抜けたことを言っている。
喜ぶのはリーレイばかり。
よし、旅行に来たなら特訓だな。
第一次強化合宿計画スタートだ。
合宿という考えが頭を過ぎってから、修行では改めて基本を丁寧にこなしていた。
シスターズが来た時しっかり教えられるように、である。
その成果だろうか。
今日は調子がすこぶるいい。
体が軽く、蹴り脚も強く感じ、走ると飛ぶような疾走感がある。
突きを放てば空気を裂くような速さと、体の芯から湧き出る力を感じられる。
私は確信した。
ブレイクスルーの瞬間は、今日くる。
組み手でもトンダが目を丸くしている。
「ミサ、今日は下がらんでも良いのか?」
そう、超重量級のトンダの攻撃を捌くには、いつもなら後退し威力を殺さねばならないのだ。
だが今日は踏みとどまって捌ける。
「謎の若返りの花でも咲くんすか?」
パンツ一丁のカッパじゃねえわ。
いや、しかしそれぐらいの力溢れる状態と言っても過言ではない。
あっさ、ひる、ばん!!
ばん、に合わせて放った拳はトンダの腕に跡をくっきり残し、その体を僅かに後退させた。
「むう、相当な調子の良さだな。中々響いたぞ」
よしっ! これは大地闘神に披露せねばなるまい。
私は早速闘神像の前に駆けて行った。
よろしくお願いします!
一礼して構える。
深呼吸。
息を吸い過ぎず、出し過ぎない適度が分かる。
立ちパンチ=左ストレート。
立ちキック=右ハイキック。
しゃがみパンチ=伸び上がりアッパーカット。
しゃがみキック=回転足払い。
すべてにおいてデュクシ音発生。
強攻撃成功だ。
やった!
高速連打の弱攻撃、隙が少なく時にトリッキーな動きにもなる中攻撃、隙はあるが威力も大きい強攻撃。
とうとう全てを修めたんだ!
まだほんの基本攻撃を一通り、しかも気合いを入れてようやく、できるようになったレベルだ。
それでも私の胸は感動で一杯である。
闘神様、いかがですか?
今までに無かった重い打撃音が返ってくる。
大地闘神も少し満足しているようだ。
気属性もついでにできませんかね?
ちょっと欲をかいてみた。
……え?
いいんじゃない?
そんな声が聞こえた気がした。




