スイカ割り 【※スプラッタ】
私は恋人と友人を連れて三人でとある砂浜へと向かっていた。
そこは大潮――月と太陽、そして地球が一直線上に並ぶ、満月か新月の日――のときの引き潮でだけ現れると言う、穴場の砂浜だった。
月に約二日、大潮というのはあり、しかも数時間だけで、いくら引き潮が日に二度あるからとはいえ、その機会は少なく不便であることからも、あまり利用されていない。
だからこそ穴場であるのだ。
「ねぇ、……上、の空ね」
「うぇ、そ、そんなことないぞ。運転に集中してるからじゃないかな、あはは」
私の恋人である稔は挙動不審そのものであるにもかかわらず、それを誤魔化そうとしている。普段なら音楽を掛けている運転中に一切の音楽を聴いていないのだ。明らかにいつもの調子ではない。いくら慣れない道だとしても、そこまで不自然な行動をすることはないのだ。心にやましい事でもなければ。
「ふ~ん。……香、起きないね」
「うぁ、あ、ああ、翠が誘ったのが急だったからな、この旅行。夜更かししてたんだろ」
あからさまに視線が泳ぎ、同乗していて不安になるほどだ。
必要のない左足が上下に激しく揺れている。
「あ、もうちょっと先に店があるはずだから、そこでスイカを買いましょう。他に何かいる?」
「あ、ああ。そうだな。休憩もしたいし、ちょっと早いが昼にでもしようぜ」
緊張していたからか、非常に汗もかいて疲労しているようだった。
「そうだ、……浮き輪、持ってきた? 無かったらついでに買ってこようっと」
「ふぁ、う、浮き輪か。持ってないと思うぞ。そうだな、可愛いのでもあればいいな」
「……そうだね」
こんな辺鄙なところにそんなものが売ってるわけないって思わないんだろうか。普段ならそんな言葉も普通なのかもしれないのだけれど、ちょっと違うんだよね。
「オレは香を起こしてるから先に行って、スイカとか浮き輪とか買ってきてくれよ、食いもんはオレたちが見て来るから」
「うん分かった」
そう言って別行動をする。
スイカを探すといくつか並んでいた。黄色のスイカって書いてある。割った時黄色だったらビックリするかな。普段は赤いのしか食べてなかったから、驚くよね。
黄色のスイカを購入した。そして予定通り箱に入れられている。取ってがあるので持ちやすい。結構重いからね。
さっき口を吐いた浮き輪も入手しておかないと変な疑念を持たれても困る。
なんか普通のドーナツ型のを手に入れる。
「買ってきたよー」
「ここで食えるって」
――ガタンゴトン。
車窓から望む夕焼けが、やけに眩しく見えた。
「行きは車で三人。でも帰りは電車で一人って、ちょっと寂しいものがあるなぁ」
砂浜で二人と最期に遊んでから、一人で帰ってきたのだ。
『――まもなく、○○駅へ到着いたします。△△方面へお急ぎの方は二番ホームへと……』
「はぁ、田舎の路線は乗り換えが多くて大変」
乗り換えを繰り返しているため、面倒になってくる。かと言って下手すると1時間待ちとか平気で要求してくるから乗り換えを気を付けておかないといけない。
「ちょっとあんた」
そして、呼び止められたのは私鉄からJRへと乗り換えをしようとしている時だった。
「はい、どうしました?」
「いや、なに。怪我とかしとらんのか、大丈夫かと思っての」
私は自分の体を見下ろす。服のあちこちに赤い染みが付いていた。
「ああ、大丈夫です。友人と砂浜でスイカ割りをして友人が当たっちゃって」
「ああ、その手に持っているのはそのときの余りかなんかい」
手には行きで購入したスイカのケースとしての箱があった。
「はい。ハズれた恋人の余りが入ってます。ご心配をおかけしました」
お礼を言ってお辞儀すると甲高い音が床を滑る。
それを拾ってくれる駅員さん。
「包丁かい」
「ありがとうございます。用意し忘れて、穴場だったので借りることも出来ず、わざわざ購入したんですけど、おかげで持ち帰る羽目になってしまって」
「気を付けてな」
「どうも」
乗り換えに時間的に余裕があるために長々と話す暇があった。
さすがに時間があると声を掛けられてしまう、か。
田舎だとどうしても人と人との交流が盛んというのだろうか。ちょっとしたことでも話し掛けられたりするのは困りものだ。目撃者は少ないが、その分より印象に残ってしまう。
これが都会だと、目の前で人が怪我して倒れていてもその横を通り過ぎたりする人ばかりだ。
私は砂を掛けて頭だけが出すのをやってみたいというと、稔は喜んで持ってきたスコップで穴を掘った。次に香と一緒に寝転がって砂に埋まってくれる。これで浮くことはないだろう。
そして私がスイカ割りをした。持ってきた大型のハンマーで。
当たれば赦してあげて、外れたら包丁で切って収穫をする、と言って。
実家で餅つき大会をした経験が活きた。頭の方の重心を握り、縦に持ち上げ振り下ろす。
香は当たったから赦してあげた。
しかし、目の前で外れて稔は涙を流してたなぁ。でも許さん。
浮気した二人が悪い。