第十七話 行き詰まったかも
ローラの衣、サジの弓を手に入れたので次はカッツォの剣の番のはず。
……と言ってもこれまでの二箇所とは異なり、次の目的地は定まっていない。
有名な剣の鍛冶師だとか、剣に使える鋼の産地だとかの情報は、無いこともない。
しかし王城の兵士が使う剣がそもそも良品揃いであったし、カッツォの戦力を大幅に上げるまでの逸品は近場に無さそうだった。
「やっぱここはあれね……ミスリル!」
「いや、オリハルコンっしょ」
「硬さならアダマンタイトじゃなかったっけ?」
「何の話ですか?」
ミナテミスたちと別れた後、ダチョボの産地で初心者にも易しく乗れるダチョボを購入した四人。
彼らは未開とも辺境とも言われる王国南端を、ダチョボを駆り東へと進んでいる。
ずっと東へと進むと険しい岩山が聳えており、その向こう側は何があるのか全く分からないそうだ。
一旦はその岩山まで進み、未把握の人里などを発見し、あわよくば名剣の情報を得ようじゃないかと企てている。
今ローラ、サジ、カッツォが話しているのは、その岩山のことだった。
「何って、山と言えば鉱石かなって」
「鉱石って、石にそんな興味あるのですか?」
「そりゃあるだろ。レア鉱石に名工がセットで伝説の剣ができるんだからな」
「へえ〜。でもそんなレア鉱石が掘れるんなら、そこはもう未開ではなくて一大炭鉱街になってるのではないでしょうか」
三人は数瞬固まった。
「…………でさあ、ドワーフがそれを炉で精錬するんだよ」
「ハイホーハイホーってね」
「多分日夜トンカントンカン騒がしいんだわ。」
「たまにこうなるんですよね、この人たち」
やれやれとルケアは肩を竦め、誰へ向けるともなく呟いた。
「そう言えばドワーフって魔族?」
「そっか駆除対象かぁ」
「残念。だけど鍛冶してんのがドワーフとは限らないし」
「魔族ならむしろその可能性は無いわね」
(魔族……なんだかミナテミスさんもドワワノフさんも、魔族って言うのを……その言葉自体を良く思ってなさそうでしたが。私たち、このまま魔族を滅ぼす旅を続けていいのでしょうか?)
頭がファンタジーな三人の傍ら、ルケアは今更ながら迷っていた。
勇者だ英雄だと祭り上げて、魔族も何も知らなかった少年たちを戦地へ送る。
一応三人が元の世界へと帰るためのついでで良い、と王国では魔族討伐を強制していない。
しかし王国で直接見ることのできない魔族を、さも詳しく知っているかの如く三人に語った。
その結果三人を魔族討伐に向かわせたことは、今思えば義侠心に付け込んだみたいだ。
ミナテミスたちに世間知らずだと指摘されながらも人間性まで批判されたわけではない。
しかし、なまじ反発するに至らないそうした指摘に、思考回路を枝分かれさせられた気もする。
今も暢気に想像を語り合っている三人の友人を変なことに巻き込みたくない。
ルケアは“世間を見る”と言われたことを正しく理解するため、一人気を引き締めるのであった。
それから何日たったか。
四人は件の岩山の麓に到達した。
「あ、これ違うわ。ダメなやつだわ」
岩山を前にしてローラは言った。
岩山は雲を突き抜けており山頂を見ることができない。
雲も常に暗く、雷光が雲間を走っている。
また岩山自体も所々暗紫色や暗緑色を呈しており、不健康そうな煙を時々吐き出している。
仮にここが鉱山だとしても、そこには鉱山街など活気が生まれる余地は無い。
恐らくは重罪人の刑地扱いで、怨嗟や後悔の念が渦巻く監獄として成り立っていることだろう。
「一応聞くけど……登る?」
「バカなの?」
「死ぬの?」
カッツォの質問は友人二人に即切り落とされた。
カッツォも二人の即断を当然のこととして受け入れてはいる。
しかし……
「剣の当てが無くなっちゃったなぁ」
そうカッツォがボヤいたとおり、装備を充実させるという目的を達成する見込みが相当薄くなってしまったのだ。
サジとローラは先に満足できる装備を入手しているだけに、カッツォに対して適当な返事をしづらい。
「あの!」
