猫の恩返し?
「先日助けてもらった猫です」
浩平のアパートの前に一匹の猫がいた。
ぶち猫は、あんこと名乗り恩返しに来たと言う。
以前、車に轢かれそうになったのを助けたことがある。
「猫が喋ってる!?」
「そりゃ、猫だもの。しゃべりますよ」
さも、当たり前のように鼻を鳴らすと、すり寄って来た。
「…家では飼えないぞ?」
このアパートは、ペット禁止なのだ。
あんこは、がーんとショックを受けた様子だが、気を取り直して呟く。
「大家の心を入れかえてやる」
しかし、ドアを開けると、あんこは、さも当然のように家に上がり込み、部屋中臭いチェックした後。ようやく落ち着いたのか、畳の部屋で毛繕いをしている。
「……飼えないよ」
「にゃーん。恩返しに来ただけです」
そう言って、ごろごろするのを見て、まあいいかと浩平は、思う。
先日、彼女にフラれたばかりなので、癒しが欲しかったのだ。
しばらく一緒にごろごろして、鼻の頭を撫でてやると、心地良さそうにするので、微笑ましい。
夜になり、お腹が空いたので、夕食を作ることにした浩平は、自炊を始めると、あんこが足元にまとわりついて、催促しだす。
「ニャーン!にゃ!にゃおん!」
「お前、喋れるんだろ?」
「その方が、かわいいでしょ?」
まあ、そうなんだけどね。あんこは、恩返しに来たんだよねと、心の中で呟いた。
家事を手伝ったりとか、してくれたらいいのに。
焼いた魚の身をほぐして出してやると、大層喜んで食べた。
なんだか、僕も嬉しくなって、ほっこりした。
風呂で洗ってやると、大層嫌がり、ひたすら毛繕いしていた。
そろそろ寝ようかと、布団を敷いたら、あんこがやって来て、毛布をふみふみし出した。これが、あのふみふみか。かわいくて眺めていると、あんこが、サービスしますよ、みたいな顔をしてるので、浩平は苦笑した。
その後、布団の中で一緒に寝ると温もりを感じられて、寂しくなかった。
「…なあ」
「ふにゃ?」
「恩返しに来たんだよな?僕には、自由気ままにしてるように見えるんだが…」
「にゃに言ってるんですか。猫と過ごせることこそが、恩返しにゃ~」
「そうかい」
心地の良い背中を撫でてやると、気持ち良さそうにしている。
次の朝、帰り際に、あんこは浩平を見て言う。
「じゃ、帰るけど、これでいい?」
「……ああ。ありがとう。あんこは、これからどうするの?」
「あんこは、しがない野良猫。雨露凌げる場所を探しますよ」
寂しそうに言うあんこは、歩いてはチラッと振り返る。それを、五回くらい繰り返したとこで、浩平は、仕方ないかと苦笑する。
「家にいていいよ」
「え?いいの」
トトトと、小走りに戻って来る。食い付き早いな。
「大家に聞いてみるよ」
「でかした!もし駄目って言われたら、引っ掻いてやるにゃ」
「止めろって。あ、そうだ。一つだけ条件がある」
「え?肉球もみもみは、一日一回だぞ?」
「そうじゃないよ。一日一回は、風呂で洗うから」
「げっ!風呂かー」
浩平は、心底嫌そうな顔をするあんこを抱き上げると、部屋に入る。今日から、二人だね。




