第二十六話 さらば家政婦(夫)
リーレイとシスター&ブラザーズが来て早半年、ラーニャたち四人は今では立派な家政婦であり家政夫と言って良いだろう。
寺での生活もすっかり慣れ、リーレイだけでなく私たちみんなの家族のような存在になっている。
――だがその日々ももうおしまいだ。
彼女たちは町に戻り、働きながらリーレイの帰りを待つのだ。
「半年よく頑張ったな」
「そうね、家政婦見習いから頭一つ分ぐらいは抜け出た、って感じかな」
「姉様、そこは一人前になった、でいいじゃないすか」
「おう、おかげで我らも大分楽だったぞ」
「寂しくなるな」
「和尚、みんな、今日までありがとうございました」
「リーレイお姉ちゃんを引き続き、よろしくお願いします」
「すごく楽しかったよ」
「まだここにいたいな……」
「ヒョイル!」
呟いたヒョイルを姉たちが咎めようとする。
でもまあヒョイルが呟くのも無理はない。
食うや食わずの生活で姉に頼りきりだった町での暮らしと比べれば、ここはさぞ充実していただろう。
衣食足りた安心な住まいに、家事全般を引き受け頼られる充実感もあったのだから。
しかしここはリーレイの罪を償う場所なのだ。
彼女の家族がいつまでも近くにいるのはよろしくない。
幸い町に戻っても働き口に関しては心配無い。
ラーニャたちの、家政婦としての能力を活かせる勤務条件を発掘してきたからだ。
和尚が。
子どもなので当面は二人で一人分となるだろう。
それでも二人働けば、子ども四人が生活していくには十分な収入を得られそうなのだ。
欲を言えば、あと半年あれば少しは修行を体験させてやれるのだが。
最低限の護身術を学ばせるだけで終わってしまった。
て言うかどうせリーレイなんて服役とか言っても、私たちとやること変わらないんだから。
シスターズも修行させればいいのに。
その提案は「修行を始めるにはまだ幼過ぎる」って退けられてしまった。
私と後輩はもっと幼くして修行開始してんですけど。
そう言えば、私たちってどうやってここに置いてもらって、修行させてもらったんだっけ?
もう五年ぐらい前だし、まだ体も頭も小さかったから忘れてもしょうがないか。
「ラーニャ、ミーニャ、ワフリヌ、ヒョイル……ごめんね。お姉ちゃん一緒に行けなくて。お姉ちゃんしっかりお勤めするから。終わったら迎えに行くから。みんな待っててね」
「お姉ちゃんいいなぁ」
「僕も残りたいよ」
「羨ましい」
「え!? そ、そうなの?」
ミーニャと弟二人の答えにリーレイが戸惑った顔をしている。
「冗談だよ。お姉ちゃんがいつも頑張ってることは知ってるから。昔から、ね」
「ラーニャ」
「私たちも負けないように頑張る。そして、お姉ちゃんの帰りを待ってるから」
「お姉ちゃん!」
「頑張ってね!」
「大好きだよ!」
「みんな……ありがとう……ぐすっ……う、う、うえ〜ん!!」
「あ〜あ、泣いちゃったっすね」
「良いものだな、兄弟というものは」
「ぐすっ、妹たちのためにもがんばれよ、リーレイ」
後輩は見ていられないと言った感じで顔を背けた。
トンダは兄とのあれこれを思い出したのか、遠くを見ている。
ブランクは、相変わらず泣き虫だ。
私はそっとその場から去ることにした。
「あ、ミサお姉ちゃん」
「寂しがってるトコ見せたくないんすよ。姉様は」
せめて、無事に山を下りられるようにお祈りをしてあげよう。
私は今日だけは、闘神像に格ゲー以外のことを祈った。
後日、シスターズを送った和尚から聞いた。
シスターズは下山中、和尚の監視下何体かの魔物を倒したそうだ。
一対一では危なっかしいが、二人がかりなら一体を十分倒せると。
うーん、あの程度で危なっかしいのか。
やはり修行をつけてやれなかったのが悔やまれる。
「子どもができることではない。大したものだ」
トンダが感心している。
ははは、そんなバカな。
そして和尚は四人に冒険者登録をさせ、今日までのお給金を渡したそうだ。
ラーニャたちはビックリして突き返そうとしたみたいだけど、最終的には泣きながら受け取ってくれたって。
さすが和尚は分かってらっしゃる。
研修中でも給料はきちんと発生するのだよ、我が寺院は。
「和尚、ご相談が」
「どうしたミサ?」
和尚から大方の報告を聞き終えた後、私は切り出した。
「お買い物サイクルを少し早められませんか?」
二か月に一回ぐらいで。
「なるほど。理由は分かるな、皆も」
そう、理由はシスターズを見守る時間を確保することにある。
「あ〜、これは毎回買い出しの立候補争いが起きちゃいそっすねぇ」
チラリとリーレイを見ながら言う後輩。
イジワルか。
当のリーレイは正座から立ち上がろうとしたり、思いとどまったりしている。
立場が立場だから遠慮してるのか。
「俺も行きたいな」
おっと、空気を読まないとはこのことだな。
ブランクのナチュラルな発言でリーレイがガーンって顔してるぞ。
「私も行きたい」
「我も」
「私もっす!」
だが容赦せん! 望みを叶えたくば力を求めるのだ!
