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メゾン格ゲー  作者: みおま ウス
第一章 路上格闘者編
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第十八話 再び町へ

 ハーピーさんは、町を出る時には気をつけなくても良いと言った。


 確かに門番は気怠そうに外を眺めているだけだ。

 だが、暇を持て余して絡まれても不愉快だし、さっさと通り抜けるとしよう。


 門番が欠伸をした瞬間、私たちはダッシュで門を出る。

 あ、と何か言いたげな間抜けな門番を置いて、スタコラと町から遠ざかった。








 登山は順調だ。

 しかし冒険者登録や買い物など、町で過ごした時間の分もあり、今日中の帰宅は無理っぽい。


 葉っぱでも敷き詰めて寝るのかとおもったが、和尚は大木のウロで寝ようと言う。



 そんな都合良く三人分の空洞が見つかるのか、と思ったが、ありました。

 一本の大樹に四〜五人ぐらいは一緒に寝られる大穴が。


 よく見たら空洞内は漆のような物で固めてあるのか、テカテカしている。

 和尚の先人がこういう買い出しの時のために、途中で休める場所をこうやって確保していたらしい。


 大木の空洞の他は、大岩の空洞や斜面の空洞などがある、と和尚が挙げる。

 居住空間だから仕方ないかもしれないけど穴ばっかり。



 挨拶にグマ。

 語尾にグマ。

 どこからともなく頭にそんなイメージが沸いてきた。



 空洞内はほんのり暖かい。

 溜まった虫の死骸や埃を払い出し、川の字で寝た。

 こんな所で安眠できるなんて、私も随分図太くなったものだ。








 翌朝起きて歩き出し、昼過ぎには我が家カプルコーン寺院に到着した。


 トンダとブランクが外にてお出迎え。


 お土産は話だけなんだ。

 ごめんよ。




 冒険者ギルドの話をしたら、二人とも羨ましそうだった。

 冒険者登録はしてないんだって。

 そうだろうとは思ってたけど。


 みんなが冒険者登録したら、それぞれの財産を分けようと和尚が提案なされた。

 トンダもブランクも「個人資産はいりません」って言っていた。

 でも、寺の維持費を除いても余るのだから持っておきなさいって和尚から言われると、とりあえずって感じで頷いた。


 まあ、いつまでもここには居ないだろうからね。

 私もだけどさ。

 それ考えるとちょっと寂しく思うよね、やっぱり。








 ハーピーさんのことが気になってしまうが、修行とお祈りは疎かにするわけにはいかない。



 闘神様闘神様、魔物を抑えていただいてありがとうございます。

 でも世の中、魔物以外にも平和を乱す輩はいるようです。

 ハーピーさんは無罪放免できますか?

 ギルティ判定されてしまうのでしょうか?



 彼女から連想するキャラの蹴りは軽そうなイメージで、プレイヤーとしての私好みではない。

 だけどその軽さを補う素早さと、目にも止まらぬ無数の蹴り。



 ヤァヤァヤァ!

 やったぁ!



 そしてあの格闘家らしからぬキュートな声はとても好きだった。



 そう言えば、あのトゲの付いた腕輪は何だったのだろうか。

 プロレスの残虐ファイトっぽい行為がいつかできるのか。


 そう期待していた私の願いが叶うことは、生前は無かったように記憶している。




 闘神像からの応答は無い。



 ところで脚の力は腕よりも相当強いらしいが、そのキックを以ってしても、ちびっ子の私が強攻撃の威力を出すことは難しい。

 このまま骨格が、体重の成長が止まったらどうすればいいのだろう?


 これは格ゲー世界を目指す上では避けて通れない命題でもある。


 魔法を使えば飛び道具は実現できそうだ。

 しかし、シューティングゲーとはしっかり区別しなければならない。

 そう、軽量級のキャラでも筋骨隆々の重量級キャラと肉弾戦を繰り広げられなければ、格ゲーとは言えないのだ。


 魔法で爆発を起こしパンチキックを後押しする?

 いや、それは最早必殺技の範疇だ。

 それにリスクが大きい。



 ――〜〜



 おや? 大地闘神から反応あり。


 え、気にすることではない?

