馬車
私達はエルを先頭にして、何事もなく森を抜けた。
「エル隊長、ごくろうさまでした」
「うん!」
お疲れ様というとやりきったという表情で、エルは笑顔で答えた。
「では、ここからは私達が。あちらに馬車がありますので、どうぞ」
ゼイラルさんが言った『あちら』の方には、白と青で作られた高級馬車が止まっていた。
高級な馬車じゃないものは、塗装されていないただの荷車。雨も防げないただ乗って移動するもの。
でも、高級馬車は天井もあって、イスにはクッションもあってと凄い豪華なもの。
「おねぇちゃん。あれに乗るの?」
「そうだね……」
高級馬車を、正確には馬車を見つけて、明らかにテンションの下がる私とエル。
それに気づいたジャルとゼイラルさんが話しかけてくる。
「どうした?」
「気分でも?」
理由を話す前に、ひとつだけ私も聞きたいことがあった。
「あの。2人はどうやって私達の事を知ったんですか?」
「どうって……聞き込み?」
「レイヴンさんがあの辺りで有名でしたので。とあることがあって償いたいと言ったら教えていただきました。ミサキ・バルオンさんの家にいるというのも聞きましたし、お孫さんだというのも」
「あ……そうですか」
私は有名だったのか。まぁ、確かにお金を稼ぐために色んな所(何かの売店なら手当たり次第に)『雇ってください!』とは言ったけど……
「嬢ちゃん、口達者な妖精って呼ばれてたぜ」
「くちたっしゃ?」
「喋ることが得意な人のことです。レイヴンさんは幼いながらに頭がよく、喋るのがうまいですし」
「ありがとうございます、ゼイラルさん。分かりやすかったです」
ジャルの言葉はともかく、ゼイラルの言葉は嬉しかったし、知識になることだったから、お礼を言っておく。
「俺は?」
「・・・ようせいって言われてうれしかった。」
嬉しくはなかった。
「そうか」
ジャルも私が嬉しくはなかったのを分かってくれたようだった。
「で?それがどうかしたのか」
ジャルにそう聞かれ、短く、分かりやすく、話す。長く話していると思い出して悲しくなっちゃうから。涙は出ないけど。
「・・・。みじかくいいます。お父さんとお母さん、おじいちゃんがなくなったとき、馬車に乗ってたんです。さっしてください」
「「・・・」」
両親とおじいちゃんはお仕事の帰り、土が崩れて馬車ごと崖下に落ちた。
色んな場所を私達に見せたいという観光目的でもあったため、その馬車には私とエルも乗っていた。両親とおじいちゃんが守ってくれて、私とエルはほぼ無傷で奇跡に近い生還をした。
エルは覚えてるはずがないが、狭く暗い場所が苦手だ。トイレなどは扉を閉めずにいる。
だから、狭く暗そうな高級馬車には『乗りたくない』という気持ちがある。
おばあちゃんは病気で家に残っていた。
「なら、歩いてくか」
「少し距離がありますが大丈夫ですか?」
察してくれた2人が、歩いていこうと言ってくれた。
「大丈夫です。エル、馬車乗らないで行くって」
「ほんと?」
エルは不安そうに聞いてくる。
「ほんとう、ほんとう」
「じゃあ、行こ!」
「ちょっと待って!」
「ぎゃ!」
エルが手を引っ張っていこうとするので、踏ん張って移動させることをやめさせた。
「ゼイラルさん、どこのくつ屋さんに行くんですか?」
「我々がよく行く、靴屋です。……ジャル。――――」
私の質問に答えてくれたゼイラルさんは、小声で『ジャル。ミシュエル君の気を晴らしてあげなさい』って言ってた。
ありがとうございます、ゼイラルさん……ジャルも。
「へいへい、りょーかい。弟君、俺の早さに付いてこれるか?」
「はやさ?かけっこならまけないよ!」
「へぇ~?なら行くぜ!」
「あー!ずるい!」
エルが挑発にのって、走っていく2人を見送る。
「私達後から追いましょう」
「はい」
ゼイラルさんは馬車を引く人に乗らないという事を伝えると、目的の靴屋へとも少しだけ早く走る。
私はちらりと高級馬車を見た。
私も……私もあれには乗りたくない。
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