そんな三人の様子を見て、ルケアが拳を握って一歩踏み出した。
「魔族の土地に、行ってみるのはいかがでしょうか……!」
呆けた顔の三人と勢い込んだルケアの間で時が止まった。
「え、と」
困惑顔のカッツォが止まった時を動かし始める。
「ごめん、その魔族と戦うのに不安だから剣を探すって話だったと思うんだけど」
「戦うのは置いといて見るだけでいいのです。どんな生態なのか、人類に何をしたいのか」
「それは、ミナテミスさんたちに言われたことを気にして?」
カッツォが上を向き下を向き、記憶を起こして尋ねた。
「……そう、ですね。私、結構気にしてるかもしれないです」
ルケアは息を長く吐き言葉を続ける。
「いいえ、かもではなくて、やっぱり気にしてます。と言うか気になってます。何で世間知らずって言われたのか。私は無知なままカッツォさんたちに何をさせようとしているのか」
俯いたルケアの態度は懺悔のように見える。
「何今更言ってんのよ〜。私たちなんて、帰る手段を見つけるついでに世直しできればいいかなって考えてるだけなんだから。そんな思い詰められちゃったらこっちの方が申し訳なくなっちゃうわ」
バンバンとルケアの肩を叩きながらローラが言った。
「にしても偵察っつうか潜入ミッションだよな? 今の俺たちにできるか?」
ミナテミスでさえ敵わない魔物が出るとすれば自分たちでは即死しかねない。
サジが不安を口にするのも無理からぬことである。
「すぐ脱出できる手段があればいいんだけど」
一度立ち寄った町に瞬間移動する魔法を思い浮かべるカッツォ。
あれは戦闘からの脱出にも使えるのだ。
――ゲームの話だが。
「今思ったけど、病原体の発生地に行くってどうなの? 私たち平気なのかな?」
新種の病原菌攻撃でもされたら? 抗体とか大丈夫なのかしら? とローラが震える。
「しまったな……その辺ミナテミスさんに聞いとけば良かった」
戦闘、サバイバル技術の手解きを受け、時折手強い魔物と戦った話を聞くことばかりで、魔族の土地に入ってからの過ごし方など聞いていなかった。
もっとも魔族に関する話は適当にはぐらかされた気もするが。
「う〜ん……ねえルケア、ある程度は魔法で対処できるよね?」
カッツォが首を捻りルケアに問いかけた。
「はい。病に対する抵抗力を高めることですね? 私の浄化魔法と皆さんの身体強化である程度は何とかなるかも……でも何とも言えないです」
カッツォの問いはちょうどルケアも考えていたことだ。
スラスラと言い出せたのに断言できなかったのは彼女の迷いの表れか。
それでも彼女が魔族の地に行く気なのは三人に伝わった。
「まあ、少しだけ入ることができるなら……行ってみてもいいかもね」
そうカッツォに言わせ、サジとローラにも頷かせる程度には。
ルケアは頭を下げた。
あとは
「で、どこからどうやって魔族の住処に行けばいいんだ?」
遥か昔、大河を隔てた魔族の地に軍船などの装甲された大型船で行ったとする記録は残っている。
しかしいつの頃からか境界の三魔像と呼ばれる強大な魔物が現れた。
境界の三魔像は陸海空それぞれに鎮座し、魔族と人類の住まう区域を分断してしまった。
「小舟で」
「海の魔物にとっては手頃な的でしょう」
「目立たないよう泳いで」
「死ねと?」
「空飛んで」
「飛べんし」
「だから三魔像がいますから」
良案なし。
「はぁ〜」
カッツォが溜め息を吐いて、ちょうど良い高さの岩に腰掛けた。
と思ったら腰掛けた姿勢で前に飛び出して、つんのめった先の岩に頭をぶつけた。
「何してんのよ一人で」
「ち、違うよ! ほらあそこ!」
何も無い所でボケたわけではない、とカッツォが指差した。
岩の付け根に皆の視線が集まる。
ガコッ
岩に硬い物が当たった音がした。
ゴッ
ガッ
ズズズ
地と一体だったはずの岩がゆっくりと滑っている。
「光だ!」
「とうとう越えたのか!?」
歓喜とも疑念とも判断のつかない幾つもの声が地面から聞こえる。
カッツォたちは素早く立ち上がり、数歩下がって身構えた。




