第二十四話 修行は厳しい
ハーピーさん、即ちリーレイが寺で修行することになったことは嬉しい。
嬉しいのだが、我が家、カプルコン寺院で過ごすことが刑罰上の労役になるんだろうか?
それって家での生活イコール服役って言われてるみたいじゃん?
複雑なんですけど。
それとも何か、懲役刑ではなく禁錮的な刑で、山奥に閉じ込めることで事足りると?
家での生活なんて規則正しいだけで苦行でもなんでもないからね。
お寺への帰路、子どもたちにはやはり長い登山は厳しかったようだ。
二人がトンダの、もう二人がブランクの肩に乗っけてもらっている。
しかしリーレイは大人なのにちょっと遅れがちだ。
「うひゃっ、魔物!?」
魔物にもすぐ追いつかれる。
「倒すなり振り切って来るなり好きな方でいいっすよ!」
新たな後輩が女性だから後輩が嬉しそうだ。
可愛い方面へ誘導しようと今から率先して面倒を見るつもりだろう。
「そ、そんなこと言っても、もう脚が疲れて、とても魔物倒すなんて」
「お姉ちゃんがやられちゃう! お兄さん助けて!」
「分かった、任せろ」
あ、ブランクが少しニヤけてる。
こんな頼られることなかったし、初めての後輩だから嬉しいのだろうか。
肩に乗せていたラーニャとヒョイルを降ろし、あっと言う間に魔物を倒してあっと言う間に戻って来た。
「ア、アタシも乗せてってくれれば……いや、これも罰……」
こんなこと罰って思われても。
立派な脚力を持っているはずなのに情け無い。
よし、ここはしっかり鍛えて、刑期中に一人前の格ゲー戦士になってもらおうじゃないか!
あっと、リーレイの属性も忘れずに聞かないと。
私は確と心の中にメモをした。
まさかお寺に戻るまで丸三日もかかるとは。
リーレイはほとんど倒れ込むように寺へと入った。
二十四時間ぶっ通しで放送する名物番組の、締めを飾るマラソンのゴールのような到着だった。
大袈裟。
ついでに知ったこと。
ペースを乱され、のったり進むのは結構疲れる。
「おお、お帰りなさいませ。一気に賑やかになりましたなぁ」
リーレイへの拍手を聞きつけて寺から出て来たゴニューゲルさんが、目を丸くしている。
「ただいま帰りました。何日も留守を預かっていただきありがとうございました。お陰様で仕置きまできっちり終わらせることができました」
和尚は町での経緯を説明した。
ゴニューゲルさんは私たちの顔をにこやかに見回す。
「なるほど。しばらくは慌ただしい毎日になりそうですな」
いえいえ、こんな場所で一人でやっていたゴニューゲルさんに比べたら、どうと言うことはありませんよ。
「しかしここは大地闘神の御手が広い所ですな。祈れど祈れど足りぬ気がして、正直ゴブシム師方が帰られてホッとしております」
あ、じゃあいっぱい祈らないといけませんね。
て、まだゴニューゲルさんは言いたいことがあるようだ。
「申し訳ないのですが、遠くへ祈りを届けるために、この周辺の祈りを弱くしました。魔物が少々強くなっているやもしれません」
「おお、遠布祈送法とは。さすがですな!」
そんなことできるんだ。
「拙僧らは一向に構いませぬぞ。むしろ良い修行になりそうですな。むむ、これは採用してみてる価値がありそうな……」
魔物ザコばっかりだったけど。
光の玉が奪われた地底世界で言えば、スライムがゴーストになった程度だろう。
竹竿いりますか?
でも子どもたちがいるから、外遊びは気をつけてあげないといけないかな。
和尚が悩んでいるが、私はどっちでも良かった。
リーレイだけは泣きそうな顔してた。
ゴニューゲルさんは引き継ぎを終えるとすぐ帰って行った。
あの人も凄く強いんだろうな。
スライメン先輩と同様に、今のところ格ゲー枠からは外しておこう。
さあ修行の再開だ!
ラーニャたち四人のちびっ子たちは、毎日楽しそうだ。
元々年齢より大人びてる子たちなので、大騒ぎしたりはしない。
だが、衣食住で困ることが無い生活がありがたく、リーレイが作り笑いをしなくて良いことが嬉しいらしい。
掃除、洗濯、炊事、諸々の家事雑事を進んでやってくれる。
「ミサ姉様の家事指導は厳しいっすから、泣きたくなったら私に言うっすよ」
厳しくないし。
ただ、やるからにはどこに出しても恥ずかしくない家政婦にしたいじゃない?
