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メゾン格ゲー  作者: みおま ウス
第一章 路上格闘者編
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第十七話 冒険者ギルド

 和尚は溜息を吐いて袋を拾った。


 さて、これをどうするか。

 酔っ払いおじさんの物だって確信はあるのかな。

 おじさんが物が無くなってると気づけばいいんだけど。


 私たちはおじさんの後ろを歩き始めた。




「あっ、なんか落ちたっすよ!」


 後輩が不意に声を出した。


 前を歩くおじさんはその声にビクッとして、次にふと思い出したように懐を探る。


「ね、ねえ! 俺の財布が!」


 お、いい流れだ。


「これっすか?」

「お? それ? 俺の財布『ギンジ』って刺繍してあんだけど」


 間違いない。

 スリはアンタか、って突っ込みたくなる名前だけども。



「あんがとね〜、お嬢ちゃん。ほい、お礼のお駄賃」

「わ〜い、ありがとっす、おじちゃん!」

「へっへっへ〜、なんか儲けた気分だぜ〜、っとくらあ」


 いい気分で去るおじさん。

 お手本のような千鳥足だった。




 被害を未然に防げたとて、明るい気分になれるわけもない。

 疑惑の段階だったハーピーさんのスリ行為が確定となったのだから。


 お陰で宿に入ってから寝るまでのことなんて、全く記憶に残ってない。


 責任とってくださいハーピーさん。

 ぜひ、お寺に来るという方向で。


 いやでもなあ、泥棒の罪を償わないとダメだよなぁ。

 しかも常習犯っぽいし、その刑期の長さが心配される。


 名案は思いつかぬまま、私は眠りに就いた。







 翌日、朝食を摂り終えるとすぐに宿を出た。

 でも和尚は夜の間に少し、宿の人から町のことを聞いたらしい。

 和尚に連れられ歩いている間、その内容を聞いた。




 簡単に言うと代官が良くないのだ。


 貴族が王から与えられた土地を支配する、封建社会であるこの世界。

 貴族が直接支配する主要都市以外の、地方の行政を司る代官は、貴族が適任者を指名する制度である。


 と言うのは名目で、実情は領地の跡取りになれない貴族の二男三男、ほか有力な部下の子弟などが任命されるらしい。

 完全な縁故採用だ。

 そして縁故を重んじて監察機能が低下すると、私利私欲に走る代官が現れることもある。


 和尚の話を私なりに解釈すると、ざっとこんなところだ。


 この町の代官もそのケがある。

 とは言え目立った悪政を敷いているわけではない。

 税は普通だし、法も他所の都市に倣っている。


 ただ一点、司法機関の腐敗に目を瞑っているのだ。

 門番はじめ衛兵は横柄。

 カツアゲ紛いのことまでしている。裁判では賄賂がまかり通り公正な判決には程遠い。




「あのハーピーのお姉さんも、悪いご時世に乗っかって盗み放題なんすか?」


 後輩が落ち込んだ声で言った。


 私も気分は良くない。


「どうだろうか。門番のあの態度からは、単なる癒着とは思えぬものを拙僧は感じたが」


 和尚は言葉を濁した。


 そうだ、あんな下っ端にあんな上から言われてたんだもの。

 どっちかって言うと搾取って感じだ。

 願わくば無理矢理盗みをやらされていてほしい。

 情状酌量の余地をハーピーさんに!




 とかなんとか考えながら歩いていたら、和尚が立ち止まった。


 目の前にはダークグレーの建物が聳えている。

 周辺の建物は、ベージュや明るい茶色のレンガとか普通の材木の色をしているのに。

 それと比べると明らかに浮いた外壁だ。

 時々抗争とかで銃弾が撃ち込まれそうな……


 通学路とかにあってほしい建物ではないな。



「ここが冒険者ギルドだ」


 おお、ここが。


「おお、ここが」


 被せるなよ後輩。

 そんなに目を輝かせて。

 はしゃいで入ると先輩冒険者に絡まれるんだぜ?


