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さあ、いざ塩作りへ!
すでに、海が家の近くにあることはメイドさんに聞いたから分かっている。
動きやすいドレスに着替えて意気揚々と部屋のドアをあけた。
そのさきに・・・。
なぜか知らないお兄さんが仁王立ちをして立っていた。
「ちょっとそこをどいてくれません?私、通りたいのですが。」
ちょっと!私いそいでるの。はやくどいてよ!!
そんな本心を隠してほほ笑みかける。外からみれば私は完璧なお嬢様に見えているはずだ。
「何を言っているのですか!!つい先日、勝手に一人で海に出かけて倒れたばかりではないですか!
あの時、私がもう少し見つけるのが遅かったら、あなたの命が危なかったのですよ。」
ああ。この人が慌てて私を運んできたヴァイスか・・。その節はありがとうございました。
「大丈夫よ、ヴァイス。少し海の様子を見てくるだけですから。なんなら、あなたもついてきますか?」
「もちろんです。」
そんなことがあって、ふたりで海に行くことになった。
「わあ、きれい!!」
メイドさんの言ったとおり家のすぐ近くに海はあった。
ルビーのようにキラキラして透き通った青色。
これならいい塩が取れそう!
「ねえ、ヴァイス。あなた、海水を入れられるような箱を持っていない?」
「海水を入れる箱・・ですか。ただいま持ってまいります。絶対にうごかないでくださいよ。」
「わかってますって。」
ヴァイスは過保護すぎると思うが、また倒れたら本気で怖そうなので砂浜に座っていることにする。
サー。サーーーッ。
砂浜に打ち付ける波は本当に綺麗だ。波を見ていると、前世家族で沖縄に行ったことを思い出した。
たしかあれは私が小学生のときだったなあ。お姉ちゃんと、砂のお城を作ったんだっけ。
お城の窓を貝殻にして・・。ちゃんと家族みんなの部屋も作って。また作ってみたいな。
そんなことを思い出しているうちに、ヴァイスが戻ってきた。
「おかえりなさい。ちょうどいいのは見つかったかしら。」
手で砂のついたドレスをはたいて立ち上がる。そしてヴァイスに箱を見せてもらおうとする。
ところが、ヴァイスはなぜか私の後ろを見て固まっていた。
え、なに?普段は見せないであろうヴァイスの表情が気になって、私も後ろをむいてみる。
な、な、なんじゃこりゃーーーーー!!
なんとそこには砂で出来たお城が立っていた。
「お嬢様。これはなんですか。どうしてこんな短時間のうちにこんなものができているのですか。」
「・・わかりません。」
高さは、わたしの腰くらい。よーく見てみると貝殻まで埋め込まれている。でも、ところどころ作りが甘い部分もある。
・・って、これさっき私が思い出してた、沖縄で作ったお城にそっくりなんですけど!!
「・・でもこれ、私がさっき考えていたものと同じもののようです。」
さっきから黙って何か考え込んでいるヴァイスに私がそういうと、ヴァイスは顔をしかめて
「ついにそのときがきたか・・。思ったより早かったな。」
とつぶやいた。
え、なに。その時って。顔が怖いよ。顔が。ていうか口調変わってない?あの、主を支える執事風な口調はどこにいっちゃったの??
私がヴァイスの発した言葉と、急なキャラ変に驚いているとヴァイスがこっちをむいた。
「な、なんですか??」
「お嬢様。なるべく早くお嬢様の用事を終わらせて屋敷へ戻りましょう。いいですね?」
「は、はい。」
ヴァイスの剣幕におされつつ、私はヴァイスが持ってきてくれた箱でなるべく綺麗な海水をくんで家にもどった。
その日の夜、薄暗い執務室のなかでこの領地の主であり、ルーラの父であるルシウス・グロブナーと筆頭執事のヴァイスが、声を潜めて話していた。
「そうか・・。あの子にも魔力が発動する時期がやってきたのだな。」
「はい。しかもかなり強い魔力でしょう。あの短時間であの大きさのものを作れるとなると、将来王族に望まれる可能性もあります。」
ローガンはその言葉を聞くとためいきをついた。
「王族か・・。かなりだな。いつかルーラが王族に望まれても領地がまわるように対策をしなければならないな・・。」
「跡継ぎのことも考え直さなくてはなりませんね。」
喜ばしいはずの娘の成長による課題を考えて、ルシウスは顔をしかめた。
「とりあえず、これで学園への入学は必須になったな。ルーラにはわたしが魔力のことを伝えておこう。そなたは入学の手配をしなさい。」
「かしこまりました。」