交換日記
鈴音との学校からの帰り道。蝉時雨が五月蝿い中。
僕は、緊張していた。もう秋だってのに夏のような暑さだ。
「鈴音」
「んー?」
僕の呼びかけにこっちを見ると、
アイスを加えながらにこにこしてるので、ご機嫌みたいだ。
「………交換日記しない?」
「は?」
このご時世にである。スマホがあるのに。
でも鈴音は、アイスを齧ると幸せそうに言った。
「いいよ」
「いいの!?」
「うん。だってもうすぐ、引っ越すんでしょー?」
「ああ」
好きな人との思い出が欲しくてなんて、照れくさくて言えない。
「そのかわり」
「ん?」
「アイスおごってね」
「はいはい」
「それにしても、そんなに私との思い出が欲しいのか~。ふーん?」
「な、なんだよ?」
「なーんにも。にひひ」
「変な笑いするなよ」
「うるさいよー」
こうして鈴音と始めた交換日記は、クラスのみんなに冷やかされながらも、夏休みに入ってからも続いた。
そんなある日。いつもの駄菓子屋の前で。鈴音と待ち合わせ。
ここでいつも、交換日記を交換してるのだが、今日で最後。
鈴音と、夏休みでも会えるのは嬉しいはずなのに、今は切ない。さよならを言いたくない。
「よ」
「おう」
鈴音はいつもの笑顔でやって来て、アイスをねだる。
「今日で、終わりだねー」
「…ああ」
「文字を書くのもいいもんだね」
「うん」
「あ、そうだ」
アイスを加えながら、カバンをがさごそやって、例のノートを渡す。
短い間だが、たわいないやり取りでも僕は、嬉しかった。
「サンキュ」
「おっと、まだ見ないでよー?」
鈴音は、いたずらっぽく笑うと、ベンチから立ち上がると、笑顔で言った。
「じゃ」
片手を上げて、笑顔で。僕も無理して笑う。泣きたい気持ちは隠す。男だから泣かない強さは無いけど、今は泣かない。
鈴音は、あっさりと自転車で去っていった。
やっぱり、鈴音は僕のことをなんとも思ってないんだな。
そう思って、アイスを齧る。僕ももう行かないと。立ち上がり、バス停へと向かう。
山ばかりの景色を眺めた後。バス停のベンチで、パラパラとめくった交換日記の鈴音の最後の書いたページには、『今度は手紙でやり取りしよー、強制(笑)』と書かれていた。
そして、最後のページには、『デートに誘えよ』と書いてあり、詩まで書かれていた。
また明日
泣いて笑って
また明日
当たり前のようで
尊い当たり前のことだね
僕の流した涙は、夏の暑さの地面に染みて消えた。
鈴音は、別れる気は微塵もなかったんだ。
僕は、弱気になっていたみたいだ。
おしまい




