相合い傘
梅雨の時期は、雨が世界を変えてしまう。
雨を好きか嫌いかは、人それぞれだが、天野晴明は、比較的好きだった。
傘に当たる雨の音や、いつもと見える景色が、変わってしまう感じが好きだったりする。
なにより嬉しいのは、晴明の斜め前を歩くクラスメイトの久遠雨月も、雨の世界を、楽しそうに眺めてるそとだ。
高校に入ってから、三年間ずっと一緒で、今日みたいに登下校のさいにも、一緒になることが多々あった。
その中で、好きになってしまったのだ。
晴明は、二年ちょいもの間、告白出来ずにいた。
雨月は人気者で、静かだが、にこにこしてるから人が集まる。
黒髪の似合う人だと、晴明は見るたび思う。
「晴明くん」
「ん?」
「今日一緒に帰らない?」
「え?いいけど…」
晴明は、ドキドキした。帰りが、偶然重なって、一緒に帰ることがあるけれど、誘われたのは初めてだから。
その日の授業中ずっと、雨月のことばかり考えていた。
いつ、食堂でご飯を食べたのかも分からない。
そして、放課後。ゲーセンにでもよろうぜと言う誘いを断り、晴明は教室を出る。待ち合わせは下駄箱だ。
廊下を歩きながら窓の外を見ると、不機嫌な空の下で、雨はしとしとと、降っている。
下駄箱に着くと、なんだか冷たい冷気がつきまとい、ブルッと震えてしまう。雨のせいだろう。
革靴を履き替え晴明は、雨月を探すと、昇降口のとこにいた。
雨の降る校庭を、どこかうきうきとして眺めてる。
「…待たせたかな?」
「ううん、大丈夫」
にこにこしなが、雨月は答える。その手に持つ傘は、Jkが持つにしては渋い赤色の番傘。
あれ?朝持っていたのは、ピンク色の傘だったような?
そう思う晴明だったが、それ口に出すことなく傘を広げる。
「行こう。話しは歩きながら聞くよ」
「あ、うん。あのね?」
雨月は、躊躇うようにもじもじしてる。首をかしげる晴明は、傘に当たる雨音を聞きながら尋ねた。
「どうしたの、帰らないの?」
「そっちの傘に、入れてもらえる?」
恥ずかしそうに、顔を真っ赤にして言う。
「え?自分の傘あるじゃん?」
戸惑う晴明。女の子と相合い傘なんて。ましてや好きな人となんて。心臓が破裂してしまう。
リア充ではないので、サッと傘を差し出すことは出来ない。
「えい!」
雨月は、しかし強引に傘に入って来ると、照れながらも微笑む。
「行こ?」
「…ああ」
雨月の肩が、濡れないように歩き出す。
「えへへ」
雨月は、晴明のことが気になっていたので、なんとか一歩前に進めたかったのだ。
でも、それとは別にこの傘の施しが、晴明には解けて見えてることに気づいたので、秘密を明かすことにしたのだ。
この傘は、唐笠お化け。今も挨拶したくてうずうずしてるのが、手のひら越しに伝わってくる。
この後、晴明は新しい世界をしることになる。
梅雨時に二人の距離は、縮まったのである。