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メゾン格ゲー  作者: みおま ウス
第三章 勇者死すべし! 編
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第五話 四人パーティー始動

 少女のローブは黒白のシンプルな色合いで、頭巾からは切り揃えられた薄桃色の前髪が覗いている。


「味方って、この子が……?」


 自分たちと変わらない年頃の少女を紹介された。

 フリーの歴戦の戦士でもつけてくれるのかと期待していたカッツォたち三人は戸惑った。


(でも可愛いな)

(でも可愛いじゃん)


 カッツォとサジは鼻の下を伸ばしている。



(『でも可愛い』とか思ってそうな顔して)


 ローラは男二人を冷めた目で見た。



「若いが回復魔法に優れ、旅の知識も豊富な逸材ですぞ。さ、ルケア殿」


 ゲルギオは場が変な空気に染まる前に少女を三人の前に進ませた。

 できる男である。


 少女は改めて頭を下げた。


「オレサイ教の助祭、ルケアと申すます。勇者様のお供に任ぜられ光栄だす」


 三人はこけそうになった。

 あまりにも訛りが強い。


 花の咲くような可憐な笑顔がまたギャップをググッと広げる。


(い、言っちゃダメだろうけど、可愛くない訛りだなぁ)

(これはひでえ)

(鼻がズビズビ鳴りそうな感じだわ)


 三人とも愛想笑いを引き攣らせて、当人にはとても聞かせられない感想を抱いている。


「ルケア殿のご年齢ではそうそう助祭の地位に就かれることはありません。しかも説法がもう少し達者であれば司祭になられていた可能性すらあるようで」


 ゲルギオは少女の優良性を三人にアピールしてくる。


「やんだすわ、隊長様。そんな持ち上げられっと照れてすまいます」


 恥じらい方は可憐で上品なのだが、独特な訛りに耳がついていかない。


「え、ええとルケアさん? はじめまして。私は魔法使いでローラと言います。ヒーラーっていなかったから、あなたが入ってくれて心強いです」


 気を取り直したローラが中学英語のような自己紹介で切り出した。


「はずめますて。わたすみたいな田舎もんが勇者様方のお供なんて、気遅れすますけんど、故郷の年寄りとか教会のみんなからは『お前の生活力と回復魔法はすごい』ってお墨付きもらってるんで、旅の雑事はお任せください! あ、それとわたすにはそんな畏まった言葉使わないでください。わたすなんかに、何だか申し訳ないづす……」


(かわいい)


 困ったように眉を下げるルケアを見て、カッツォとサジは思った。


「お、オッケー! じゃあルケアさん」

「ルケアでお願いすたいだす」

「る、ルケア、俺はサジ。射手やってんだ。よろしくな!」

「あの、僕は剣士のカッツォ。よろしくね」

「はい!」


(やっぱ可愛い)

(訛ってても全然いいし!)


(やっぱ可愛いとか訛っててもいいとか思ってそうだわ)


