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いろは歌

作者: 劇団だるい

いろは歌をベースとした、言葉遊びコントです。いろは歌の新解釈にチャレンジします。

いろはにほへと ちりぬるを

わかよたれそ つねならむ

うゐのおくやま けふこえて

あさきゆめみし ゑひもせす


※役2(ツッコミ)は、役1(ボケ)の言った古語を現代語に翻訳しなければならないという暗黙のルールに基づき演じられる


役1

いろはにほへと。


役2

色は匂えど。

「匂うほどに美しい花でさえも」


役1

ちりぬ。


役2

(ん? という顔)


役1

ちりぬ。


役2

区切るとこ、ちがくない?

ちりぬるを、でしょ。

「いつかは散ってしまうことだろう」


役1

ち、り、ぬ!


役2

「散った」っていう意味になっちゃうけど……。

いいの?


役1

(こくり、とうなずく)


役2

いいなら、いいけど……


役1

るをわ。


役2

そこで区切る⁉︎


役1

(こくり、とうなずく)


役2

ええと……

フランス出身の青年、「ルオーは」。


役1

(イェーイ)


役2

イェーイってどこが?

ルオーって誰⁉︎


役1

かよたれそつ


役2

無理でしょ!


役1

かよたれそつ


役2

知らないよ?

ルオーは、「歌謡タレント専門学校」、通称「かよタレ」の卒業生だ。略すと、すなわち「かよタレ卒」である。

これ大丈夫なの?


役1

(さあ?)


役2

不安!


役1

ねな


役2

「ねーな……!」

ルオーは、一人つぶやいた。


「おれ、才能ねーな!」

歌謡タレント専門学校を卒業して十年、鳴かず飛ばずのルオーは、才能の限界を感じていた。

歌謡タレントなんて目指すんじゃなかった。ルオーは猛烈に後悔していた。

この人生、もう一度やりなおしたい。


役1


役2

ふぇっ?


役1

ら!


役2

「裸」。

ルオーは、いつしか、裸族の自由な生き方に惹かれ始めた。


役1

(グッジョブ! という顔)


役2

ほんとかなあ……


役1


役2

ねえ、一文字やめない?


役1

む!!!


役2

「むう」

ルオーは、唸った。

俺は、どうしようもなく、裸族に惹かれている。

そんなルオーに、裸族の酋長は言った。


「自分の生き方を決めるのは自分だよ」


ルオーは裸族になる決心をした。

しかし、生き方を変えるのは、容易いことではない。

ルオーは、辛くなると、歌を歌って過ごした。


「ケフコ」という裸族の娘は、そんなルオーの歌を聴き、笑いかけ、励ました。

ルオーは、ケフコの助けも借り、徐々に裸族の生活に慣れ、裸族の仲間になっていった。


ルオーは、いつしか、ケフコに惹かれるようになった。ケフコもまた、ルオーのひたむきな姿に、惹かれていた。


二人は愛し合い、ついにルオーは、裸族の聖地「霊峰ウイ」の奥深くで婚儀を挙げ、最愛の妻としてケフコを得たのである。


役1

うゐのおくやま けふこ えて


役2

婚儀は盛大に執り行われた。

村人は皆笑顔だった。

夫婦となった二人は仲睦まじく暮らした。

ケフコはルオーに尽くし、ルオーはケフコを慈しんだ。

子は三人生まれ、三人とも健やかに逞しく成長し、孫が八人生まれた。


……ある晴れた朝、ルオーは、自分がもう長くないことに気づいた。


自分は幸せだったと、心からそう感じた。

ケフコが隣にいる。

ルオーは、ケフコの手を握り、ゆっくりと目を閉じ、その人生を終えた。

ケフコは、笑ってルオーを見送り、その後、泣いた。


役1

あさきゆめみし


役2

目が覚めた。


悲しくないもないのに涙が流れている。

とても幸せな、長い夢を見ていた気がする。


役1

ゑひもせす


役2

人生とは、無常のこの世で、酔いもしないで浅い夢を見ているようなものだ。


ルオーは、勢いよく起き上がり、急いで支度をする。

今日は、歌謡タレント専門学科の卒業式だ。


これからルオーが歌謡タレントになれるかは分からない。だが、歌謡タレントになれても、なれなくても、自分の生き方を選ぶのは、自分だけだ。悔いのないように生きよう。


見てろよ、ケフコ。

あれ……ケフコって誰だっけ?


ルオーは、玄関のドアを開けた。

と、ちょうど隣の部屋の玄関が開く。


「お、おはようございます、ルオーさん、今日も、ぐ、偶然ですね?」

「あ、キョウコ! おはよう! 偶然だね!」

「そ、そう。偶然なのです! それも、全くびっくりの、とんでもない偶然ですね!」

「そんなに⁉︎ それはすごいな」


キョウコは、隣に住む会社員だ。

よく、出がけに偶然出会うのだ。


「あ、あの、今日は卒業式だと思うんですが」

「知ってたの? そうなんだよ!」

「あの、今夜お祝いパーティーしませんか?」

「いいの⁉︎」

「も、もちろん」

「楽しみにしてるね! ありがとう!」

「行ってらっしゃい!」


今夜は卒業パーティーをしてくれるようだ。

ありがたい。


ルオーは、学校に向かい歩き出した。

一番好きな歌をうたう。

春の柔らかい日差しが降り注ぐ。

ルオーは、ゆっくりと伸びをした。


「んー……!」


役1

ん(満足げにうなずく)


役2

……ねえ、いろは歌って、こんな話だったっけ?


役1

ん(力強くうなずく)



いろはにほへと ちりぬ

るをわ かよたれそつ

ねな

うゐのおくやま けふこ えて

あさきゆめみし

ゑひもせす

劇団だるいWEBでは、この他にも100本近くのコント・短編台本を公開しています。


ぜひご覧ください。

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