道場の夢
「私が後を継ぐ!」
「いや、我輩だ!」
都会の片隅にある道場に響きわたる声。鈴音はまたかと思った。
まわりの門下生たちもため息混じりに見守っている。
この道場主の父が引退してからというもの師範代の二人が言い争っているのだ。
そして、頭を悩ませているのがこれだ。
「私が後を継いで、鈴音殿を嫁にする!」
「なにを!それは、我輩の役目だ!」
馬鹿なのかと思う。私の意思も無視して。古い考え方だな。
二人の剣の才はもちろん申し分ない。
しかし、性格に問題があるのだ。
力の東郷鱒竜は、酒癖が悪い。
技の酒井剣次郎は、女癖が悪いので、大方道場より鈴音目当てかもしれない。
「止めないでいいのですか、鈴音さま」
門下生の一人がそう進言する。彼等では止められないか。
「鱒竜、剣次郎。止めなさい」
「鈴音殿。我輩こそが、道場を継ぐのに相応しいよな!?」
「いや、私ですよね?」
勢い込んで迫る二人を制して、私は首を振る。
「いえ。道場は私が継ぎます」
きっぱりと言い切ると二人は、ぽかんとした後、げらげらと笑い出した。
特に、鼻息の荒い鱒竜は下品だ。
「がはは、ご冗談を!あなたが私より強い訳ではあるまいに!」
「そうです、我々二人より劣るあなたには無理です」
「おい!鈴音殿に失礼だろう!」
門下生の一人が、勇敢にも諌めようとしたが、鱒竜の一振りで、壁に叩きつけられる。
「鱒竜……力だけでは駄目です」
門下生の傷の具合を確かめつつ、他の門下生に指示を出す。
自分の強さに溺れるものには、罰が必要なのか。
「……いいですよ。そんなに後を継ぎたくば、私を倒してからにしてください」
立ち上がり二人を見据える鈴音を、舐めた目つきで見てくる。
「なれば、我輩からいこう!」
鱒竜が、木刀を構えつつ勢いづく。
私は、門下生から木刀を受け取り具合を確かめるたび木刀を二三度振る。
審判を門下生に頼み、私も木刀を基本の中段に構える。
そして、鱒竜は、上段に構える。
「我輩の必殺で仕留める」
相変わらずの自信家。手の内を晒して馬鹿なのかと思う。
まあ、それだけの威力はあるのだけれど。
「始め!」
審判の声と同時に鱒竜の最上段からの打ち下ろし!
「大木断!」
それは、唸りを上げて私……は半身ずらして避けると鱒竜の一撃は、道場の床に叩きつけられ、床にヒビが入る。はい、弁償ね。
「はっ!」
私は、相手の小手に木刀を思い切り叩きつけ、鱒竜は木刀を落として手を押さえる。
「お、おのれ!今のは……」
「フッ、どいたどいた」
剣次郎が、言い訳をのべる鱒竜を追っ払う。
「………」
「馬鹿な奴よ。女だからと油断しおって。この剣次郎は違うぞ」
あなたもね。とは、口に出さない。もうすぐ大会がある。
こんな時間は早く終わらせたい。
「始め!」
静寂の後、審判の声が響く。そらは、素早い踏み込みからの突き!突き!突き!それを木刀で防ぐ音が響く。
「どうした?これで終いか!?なればこの私とけ………がっ!?」
確かに突きは速いのだが、他の太刀筋が遅い。
簡単に打ち崩し剣次郎の肩を打つと、木刀を落とす。
「ば、馬鹿な!私がこんな簡単に負けるとは……」
「女に負けて悔しい?」
「!!」
「!!」
「私は悔しいよ、鱒竜、剣次郎。女だって剣士なの。
それなのに油断して侮って。お父様からなにを教わったの?剣の腕だけ磨いても、心を疎かにしては駄目です」
「………」
「………」
私の言葉に、ぐうの音も出ない二人。
「そして、私はあなたより強い。なので、道場は私が継ぎます。
そして、御前試合で我が道場が優勝するのが私の夢!」
御前試合は、全国の道場で競い合う大会で、優勝すればどんな願いも思いのまま。
その日から、みんな一丸となって、練習に励んでくれた。