 デレデレでルケアと握手をする男二人を、ローラは不潔なものを見る目で眺めた。


「よろしく、ルケア。気の利かない男二人にイラつくこともあるでしょうけど、女の子同士慰め合いましょ。私のことは気軽にローラって呼んでね」


 男二人を押しのけてローラはルケアと握手を交わした。

 ルケアは緊張しているようで動きは多少硬かったが、愛嬌があり、三人とも彼女とすぐ仲良くなれそうな気がしていた。








 カッツォたち三人は練兵場でルケアを入れ、戦闘の連携を訓練した。

 手応えは上々だ。


「結構いいんじゃない? どう? カッツォ、サジ」

「うん、いいよ! 素早さが上がってる感じ。それにこれ、もしかして防御力も上がってる?」

「俺も文句無し! 高性能のスコープ着けたみてえ」


 二人の評価を聞いたルケアは控えめに笑って照れた。


「カッツォ様……カッツォさんには速さと守り上昇の魔法を、サズさんには命中上昇の魔法を送りますた。違和感ねがっただすか?」

「うん。こう、じわじわっと上がってくる速度感が気持ち良かったよ」

「俺は照準がピタリと定まる補正にビビッときたね」

「良がった」


 安堵して微笑むルケア。

 彼女の支援魔法は相手に合わせて効果を調整している。

 カッツォへの速度上昇は、急な加速で違和感を来さぬよう。

 サジへの命中補正は強めにしっかりと。


 またルケアの気が利くのは魔法支援だけでなく私生活でもだった。

 僅か数日で彼女と打ち解けた三人は、旅への不安も少し薄れている。



 ただ一つ、彼女自身の戦闘力を除いては。




「う〜ん。ルケアはもう少し近接戦闘も鍛えた方がいいわね」


 基礎の杖術程度しか使えないローラでさえ苦言を呈する。

 それ程ルケアは自身での戦闘能力に欠けていた。


「痛たたた!!」


 床にうつ伏せに倒され、後ろ手に肘と手首を極められたルケアはもう片方の手で床をバンバン叩いてギブアップを表明している。

 相手は数少ない女性兵士、それも新兵だ。

 技を解かれ床から引き起こされたルケアは、涙目でローラの苦言に頷いた。


(泣き顔も可愛いけど)

(鼻水垂れてら)


(何見てんのよ! 女の子なんだから気を遣いなさいよ!)


 ルケアの負け顔を無遠慮に見る男二人に、ローラはさりげなく蹴りを入れながら後ろを向かせた。



 弱いルケアにもせめて護身の術ぐらいは持たせたい。

 ところが杖、棍棒、剣、短剣、変わり種でモーニングスターまで試したのに、ルケアはあらゆる武器に適性を示さなかった。

 素振りすれば手からすっぽ抜けた武器がカッツォの頬を掠め、構えた所に打ち込めば武器が折れサジの足元に刺さるのだ。


「呪われてるの?」


 呆れたローラから溜息が吐かれる。


「も、申す訳ねだす」


 平謝りするルケアは心底申し訳無さそうだし、これといった改善策も無かったのでローラたちはルケアを責めなかった。




 その後も武器という武器に適性を見出せなかったルケアだが、カッツォたちは唯一武器として使えるものを見つけた。


「聖帯、だすか?」


 一月の間聖水に浸し光の魔法を浴びせたワイバーンの皮で作った帯である。

 これを手首から拳に巻き、拳や手の甲部分には鋲を付ける。


「セスタスっつって、古代の拳闘士が使ってた武器があんだよ」

「聖職者なのにって思ったけど、モンクみたいな感じと思えばそう変でもないかも」

「こ、こんな感じだすかね?」


 腰の入っていない手打ちながらも突き出す拳は風を切り、ルケアの徒手攻撃の高い潜在能力を想像させた。




 鋲付きの聖帯、革の胸当てと脛当て、薄い鉄板仕込みのブーツ。


「……」


 最終決定した装備があまり聖職者らしくない。

 複雑な顔をするルケアだが、回復や支援魔法に影響は無いと割り切り、自身に装備を馴染ませることにした。








 それからしばらく訓練を続け、ルケアの徒手格闘も一応見られるようになってきた。

 勇者三人の戦闘力は三百七十近くになっている。

 一方ルケアの戦闘力は百二十だが、彼女に求められているのは主に回復と旅の雑事であるため、戦闘力は足りると判断された。


 旅の準備が整い、城を挙げての壮行会も終えた。


「旅の途中、各地の教会や有力者を頼ってくだされ。皆協力を惜しまぬでしょう」

「ありがとうございます。皆さんもお元気で」


「ルケア司祭、人類のために力を尽くすのですよ」

「はい! 精一杯頑張るだす!」


 カッツォたちは城の偉い方に激励され、また魔族の撃退を請われ、ルケアは教皇や教会の上司に激励された。


 ただ、魔族の撃退を請われたと言っても丸々任されたわけではない。

 勇者たちには帰還を求める権利もあり、帰還の方法を探しながら魔族を潰していって貰えれば良い、と言うのが王国のスタンスであった。

 またその緩さが無ければ、ただの学生だった三人がこの世界に馴染むことは、今よりずっと困難だっただろう。



「行ってきまーす」


 ほのぼのとした雰囲気の中、カッツォたちはルケアと共に旅立った。

 幾らかの緊張はあるが、三人とも同じぐらいにゲーム感覚が心の底に残っていた。

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