名義
時間に及ぶ食器との戦いを終えた私におじちゃんが声をかけてきた。お仕事終了だ!
「レイ、お疲れさん!ほれ、今日の分だ」
「ありがとうございます」
おじちゃんから2千デルもらう。前から思っていたが、ここは金額が多い。私としては嬉しいけど。
「坊主も」
「ありがとうございます……」
少し嬉しそうにロットも同じだけ貰っていた。食器を拭くだけでだった男の子のロットも、さすがに長時間やれば疲れも出るよね。
「明日もよろしくな!」
「はい!」
私達はお店の裏手にから表の通りに向かって歩きだした。
「毎日こんなことやってるの?」
ロットの質問がまた始まったけど、少し疲れてるから答えてあげなくもない。
「こんなことって……お店にとってはこんなことじゃない」
「ごめん……でも、大変じゃないの?」
「大変じゃないよ」
慣れないと大変だけど、慣れれば問題ないから。
「手だって――」
「オータの季節にはお湯でやるから」
ロットがいいかけたのは多分、『手だって荒れるのに』だと思ったから先に言った。合ってたみたいで小さく『そっか』って言ってる。
まぁ、荒れてもなおせばいいし。
「君はすごい頑張り屋なんだね」
「すごいからね。仕方ないよ」
「あははは、否定しないんだ」
「否定してもいいけど、事実だし」
子供だから集中力とかが切れちゃうから、お金が無くなったら働くのが一般的。だから私みたいに、仕事をこんなにやっている子はあんまりいないだろうね。
私はすごいと自分でも思ってる。多分、持続力がいいのかも。だから問われれば否定はしない。
でも、頑張ってやってる訳じゃない。ちゃんと楽しんでるけど、そこまでは言わなくてもいいよね。
「……どうしたらそんなに頑張れるの?」
言った方が良かったかも。まだ質問されちゃった。
でも、なんだか今までよりも悩ましげだし、理由を探さないと。理由、理由……
「家族のため?」
一応あっている嘘のない範囲で質問の答えを言ったが、疑問のニュアンスが入っちゃった。
「何で疑問しながらいうの」
「ロットがなんでって聞くから、答えたのに」
ここはロットのせいにしておく。いや、ロットのせいだ。
うん。誤魔化されて!ロット!
「ごめん、答えてくれてありがとう。そっか。家族のためなんだ」
「そうそう」
多分、誤魔化されてはくれなかったけど、空気は読んでくれたようだった。さすがは貴族と思わしきロット。回りに合わせるのがうまい。
「なら、これ。届けてくれる?」
「……バルオンさんに?」
ロットは再び私の前に届け物を見せた。そうだ。これを届けるって言ったんだった。
「そう。ミサキ・バルオンさんに」
ミサキ・バルオン。それはおばあちゃんの名前だった。でも。でも……
「・・・ミサキ・バルオンさんは、去年、亡くなっちゃったよ」
「え……でも、名義が……」
名義。それを聞いて私は驚いた。
名義と使われる単語で知っているのは、家の管理登録書という家を持っている人の名前が記されている紙だ。
管理登録者が亡くなっても、1年が経っていないと名義は変更できないから、今も管理登録者の名前はおばあちゃんのままだ。
でも、それを持っているのは私と国の偉い人だけだ。簡単に見せてと言って見れるのもでもない。つまり、それを見れる地位にロットの親はいて、それをロットも聞いていたってことになるのかもしれない。
「ロット。これは何の理由でバルオンさんに届けようとしてたの?」
「・・・」
喋らなくなるロットに、私は何としてでも聞き出したくなった。
「兵士さんのところでも行く?」
「それは!」
「ダメなら答えて」
「・・・」
兵士さんに付き出すことを理由に答えさせようとするも、また喋らなくなる。
「なら、もう届けなくていいんじゃない?お、ミサキ・バルオンさんは亡くなっちゃったんだし……」
おばあちゃんって言いそうになっちゃった。
「・・・1度、家に帰る」
「そう」
私の言葉を飲み、自宅へと帰るというロット。
「君も色々とごめん」
「そうだね」
「・・・はっきりと言うんだね」
「思ってた事だからね」
もう会うことはないと思うからはっきりと言っておく。いや、また会う人だったとしても、はっきりという人にはいう。
「そっか……そうだ――これ」
「1万デル?」
ポケットから出した財布から1万デルが差し出された。
「うん。報酬」
「届けてないけど?しかも、多いし」
「元々1万デルを渡す予定で、君に付き合ったんだ」
「・・・それも、そうだね」
貰えるものは素直に貰っておく。裏がなければ。これはただの報酬だ。裏なんてない。
「……それじゃあ、今日はありがとう」
「うん。それじゃ」
私はロットに別れを告げた――
「待って!」
「!!!」
後ろからロットの声がして手が掴まれる。その驚きで振り向くと陽射し避けの帽子がロットと私の足元に落ちた。
「あっ……ご、ごめん」
落ちた帽子をロットが屈んで拾ってくれた。
「うん。……ありがとう」
帽子を渡してきたロットが顔を赤らめている。大声で止めたのが恥ずかしくなったのだろうね。さっきまでロットの大声でこちらを見てる人いたし。
「その。名前は、教えてくれないのかな?」
「・・・そんなに呼びたいの?次会うことなんてないと思うのに」
「呼びたい」
「・・・。なら、次に会えたら教える」
「次に?」
『次に会えたら』。ロットの届け物次第では会えるし。
「そう。じゃ。私行くね」
「分かった。またね」
はぁ。もうロットのせいで今日は精神的に疲れた。
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