表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と僕の物語  作者: かずねこ
5/34

ポニテ

朝、教室に入った時、僕は無意識に君を探す。


騒がしい教室の中で、君は友達と話してるのを見て、思わずドキッとして立ち止まるが、平静を装って、自分の席へ向かう。



「おはよう」

「うん、おはよう」

クラスメイトと、軽く挨拶して、動揺を沈める。


クラスメイトの夏野結唯が、髪型を変えただけで、こんなにドキドキしてしまうなんて。



はしゃぐたび、後ろに結んだ君の髪がぴょこぴょこ揺れて、可愛らしいポニーテールだ。


その夏野さんが、不意に僕を見て、こちらにやって来る。

そのまま、僕の隣に座る女子と話し始める。



夏野さんは、ぼっちの僕に話しかけたりしないだろうと、一限目の準備をしつつ、文庫本を取り出し読み始める。



僕は、基本的にはぼっちだ。クラスメイトと挨拶はするが、それ以外は一人(?)独りだ。


その方が、気楽だし、昔から同性にはいじられることがあったり、見下されることも多々あったので、一緒にいても、楽しくなくなった。



からかわれることは、あるけれど、しかし、このクラスでは夏野さんが、率先して止めてくれた。

優しい人なんだ。



二年になって、同じクラスになって、君を見た瞬間、胸がドキドキした。

今までの息のしづらい世界で、やっと呼吸が、ちゃんとできたような感じ。


僕にもそれが、恋だと気づいてはいたけど、見てみないフリをしている。

自分と違って、友達も多いし、笑うとえくぼがかわいい君のことを好きな人は、このクラスにも他のクラスにも多いだろう。

僕は見てるだけ。それでいい。



君のきれいな声を聞きながら、HRまでの短い時間、物語の世界に入り込む。


「ねえ」

「………」

「ねえ、風見流星くん」

「え?あ、僕?」

「うん、ね?私の髪型似合う?」

結んだ後ろの髪を摘まみにこにこしてる。


「あ、うん。か、かわいいよ」

「やだー!」

なんとかそれだけを答えると、君は、照れたようにバシンと僕の背中を叩いて行ってしまう。



ドキドキしながら夏野さんを見てると、隣の席の成瀬さんが、からかってくる。

「結唯のこと、好きなんでしょ~?」

「……!」

それには答えられず、うつむいてしまう。

このクラスは、良いクラスだ。ぼっちがいても、いじめには発展せず、たまに話す時でも、普通に接してくれる。



なにか答えようとしたけど、言い訳にしか聞こえなさそうなので、その子が、追撃をしようとしたとこで、丁度担任が入って来たので、救われた。



隣の成瀬さんも、特に気にした風もなく、言いたいことが言えたからいいか。そんな表情に見える。




いつもの退屈な授業が始まる。退屈といっては、学費を払ってくれてる親に悪いけど、苦手なものは苦手なんだ。



四月の終わり。初夏の緑の風が吹いて、心地良い。

何気無く窓の方を見てたら、夏野さんが不意に、こちらを見て、ドキッとした。


目と目が合った後、ニコッと笑ってそっと手を振る。

僕は、照れくさくて机にふしてしまう。


あの子だけだな。ぼっちの僕に積極的に関わってこようとするのは。



放課後、帰り支度をして席を立つと、クラスの里見に呼び止められた。

「悪い、掃除当番代わってくれない?」

拝むように言われる。確か、サッカー部だったっけ?


もうすぐ練習試合で、少しでも多く練習したいのだと言う。

雰囲気と気配で、ホントにそうなんだなと分かる。



中学の時は、見下されてるのか、よく押し付けられたりしたから。同性は、めんどくさいね。

人より、どっちが上か決めたがる。


「分かったよ。やっておくよ」

「わりー、サンキュ。今度、奢るから!」

そう言って、そそくさと出ていこうとして、それに気づいた君が、廊下に出て叫ぶ。



「こらー!さとみぃー!サボるなーなー!」

「俺は行く!サッカーをしに!」

「あいつ!」

君は、プンスカ頬を膨らませて怒ると、僕の方を睨みながらやって来る。


「風見流星くん!」

「はい!」

なぜに君は、僕のことフルネームで呼ぶ。



「嫌なら、ちゃんと断んなよー!ああいう、自分に甘い奴は、厳しくしないとだよー!」

かわいい子は、怒ってもかわいいんだなと、別のことを考えてると、また怒られた。



「風見流星くんや!」

今度は、おばあさんのような呼び方に、キョトンとした後、吹き出してしまう。



「ははは!」

普段、無関心のぼっちの僕が、笑ったのだから、みんな、珍しそうな表情をしている?


