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塩作りに必須な海水を手に入れた私は、早速準備に取り掛かることにした。


まずは、お鍋だよねえ。厨房とかにありそうだけど・・。あとでこっそり行ってみるか。

そしてもっと綺麗な海水にするための、ろ紙。これは大切だな。でも、ろ紙って、この世界に存在するのか?

なかったら、ろ紙は無しでやろ・・・。


とりあえず、厨房に行ってみることにした私は過保護なヴァイスをつれて廊下を歩いていた。


「お嬢様は、一体何をされるおつもりなのですか?」

「んん、、ちょっと、料理改革をね・・・」


私が言葉を濁して答えると、ヴァイスが呆れたような顔をした。


む、なによ・・。なんか文句あるのかい?あなただって、この世界の料理味が薄いと思うでしょ?


「お嬢様。今夜、旦那様がルーラ様とお話がしたいとおっしゃられていましたよ。          

 体力は残しておいてくださいね?」

「わかってますって。海水を煮込むだけですから。」

「海水を煮込む・・・?」


なにやら考え出したヴァイスは放っておいて・・・。

厨房らしき場所が見えてきたので、入ってみることにする。こっそりね・・。抜き足差し足忍び足。

抜き足差し足忍び足。


リズムに乗って、こっそりと進んでいると後ろから空気の読めないヴァイスが声をかけてきた。


「お嬢様、そのリズムカルなダンスは一体何ですか?みんな見ていますけど。」

はっ!!!その言葉で慌てて周りを見てみると、たしかに調理人さん達がこっちを見ている。


「いやだわ、ヴァイス。今のは料理が上手くなるようにと想いを込めて踊ったものなのよ。

 きっとみんなも料理が上手くなっているはずだわ!」

「なんと!!そんなものがあるとは!!大変光栄ございます。お嬢様。」


料理長らしき人が、前に出てきて反応してくれる。

ほっっ。よかったあ。もう少しで、黒歴史をのこしてしまうところだった・・。

“突然厨房で踊りだす令嬢!”なんて噂になったら恥ずかしいどころじゃなく、舌を切って死にたくなるレベルだよ・・。


「ところで、お嬢様はなにをされにこちらへ?」


ああ、そうだった。本来の目的を忘れてた!!


「実は、厨房の一角とお鍋を少しお借りしたくて・・。」

「ああ、そういうことでしたら是非。他に、必要なものはございませんか?」

「そうですね・・。不純物をこしとることができるものってありますか?」


本当はろ紙がいいのだけれど、なかったら布目の粗い布とかでも全然いいのだ。


「それでしたら、こちらがございます。」


そう言って料理長が渡してくれたのは、金属で出来たボウルのようなもの。


「そちらに、こしとりたいものを入れていただけるとこしとることができます。」


わお。想像と全く違ったよ。すごい!


「ありがとうございます。早速やってみます。」


早速、用意してくれた場所に行き、重いからとヴァイスがもってくれていた海水を下ろす。

鍋に重ねるようにしてさっきもらったボウルをおいた。


「あとは海水をろかして、強火で煮込むだけだね!」


海水をボウルに注ぐと驚くほど早く、ろかすることができた。


「はや!!」


それを何回か繰り返しているうちに、最初にくんできた海水とは比べ物にならないくらい、綺麗な青色になっていく。その作業をまた何回か繰り返した後、鍋に火をかけた。最初は強火だ。


