第二十話 アウトかセーフか
私と後輩の思いが通じた。
トンダもブランクもハーピーさんを探す手伝いをしてくれるそうなのだ。
「二人が世話になったならば、我からも礼を言わねばなるまい。保護者として」
「俺も二人を放って行くわけにはいかない。保護者として」
おい、私のが先輩なんだけど?
そういう扱いは後輩だけにしてくれたまえよ。
「何か手がかりは?」
「私に名案があるっす」
そう言うの大体失敗するんだぞ。
でもとりあえず話はさせる。
「簡単っす。トンダとブランクは酔ったフリして、お金入った袋ぶら下げて歩いてくれればいいんす」
「どういうことだ?」
ちょっと、それはよくないよ。
二人は首を傾げるが、私には後輩の作戦は理解できた。
スリのカモを用意して誘い出そうと言うのだろう。
しかし前回の買い出しから帰った時、トンダたちにはハーピーさんについて、いいことしか伝えていない。
いやまあ、あの時ありのままを伝えれば良かったのだけれども。
とにかく事前情報無しに盗ませたりしたら、ハーピーさんが二人に捕まって捻り殺されちゃう。
それに、何て言うのかな。
人の悪い部分を利用してこっちの望む状況を作り出そうってのは、気が進まないよ。
あ〜、でも他のいい探し方なんて思いつかないし〜。
迷っている間に計画は開始されてしまった。
俯いて肩を組み千鳥足で歩いてくれる二人。
私は悩みながらも離れた所から後輩と後をつける。
この方法でもし私たちがハーピーさんを見つけたとして、盗みは良くないって諭せるだろうか。
その後で前回のお礼を言ったり、勧誘されたりしたらハーピーさんはどう思う?
いーっ!
分かんないよー。
いや、やっぱりやめる!
彼女は怪盗ではない。悪と戦う捜査官でなければならないのだ!
初心に返った私は決意した。
「ねえ、やめよう」
「ちょ、姉様何を!? いい感じでいってるじゃないすか!」
「何だ? もう終わりで良いのか?」
「俺も変な歩き方は嫌だけど。……二人ともケンカするな」
私と後輩の口論が始まった。
演技から解放されホッとしていたトンダたちも戸惑っている。
と、その時
「いてえな、気をつけろ!」
「あ、あいつの持ってる財布お前のじゃねえか?」
「盗っ人だ! 追いかけろ!」
誰かの野太い声が上がった。
まさか!
一瞬黒装束が細道に入るのが見えた。
遅れて現れた三人組は財布を盗まれた被害者だろう。
左右を見回すその顔は赤く、目付きは胡乱だ。
酔った人を狙ったのか。
私はそう思うと同時に走り出した。
「姉様私も!」
「お、おい! そんな速く走ると追いつけない!」
「ブランク、ミサたちは屋根に上がるぞ! 上を見ながら追いかけろ!」
黒装束の走りは鋭い。
平地ならば私でも離される一方だろう。
しかしこちとら木から木へと飛び移り野山を駆けることに関しては、猿にも負けぬ自信がある。
あの走りはハーピーさんに違いない。
だが彼女をすぐ捕まえることにはまだ迷いがある。
何か捜査上の理由とかがあるのではないか……あってほしい。
迷っている間も彼女は駆け続け、人気の無い路地裏で黒装束を脱いだ。
そして慎重に辺りを見回しながら表通りに出て歩き、住宅街から外れたゴミ捨て場のような場所に来た。
その片隅にポツンと建つボロ小屋が目的地のようだ。
「あそこっすか。これは、アジトってやつなんすかね」
追いついて隣に来た後輩が顔を曇らせる。
そうだね、どう見ても捜査本部って感じではないよね。
とりあえずハーピーさんに気づかれないように、近づいて来るトンダたちを止めに行こう。
「盗っ人のアジトならどうするのだ? この町の官憲は腐敗しておるのだろう? 我らで叩き潰して良いのか?」
トンダの問いに私は答えることができない。
何をすべきかも分からず、小屋に近寄りそっと聞き耳を立てるだけだ。
「リーレイ姉ちゃん、このお金どうしたの?」
「何だよ怖い顔して。お姉ちゃんが稼いできたお金じゃないか」
「何をして?」
「何って、仕事に決まってるじゃないか……」
「うそ! ドロボーは仕事って言わないんだよ!」
「な、何を」
聞こえるのはハーピーさんと、もう一人女の子の声だ。
多分私たちと同じぐらいの年齢の。
それ以外にも居そうだな。
ひい、ふう、みい、全部で五人か。
子どもばかりの気配だ。
何となく事情は想像できた。
でも、その想像どおりだとしても、ダメだよハーピーさん。
それは人の物を盗んでいい理由にならない。
いや、違う。元々盗みをしていい理由なんてないんだ。
ただ私がハーピーさんの行為を、何とか正当化しようと足掻いていただけで。
「姉様?」
ハーピーさんと、それに自分の愚かさに落胆し、私はフラフラと小屋の入口に歩いていた。
「姉様のバカッ!!」
戸板がバンと勢い良く開かれ、不意に目の前に現れた。
しかし私を打つことはない。
この程度で打撃を受けるような、生温い鍛えられ方はしていないのだ。
「あ、ごめんなさい……って、何か御用ですか?」
戸を開けた子はやはり十歳前ぐらい、蛇みたいな縦長の瞳をしている。
ラーミアかな?