 それは一体……




 明確な答えは得られなかったが、どうやら解決する、若しくは既に解決済みの問題のようだ。

 動けるデブキャラを目指す必要はなくなった。

 良かった。



 ピシピシ、ボス、ガシィッ



 自然祈りの攻撃も気持ち良くなる。

 格ゲー派生のベルトスクロール式アクションゲー主人公のコンボをイメージ。


 上段弱パンチ、上段弱パンチ、中パンチボディ、中ハイキック


 お、いい感じだ。

 ここからキャンセルかけて……

 っと、必殺技なんて持ってないや。


 仕方なく左右のフックを四連打で我慢。


 背伸びし過ぎてはいけない。

 先は長いのだ。

 基礎技からしっかり固めていかないとね。




 基礎と言えば足腰の強化。

 山岳ランニングは重要な修行の一つだ。


 ハーピーさんの脚は私の目に焼き付いている。

 ふくらはぎ、太もも、お尻がムキッとなって、次の瞬間には姿が消えるぐらいの瞬発力。

 そのイメージでドン、と力を入れて地面を蹴るのだが……なんだかイマイチ鋭さが足りない。

 何が良くないのだろう。


 トンダやブランクは鋭い動きのことなんて聞いてもチンプンカンプンだし、和尚もそこまで深く追究はしていないようだ。


 後輩も「私たち十分速くないっすか?」って言う程度だし。


 一刻も早いスピードスターの加入が望まれる。








 町への買い出しから六日が過ぎた。


「みんなで町へ行こうか」


 ふと思いついたように和尚が言った。


 え? それは大歓迎ですけど、ここが空っぽになっちゃいますよ。


「大丈夫」


 和尚は答えた。


「以前手紙を認めた先輩から返事が来た。ここの留守を先輩のお弟子さんに預かっていただけるそうだ。我らはその間町へ下りられるぞ」


 ヒュゥ、和尚の先輩ありがとぅっ!


 早速お出かけの準備に取り掛かる。

 後輩は大はしゃぎ、トンダはフン、と鼻息を吹き、ブランクは少し緊張した様子だった。








 そして三日後、やって来たのはワニ顔の痩せた男性一人。


 リザードマンかな?


「ドラゴニュートだ」


 失礼しました。

 和尚とドラゴニュート氏が挨拶を交わしている間、後ろでトンダから教えてもらった。


 ドラゴンっぽい種族と聞くと、途端に強そうに思えてくるから不思議。



「スライメン師の命で罷り越した、ゴニューゲルと申します。お会いできて光栄ですゴブシム師」

「和尚としてはまだ駆け出しの身です。どうか畏まらず寛いでください」


 お互い名刺交換を思わせる腰の低さだ。

 しかしゴニューゲルさんの顔は間違いなく、著名人を見た人のそれになっている。

 和尚はもしかすると有名人?


 どうでもいいけど、何で微妙に種族名が名前の一部に混じっているのか。

 和尚もそうだけど。

 種族ごとに名付けルールがあるのかもしれない。




 ゴニューゲルさんに寺を案内すると、「よく手入れが行き届いている」って褒められた。


 ありがとうございます。


 おもてなしをしようと思ったけど、「スライメン師一行は既に町に到着しているから」と言って早くここを発つよう促された。


 ふうん?

 町で落ち合うって?

 何故だろう。




 どうやら和尚はスライメン先輩に、代官とその周辺の調査を依頼したもよう。

 世界の平和を祈るお寺の関係者が町を調査するとは一体?

 分からないことだらけだが、まだ和尚は説明をする気はないようだ。

 全てはスライメン先輩に会えば分かるんだって。








 ゴニューゲルさんを一人残し寺を出発する。


 また走って行くんだけど、私たちにとってはピクニック同然だ。


 楽しい気持ちは隠せない。

 後輩は。


 浮かれ過ぎて魔物を見つけた時、即倒しに飛び出して和尚に叱られた。

 後輩が。


 まったく仕方のない奴だ。


「まったく仕方がないな。ミサもキャミィも」


 はい、すいません。

 私もでした。



 トンダとブランクに合わせるので、前回よりは少し遅い。

 けれどどっちみち朝の内に、町の手前でスライメン先輩と落ち合うらしいので、例の穴蔵で野宿することに変わりはない。



 巨大な空洞と言えど、巨漢二人と一緒だとさすがに狭い。


 君たちとは別の穴蔵だ、おやすみ。





 翌朝、街道に下り立つと、先日の私たちと同じようなリアクションを取る巨漢二名。

 もうすぐ町に着く。

 先輩冒険者として二人に登録なるものをレクチャーしてやろう。



 スキップしながら街道を進んで――



 門番が目に入った。



 そうだ、あいつがいたわ。


 浮かれた気分が一気に沈んだ。


 力ずくで通りたいなぁ。

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