医術
「僕には本があるから」
本好きの君は、そう言って微笑んだ。寂しさを隠すように。
「私がきっと治すから!」
旅立って10年。私は帰って来た。この潮の香りがするこの島に。
町に広がる原因不明の病気を治すため。治療術を、学んできた。
私だけが、時間が進んでいて切ないけれど、無駄ではない時間だった。
人々が石化して吹き抜ける風が冷たい。
島の時間は、あの時のまま、止まったままだ。
あなたのいつもの居場所の図書館に来てみた。
静かな館内は、ほんと静かで、本を読んだまま石化していた。私の足音だけが静かに響く。
そして、二回の眺めの良い場所に、あなたがいた。
子供たちに囲まれて、石化していた。もちろん、子供たちも時が止まったままで。
あなたが石化した姿を見た時は泣きそうになった。
きっと、読み聞かせをしていて、その途中で、石化したのだろう。気づけよ、本の虫。
本使いのあなたは、本の中身を立体化させることが出来るから、子供たちもわくわくして、あなたの朗読をよく聴いていたなと思い出す。
まるで、召喚術みたい
「どんだけ、本に夢中だよ」
私は、あなたらしいなと、苦笑いしながら、治療術を唱えると、あなたの石化が解けて、時が動き出す。
君は、瞳をぱちくりさせて私を見ると一言。
「おかえり」
「うん。ただいま」
途端に涙が流れて、あなたの胸に飛び込んだ。
あなたの温もりを、久々に感じる。
ごめんねみんな。
少しだけ二人きりにさせてね。
えんえん泣いて、子供みたいで、恥ずかしい。
一人一人治してあなたも、元に戻る。
流れた時は残酷で私の方が年上。
「君は、年上になっても、きれいだね」
「やかましい、いじるな」
君のお帰りが聞けて嬉しい。言葉を交わせるのが嬉しい。
今、二人の時間が動き出した。
波音と潮風の奏でる音が、優しさを含んだものに変わった。