「家政婦じゃないっすからね?」
後輩とは意見が合わないな。
で、その作り笑いから解放されたリーレイと言うと。
「ひ、ひは、ひぃ、はぁはぁ」
毎日こんな感じ。
ゾンビみたい。
作り笑いもできないようなんですけど。
って、作り笑いとか言わないであげてよ。
あのチンピラたちに「ムカつく」とか言われてバカにされた時から、ちょっと気にしてるっぽいんだから。
さて、ゾンビハーピーにもう一押しするか。
「ちびっ子たち集合!」
「なになに〜?」
「今から鬼ごっこしまーす。鬼はリーレイでーす」
「トンダ、止めてやれば……」
「断る。下手に止めれば巻き添え食うぞ」
「それは嫌だ」
「なら黙ってろ。なに、リーレイのためにもなることだ」
リーレイが頭を抱えて蹲る。
「も、もう脚が動かない……」
「大丈夫大丈夫」
私は回復魔法で覆った手で彼女の脚をマッサージしてやり、立ち上がらせた。
「お、鬼」
「鬼はリーレイだし」
「そう言う意味じゃ……」
「じゃあみんな、頑張ってリーレイお姉ちゃんから逃げましょ〜。もーいーかい?」
「もーいーよ」
あ、ミーニャめ、わざと捕まってやったな。
見える程度の敷地内で済ませてるんだ。
情けなどいらぬ!
そうそう。
直前でフェイントかけて躱すぐらいでいいんだよ。
ナイスラーニャ。
「こういう時こそ笑え! 苦しいって思ったら余計苦しくなるぞ!」
トンダ先輩のありがたいお言葉が飛んだ。
ぷぷ。
「お姉ちゃん、楽しいね」
「ラーニャ……はぁ、はぁ。あっはは………………あっはっは! あーっはっはっは!」
ちょっとヤケが入ってるけど、その笑顔はホンモノの気持ちが込められてるような気がした。
鬼ごっこが終わった時、リーレイはスッキリした笑顔を見せていた。
「先輩〜、もう少し丁寧に運んでもらってもいいんですよ〜」
トンダの肩に担ぎ上げられ不満を漏らすリーレイ。
鉄骨とか俵とか担ぐあの持ち方だ。
「我が儘を言うな。魔物が襲って来たらすぐ対処せねばならんのだ」
トンダの高い意識には頭が上がらぬ。
でもリーレイこんな美人なのに、何とも思わないのかね?
「オーク以外は中々美人には見えん」
そ、そうなんだ。
どうやら様々な種族の人がトンダと同様、外見的には自分と同種族の異性に好ましさを感じるらしい。
特に必要ない知識だと思います。
「うぷ……ちょっと食欲無い……」
「少しずつでいいから食え。回復が遅れて明日の修行がより辛くなる」
そう言うブランクもそうでした。
「今日は僕たちが作ったんだよ!」
ワフリヌとヒョイルがいい笑顔を見せる。
みんなより少し大きめの魔物ドロップ肉が、リーレイの前に鎮座している。
「あ、ありがと」
リーレイは笑顔の涙目だ。
食事当番のサービスが裏目に出ていることは疑いない。
給食で食べ残しを許されない生徒のように、みんなが食べ終えた後で、リーレイは食事と睨めっこしながらコツコツと食べ進めるのだった。
リーレイがせねばならないのは修行だけではない。
掃除などの家事も彼女が分担する部分はあるのだ。
今は子どもたちに優先してさせねばならないから、彼女の負担分はほぼ無くなっているが。
子どもたちが慣れて来たら、家事雑事の教官は子どもたちになり得る。
リーレイの苦難の日々はまだまだ続くのである。
人は環境に適応するものである。
半月が過ぎた頃、リーレイは修行に大分ついて来られるようになっていた。
「ゼェゼェハァハァ」
息が上がるぐらいは仕方ない。
「リレイっち、大丈夫っすか? 顔青いっすよ?」
「ゼェゼェ」
「む? 過呼吸起こしておらんか?」
慣れとは生物に与えられた、生き抜くための力なのだ!
「落ち着いて、ほら、手を口に当てて息を大きく吸って……」
よし、そろそろ魔法のことも合わせて修行だな。
「おい、目が遠いぞ! おーい!」
……え? 今日はムリなの?