 図らずも冷静になってしまった。

 後輩が飛び出さないように首根っこを掴んでギルドに入る。




 屋内はイメージどおりだ。

 酒場になっていて、鎧や魔法使い風のローブを着た人たちで賑わっている。

 この建物が厳ついのも、わざと近寄り難くしているのかもしれない。

 フラフラ近寄って屈強な酔っ払いに絡まれたら命に関わりそうだもの。



 さすがに私たちのような子どもに絡んでくる人はいなかった。



 カウンターは受付と買取の二箇所。


 買取カウンターで手続きすると奥の査定所に通された。

 どっさりと魔石やらのドロップ品を提示する。

 受け取り金額は冒険者カードにチャージすることもできますが? って言われた。

 まさかのキャッシュレス決済。


 ちなみに和尚は便利だからと冒険者登録をしているらしい。


 登録は死ぬまでの実質無期限、完璧な個人認証で信頼性高し。

 異世界が思いがけず進んでいて驚きまいた。


 でも今回は現金で受け取る。

 和尚だけが稼いだお金じゃないからだって。

 別に今日使う分ぐらいなら構わないのに。


 金貨銀貨が小さめのコンビニ袋一杯ぐらいまで詰められて渡された。

 塩買うぐらいじゃほとんど減りそうにないよ。

 大金持ち歩くのは怖いんですけど。


 和尚、お願いですからチャージしてください。


 はい、拒否されました。

 帰ったらみんなでちゃんと話し合おうってさ。


 まあ、お金の問題は信用問題だからね。

 和尚が現金をしっかり持ち歩くと言うので、私も納得することにした。


 酒場の野獣たちの目が光ってるように見える。

 私たちが幾ら受け取ったか知らないはずなのに。

 和尚は平然と歩いていたが、私は気が気でなかった。




 一旦ギルドを出ると、次に和尚はもう一つの入口に入った。

 こちらは依頼者用の入口らしい。

 何か依頼するのですか?



「ちょっと、先輩に便りを出そうと思ってな」



 ここは郵便業もやってるんですね。

 先輩はやはりゴブリンですか?

 プライベートは詮索しませんが、話してくれるなら聞く気はいっぱいありますからね。


「速達で頼みます」


 うわっ、金貨出した!

 宿屋一泊三人で銀貨十枚、子ども割ありとして一万円ぐらいかな。

 その銀貨百枚で金貨一枚だから、十万円だよ。

 速達高い……一体何の為に?


 お金のことを曖昧にしたがらない和尚のことだから、大事な用件なんだよね。



「さあ、待たせたな。目的の塩を買いに行こう」


 私たちの方を振り向き、出て行こうとする和尚の服を後輩が引っ張る。


「ん? どうしたキャミィ」

「冒険者登録したいっす」


 えぇ、何それ。

 可愛い要素なんてなくない?

 いや、でもコスプレイヤーだったじゃんコイツ。

 その魂の源であるアニメスト、ゲーマーの心がそうさせるのか。


「おお、そうか。せっかくだから登録だけでもしていこう」


 いいんかい。

 こんな子どもが登録して。








 ――いいらしい。

 完璧な生体認証だから?

 登録期限も五年以内に利用してれば自動更新されるって。

 便利便利。



 私もついでに登録させてもらった。

 クリスタルの柱の前で、血を一滴垂らし、手を翳し、じっと柱を見つめただけ。


 何だったの?

 DNA? 指紋? 静脈? 網膜とか虹彩?

 何を読み取られたのか分からないけど、凄いテクノロジーが使われてるのかも。


 手続きは終わり、無事に証明証代わりのカードが発行された。


 ついでのように何かのクエストを探していた後輩には、頭に一発拳骨を落とした。




 さあ次は塩か。

 その後できればハーピーさんを探したいんだけどなぁ。








 結局その希望は叶わなかった。

 大量の塩と他の調味料や料理道具を買って、この町を出ることになった。


 しょうがないか。

 ハーピーさんの居場所なんて手がかりは無いんだし、探せば何日かかるか分からない。

 留守番のトンダやブランクだって心配するもんね。



 最後に後輩の要望で服飾品店に立ち寄ったが、お気に召す物は無かったようで、後輩は少し肩を落としていた。


 そりゃまあ、腰にベルトを付けて上下を分けただけの模様も無い布地の服見てもねえ。

 布の服十ゴールドってこんな感じかな?

 あとは飾り気の無い前掛けとか。


 何か可愛い物ないかって思ってたんだろうけど、残念だったね。




 さてと、気を取り直してリュックを背負う。

 ずっしり肩にのしかかるリュックの重みは推定三十キロ。

 山岳救助隊よりはマシな重量なのかな?

 でも私らは走って登山するんですよ。


 いや、亀の甲羅背負って修行してると思えば楽しいか。


 私は戦闘民族っぽい心を持つことで、心残りのある町から意識を切り離した。

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