しまった。昔はこれで、余計に馬鹿にされて、感情をセーブしてたのに。しかし、杞憂だったようだ。

「おお!氷の王子が、笑ったぞ!」

「やったね!」

女子たちは、ハイタッチしてる。


「???」

僕は、訳も分からずクラスを見回す。なに?その恥ずかしいあだ名は?王子ってほど、イケメンでもないし。



「君は、もっと笑った方がいいよ!」

夏野さんが僕の手を握って、ぶんぶんする。暖かい手。

そうじゃなくて、どう言うこと?


「いやー、風見流星くんは、いつも一人でいるって、一年の頃から、噂になってて」

「あー」

独りでいつもいるから、そうやっていじってる奴もいたからな。


「同じクラスになった時は、すぐに君がそうだと分かって」

「迷惑かと思ったんだけどさ」

クラスの男子が、苦笑する。

「我らの姫が、どうしても仲良くしたいって言うからさ」

「だって、独りは寂しいよ。心と身体が、不健康になっちゃう気がするから」


うつむいてしゃべる君に、ほまっちのなにが分かるのかと言おうとして止めた。

夏野さんは、少し震えていたから。




「……ありがとう」

「え?」

「いや、ホントにありがとう」

さっきも言ったように、僕は同性は苦手だ。すぐ、下に見られていたから。



一緒にいても、つまらないと感じてしまう。絶望したんだ。


だけど、夏野さんが、僕の手を握って少し、引っ張ってくれたから。


君となら、少し関わってもいいかな。まずは、そこから。簡単なもんじゃないだろうけど。


「今日は、みんなで帰ろっか?」

「あー、俺、部活!」

「私も!」

「みんな、付き合いわるっ!」

「頑張んなよ」

成瀬さんが、夏野さんの耳元でなにか囁くと、顔を真っ赤にする夏野さんを見て、にやにやしながら去っていく。



「ち、ちょっと、かりん!」

「いーから、いーから!風見、この子のこと、よろしくね!」

しっかりウインクまでされた。なに?なに?ウインク下手だね。思いっきり、両目つぶってたし。



いつの間にか、夏野さんと帰ることになってる?

君にだけ、反応する心は、慌てん坊みたいにドキドキしてる。

「ほら、馬鹿言ってないで、掃除するよー!」

「わー!姫が怒ったー!」

「ははは!」



掃除が終わり、それぞれが、教室を出ていくと、辺りはしんと、静かになる。

「結唯、じゃね!また、明日!」

「うん、またねー!」


僕は、自分の席で帰り支度をして、覚悟を決める

「あ、あの、夏野さん」


「……なに?」

「その、良ければ、一緒に帰ろっか」

「いいよ」

「うん、ホントに良ければだけど……て、いいの?」

「君こそ、独りじゃなくて、いいの?」


いたずらっぽく、言わないでよ。

「まあ、今日は誰かと帰るのも、たまにはいいかな?」

君は、クスッと笑うと歩き出す。すぐに後を追う。



「ところで、氷の王子ってなに?」

「あー、いつも、表情変えずにいるから、クールに見えるから…」

「氷の王子?」

「そ」

クスクス笑う君に、僕は苦笑する。そのあだ名は、皮肉も込められてるのかもしれないけど、どっちにしても恥ずかしい。



そして、僕は実感した。ぼっちも気楽だけど、誰かと話すのは楽しい。

心が、健康になる感じだ。心が健康になるから、身体もいつもより軽くなる。

心と直結してるから、身体も健康になる………のかな?



ともかく、僕は今日、初めて友達と返る。


その半年後には、恋人どうしになってるとは、今の僕にはしるよしもない

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