ぐつぐつ・・。ぐつぐつ・・。


ろかをするのはあんなに早く終わったのに煮込むのには思ったより時間が掛かった。


「なかなか固体にはならないね・・・。」


時間が経つにつれて、どんどん水は蒸発して少なくなっているが、まだ白い固体には程遠い見た目だ。


違うんだよ。私がイメージしてるのは、もっと真っ白で粒状で・・。ザラザラしていて、しょっぱくて。


私が日本で見た真っ白なお塩を思い浮かべていると、目の前の鍋の中身がどんどんそれにちかずいていき・・。

私の頭の中の塩と同じものになっていった。


「ええ!? なにこれ? 思い浮かべただけでこんなに簡単に・・?」


この感じ、昨日もあった。頭の中で思い浮かべたことが、立体化されていくこの感じ・・。

そして昨日はヴァイスが慌てていて、すぐに家に帰らされたんだ。


後ろを振り返ると、案の定ヴァイスは昨日と同じ顔をして鍋を見つめていた。

でも今回は、ちょっと焦ったような顔・・。


「ヴァイス・・・?」


不安になりヴァイスに声をかけると、ヴァイスは私の方を見た。


「お嬢様。少し早いですが夕食にいたしましょう。旦那様が待っておられます。」

「わかりました。」

ヴァイスの言葉が咄嗟に出たものだということがわからないほど私も馬鹿ではない。

もう塩は出来たので、帰る準備をする。


周りの調理人は、それぞれ料理を作ることに忙しいようで、鍋の中の変化を見ていたのは、幸いヴァイスと私だけのようだった。


後かたずけは料理人さんがやってくれるというので、あっという間にできた塩だけを小さなビンにしまってもらってからすぐに厨房をあとにした。


「お嬢様。私は旦那様をよびにいってまいりますので、お部屋でおまちください。」


私の部屋の前着く頃になると、すっかりヴァイスの様子も元に戻っていた。


「ええ、わかりましたわ。」


昨日、そして今日、一体私に何が起こったんだろう。部屋に戻っても考えるのはそのことばかり。

悶々とひとり考えていると、部屋のドアがノックされた。


「はあい。」

「ヴァイスです。旦那様がお話をされたいとおっしゃられています。」

「分かったわ。今行きます。」


一人で悩んでいるよりは、誰かに聞いてもらったほうがいいはず・・!

たとえ相手がほとんど交流のないお父様だとしても・・!


そんな希望を胸に抱きつつ、ヴァイスに案内された場所はなんと執務室だった。


「夕食をしながらではないのですか?」

「これは旦那様のご要望です。家族三人だけで話がしたい、と。」


ええ?執務室で話すような内容って、なんか緊張するんだけど・・。


「失礼いたします。ルーラでございます。」

「ああ、入りなさい。」


執務室の中はかなりの広さだった。

この前の図書室も広かったけどこっちもすごいね。

私が執務室の広さに圧倒されていると、お父様とお母様がそのさらに奥の部屋から出てきた。


「こんばんは、お父様、お母様。」

「こんばんは、ルーラ。」


二人とも美男美女であるため、並んで立つと人形がたっているみたいだ。


「ルーラ。大切な話があるんだ。早速本題に入ろう。ヴァイスから聞いたことなのだが砂浜に小さなお城を立てたとか。これは本当のことなのか?」

「ええ。頭の中でイメージしていたものと同じものができていました。」


予想はしていたけど、やっぱりあの事か・・。


「それに、今日もそんなことが起きたと・・。これも本当か?」

「はい。頭で考えていたらいつの間にかに・・・。」


私がそう答えると、お父様はふうーーと息を吐き、そして何かを決心したように私をまっすぐ見つめた。


「ルーラ、これから話すことはルーラの人生に大きく関わることだ。よく聞いて欲しい。」

「はい。」


それからお父様が話した内容はほとんどが私の知らない、そして知らなければならないことだった。


まず、この家のこと。


「これはルーラも知っていることだろうが、わが一族、グロブナー家は海の魔法を使うことができる魔力を代々引き継いでいる。そのおかげで王族に気に入られ、貴族社会の上位に君臨することができているのだ。」


 

 へえ・・。知らなかった。図書室で読んだ“グロブナー家の歴史”は、この家のことだったんだ。


「海の魔法とは

 1、海のものを操ることができる

 2、海の中で呼吸をすることができる

 3、海の王と話すことができる

 の三つに分かれる。たいてい、グロブナー家の一族は1と2まではできるようになる。」


・・すごい。海の水を操れるだけでもすごいのに、海の中で呼吸ができるって。

それ人間じゃないよ・・。


「ルーラ。感心している場合ではないぞ。先ほどルーラがいっていた砂浜の城の件も海水の件もルーラが海の魔法を使えるようになった事のあかしだ。」

「え?ええええーーー!?」


グロブナー家の凄さに圧倒されて忘れそうになってたけど、考えてみればお父様の言う通りじゃないか!!