室内には彼女より幼い子が三人――人種はバラバラだ。
それとハーピーさん。
「あ、キミたちは」
室内のハーピーさんと目が合った。
「ごめんなさい、ちょっといいですか」
「あ、ちょっと!?」
私はラーミアっぽい子の手を引いて中にお邪魔した。
「君たち、確か塩を買いに来たんだよね? まだこの町に居たんだ。それより何でここに? どうやってここが分かったの? あ、後ろの人たちはこの前いなかったよね?」
「この前は塩を買って帰ったよ。一旦お家に帰ってまた来たんだ。後ろの二人は前回留守番だったけど、今回は用事があったし一緒に来たの。ここにはあなたに会いに来たんだよ」
ハーピーさんが捲し立てるように尋ねてくる。
焦るその心は私にも分かった。
それでも私はここに至って斟酌してあげることはできない。
彼女の逃げ道を塞ぐかのように質問に答える。
そのたびにハーピーさんの表情は固くなっていった。
「それで、ここが分かった理由はね」
「ちょ、ちょっと待った! 君たち喉渇いてない? お腹空いてない? まあとりあえず座り……あ、ここ汚いから外の方がいいかな! そうだね、外行こっか!」
「お姉ちゃん、お客さんに失礼だよ? 何をそんなに慌ててるの?」
大人しそうな猫耳の女の子が言った。
着ている服はボロいけど、みんな賢そうだ。
ラーミアっぽい子が飛び抜けて気が強そうで、あとは穏やかそうな雰囲気。
この子たちの前であまり込み入った話をするのは良くないか。
「ごめんなさい。気が利かなかったね。外で話しましょう」
気休めにもならないかもしれない。
ドロボー云々の追及をされていたのだ。
この子たちには私が訪ねて来た理由を勘づかれている可能性がある。
「待ってよ。あなたたち知ってるんでしょ?」
ストレートに来るか。
ラーミアっぽい子が私の前に立った。
「何を?」
「お姉ちゃんがドロボーしていたことよ!」
直球過ぎでしょ。
無関係の来客だったらどうすんのよ。
「なぜ私がそんなこと知ってると?」
「タイミング良過ぎじゃない! どうせお姉ちゃんをつけて来て、家の外で聞き耳でも立ててたんじゃないの!? いえ、お姉ちゃんの犯行を見て尾行して来たってこともあり得るわね!」
鋭い〜。
ここまでズバリピタリだと否定してこの子の反応を見たくもなるわ。
――冗談はさて置き、どう答えるべきか。
「な、何故それを……」
はい、出た〜。
人の深慮をぶち壊す後輩のポロリ〜。
せめて「証拠はあるのか!」とか、刑事ドラマの犯人ばりの悪あがきを見せてもらいたかった。
「やっぱりそうだったんだ! お姉ちゃんのバカ! 鳥頭!」
事実と悪口が絶妙に組み合わさってしまったぞ。
なんてこと言うんだこの子は。
彼女は叫びながら家を飛び出してしまった。
「ラーニャ!」
ああ、ハーピーさんも追いかけて行ってしまった。
追いかけられる雰囲気でもないし、私は困って家の中に残された子を見ることもできなかった。




