謎の既視感
初投稿、かつ書き出し4,000字で3年も放置していた作品…。
なんとか完結させてあげたいと思い、続きを書いていきます。
視界には赤、ピンク、オレンジ、黄、白、緑、そしていっぱいの青。
この美しい光景と身を切るような冷たさと恐怖には何故か覚えがある気がするーーー。
***
「さ、早く早く!綺麗なお花いっぱいあるかなー?」
少しくすんだオレンジ色の髪をポニーテールにした可愛い女の子が急かしてくるので、少女はまだ朝は肌寒いから、とお揃いのカーディガンを羽織らせる。
その日、朝早くから少女は孤児院の妹分であるマリーと共に孤児院から少し北上した所にある森へ出掛けていた。そこは適度に陽の光が入る美しい森で、季節毎に可憐な花々を咲かせる花畑が点在している。
森の奥深くには恐ろしい野生動物がいるらしいが、浅いところにはリスやウサギといった可愛らしい小動物くらいしか居らず、少女も何度も訪れたことがある。この森の可憐な花とその花を押し花にした栞や便箋は、孤児院のささやかな収入源の一つであり人気のある商品だ。人通りの増える午前中に露店に並べるため、かなり朝早くから花摘みに出なければならず、孤児院の子供たちには不人気商品ではあるが。
少女が今年10歳になる幼いマリーを伴っているのは、彼女が昨日花摘み係に立候補したためである。通常なら一人で摘みに行くこともあるのだが、幼いマリーを一人で森に行かせる訳にもいかず孤児院では最年長である少女が引率することとなった。マリーが立候補した理由に心当たりもあり、微笑ましい気持ちで引率を快諾したのだ。
色とりどりの花を摘み終わった二人はホクホク顔で帰り支度を始めた。花が萎れてしまわないように森の中を穏やかに流れる川の水を少しだけ皮袋に入れ、切り口を浸して縛っておく。この頃春めいてきたとはいえ、そこそこ標高のある山から流れてきている川の水はまだ身を切るように冷たく、孤児院に帰るくらいの時間なら充分冷たさを保つだろう。
この川に沿って行けば街道まで出られるので迷うこともない。登ってきた陽の光が森の木々の隙間から溢れ落ち、煌く川面を横目に二人は談笑しながら歩き出す。
七色に輝く美しい翅を持つ蝶が目の前をヒラヒラと横切った時、嫌な予感がした。川縁の岩へ留まろうとする蝶を追いかけ、マリーが突然駆け出したのだ。
「止まって!マリー!危ないわ!!」
声を上げたときには派手な音を立てて飛び散る水飛沫の中にオレンジ色がちらついた。苔の生えた岩で足を滑らしマリーが川へ転落してしまったのだ。
少女は咄嗟に背負っていた籠を川へ投げ入れ、必死に捕まったマリーを川岸まで何とか引っ張った。しかし引き上げる際に今度は少女が入れ替わるように転落してしまった。
まずいわ、意外と深い...!
マリーの救助で体力の殆どを使い果たした少女には、水を含んだ衣服が鉛のように重たく、水面に上がろうともがくものの思ったようには手足が動かない。
徐々に沈みゆく少女の視界には、二人が摘んだ色とりどりの花弁が散る美しい水面が映っていた。