砂のお城も塩の件も!!


「しかも、ルーラの魔力はかなり高い可能性がある。まだ調べてみないとわからないが・・。」


「た、高いとどうなるんですか?」


「より、待遇が良くなり国のために尽くすことを求められる。」


そ、そんな。前世、会社にこき使われ、あっけなく死んだ事を思い出して涙がでそうになる。

私、あんなに働いたのに。また誰かのために尽くさなくちゃいけないの・・?


「私はそんなの嫌です。誰かに、国のために尽くさなければいけないなんて・・。」


「そうか。ルーラが嫌だというなら私も全力で阻止しよう。」


「私も。ルーラのために・・!」


ずっと口を閉じていたお母様までもが協力をしてくれる・・。

それだけで、心があったまる気がした。


「それと、これは仮定の話だが、今王族には二人の王子がいる。そのうちのどちらかがルーラとの婚約を望まれる可能性も出てくる。その時のために、跡継ぎのことをきちんと話し合っておきたいのだが。」


は・・?婚約?王子?さっきまでの心温まる家族の会話はどこに行った!!

ちょっとお父様~!!


「一番いい方法は、養子を取ることだが、その基準がまたむずかしい・・。」


え、養子って、、。私、お姉ちゃんになるの!?

やったーーーーー!!前世の私は四人兄弟の一番年上だった。だからもう兄弟には慣れている・・・!!


「ぜひ、ぜひ!私、お姉ちゃんになりたいです!」


私が、勢いよくそういうとお父様は少し困ったような顔をした。


「でも、ルーラ。養子を取るということはつまり、ルーラが公爵家を継げなくなることとおなじことだよ?」


あ。そこまでは考えてなかった。でも、私には公爵家を継ぐのはちょっと無理がある気がする。


「でも、私は公爵家を継がなくてもいいです。私は人に尽くされ、愛されるような人になりたいんです。」


これは、前世からの夢だったことだ。世界の困っている人の役に立ちたい。そんな人たちのヒーローになりたい。そう思って会社に勤めていた。


「そうか。なら、ルーラは具体的にどんなことをするひとになりたいんだ?」


う~ん。そうだなあ。


「例えばですが、王とか?」


私がその言葉を発したとたん、お父様がガタッと椅子から立ち上がり、お母様がキョロキョロと周りを

見始めた。


あれ、コレってもしかしていっちゃダメなやつだった・・・?いや、例えばだよ?例えば。

けっして、どうせなら人に一番尊敬されそうな王になってみたいな、とか思ってないから!!


「落ち着いて!!ちょっとした冗談ですよ。」


私がそういうとやっと落ち着いた二人は、ぎろっとこちらを見た。


「ルーラ。今の言葉は冗談でも決して言ってはならない。もしおまえが大事な娘でなければ 、即刻首をはねていたところだぞ!」

「ご、ごめんなさい。」


やめて。お父様、目が本気です。もう二度と言いません。


「王妃ならば、私たちもまだ許せる範囲内だが、王はダメだ。」

「王妃ならいいのですか?」

「まあ、王よりは協力できる部分もあるし、反逆罪には問われないからな。」


ふ~ん。王妃ならいいんだ。


「ならば私は、みんなに愛され尊敬される王妃を目指します!」


王がダメなら王妃でいい!!そう思って言ったら、なぜかお父様にすごく渋い顔をされた。







そして、後日。

夕食の時にお父様が忘れていたというように、その聖ルチア学園のことを口に出すまで、私は魔力が発動した貴族のこどもが入る学園の存在を知らないままだった。







小説を読んでくださってありがとうございます。

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