口をワナワナさせ、リーレイは今何を思うのか。
「拙僧もだ」
oh、まさかの和尚からの追い撃ち!
リーレイが崩れ落ちそうになるが――
「もちろんリーレイも、毎回行けるように励むといい」
「え?」
「滅多に訪れぬ面会の機会、逃したくはなかろう?」
「わ、私、毎回行けるんですか?」
そうは言ってない。
「祈りを以て皆を納得させてみせよ。拙僧ら一同、期待しておるぞ」
「は、はい! ありがとうございます!」
ま、いいんじゃない。
希望が出てきた様子のリーレイを置いて、私は魔物を倒しに行くことにした。
今日は食事当番なんだもの。
さて、半年という期間は決して長くないが、それでもリーレイは、お勤めとしての闘神像への祈りを許されるに至った。
今日がその初祈りの日だ。
「そう硬くならんでも良い。ただ強く、願いを込めて闘神像に祈りをぶつけるのだ」
「はい」
彼女の願いは分かっている。
とても限定された範囲だが、世界の平和にも繋がる事柄と言えるだろう。
その繋がりが、世界平和を祈る私のそれと比べて、極々細い糸だとしてもだ。
「姉様の祈りと比べればよっぽど尊いっすから、大丈夫っすリレイっち」
失礼だぞ!
それと自分のことを棚に上げるんじゃないよ。
「うん」
うんじゃない。
私の願い、世界平和としか知らないはずでしょ。
とにかくリーレイは気息を整え一礼した。
むむ、心が昂るなぁ。
事前にほわちゃ系の掛け声は禁止してある。
さあ! その鍛えられた脚で私を唸らせるキックを!
「はぁぁぁぁあ……ヤァッ!!」
うん、見事なハイキックだ。
だがまだ出せるはず。
「ヤァヤァヤァヤァ、ヤァッ!」
これだ……!
トンダの張り手と双璧を為す百烈系の連続攻撃。
その片鱗を見せてもらった。
今はまだ五連撃だとしても、その速度はトンダを上回る。
そして彼女は気属性に愛されている。
重量系キャラと互角以上に戦える軽量系スピードキャラの爆誕だ。
「よくやった。良い祈りだ。きっと町にも大地闘神の加護が届いておるだろう」
リーレイは目元を手で覆った。
祈りが通じた時は独特な感動があるからなぁ。
まして彼女は罪に対する罰を受けながら暮らす身。
自分の祈りが大切な人に届く喜びは一入に違いない。
しばらくして顔を上げたリーレイは、まだ潤む赤い目のまま、闘神像に一礼をした。
「ありがとうございました。私、これからも一生懸命祈りを捧げます。もっと、もっと強くなります。ですから、どうか町を、あの子たちをお守りください」
よく言った。
それでこそ格ゲー界を代表するヒロイン。
よし、私も負けてはいられない。
差し当たっては気属性の習得を目指すのだ!




