3「剱、すなわち楯」
(2021/01/01 表現を修正)
お気付きかとは思いますが投稿時間で遊んでます、楽しい。
どうぞ。
その光景は、腐る寸前の色をした恐竜たちが蹴散らされていく、とも見えただろう。ここでいう「竜」とは足があって歩行する爬虫類全般を指し、トカゲやワニ、さらには恐竜に似た生物までも含まれる。繁栄こそできていないものの、そこそこの生息域を獲得している恐竜型生物は立派な「竜」の一種だ。
四足歩行の爬虫類といえばトカゲも含まれてはいるが、あちらこちらへと進化して実に落ち着きがない。例えば木に登るものでも、そこから滑空するもの、樹上で生活するもの、木の上を寝床にするものなど種類はさまざまである。中でも尻尾が変形している種族は「平たい」「幅広」「太い」「栄養を貯めている」「羽が生えている」「トゲだらけの武器である」など非常に数が多く、剱蜥蜴もその一種だった。鱗が整然と並び、完全に一列になって連なることで刀の形を成しているという、体を武器化する進化でもかなり露骨な方面のものだと言えるだろう。
等級「黄」で鉄の武器と打ち合う程度の硬度を持つ尾剣は、技術次第でその切れ味をぐんと増し、等級が上がることで更なる力を得る。
ずん、と首を切断した勢いで片腕を吹き飛ばされた大型の喰竜骸が、傷口からエネルギーを吹き出して骨に変わる。充填されたエネルギーは血液と同じように流れており、それを浄化されたり失ったりすることがアンデッドの弱点になる。充填方式でないアンデッドは作ることが難しく貴重であるため、この場には出されていない。結果的に、それこそがアンデッド軍団の敗因となっていた。
数で人間を蹂躙するようにできている彼らは、簡素な方法でたくさん作られている。きっちりと戦わせるのであれば人型のものへ鎧を着せ、術者ひとりあたり数体を操らせるべきなのだが、見た目のもたらす恐怖も期待してモンスターたちは不完全な加工を施されていた。結果として、エネルギーが簡単に抜けるため非常にやられやすいという致命的な弱点を持つ、量産型というにふさわしい雑魚に変わり果てている。そうでなければ千切って投げて倒せるものではない。
中型の肉食恐竜らしい大きさの喰竜骸の足を執拗に切りつけ、体勢が崩れたところでさっと首を切断して倒す手法はあまりにも手際が良すぎる――が、トカゲはある程度まで戦いの基本を知っていた。でなければ尾剣の鋭変を学習してなどいなかったことだろう。
――そして、十数分が経過したにも関わらず、トカゲは一切の傷を負っていない。森の地面は灰で埋め尽くされ、その中心にいるということは、包囲されて攻撃を受けているということである。しかし彼は無傷だった。尾の可動範囲には限界があり、ある一定の角度以上になると速度が鈍るようにもなっている。体重を支えるためにある足は攻撃には使えず、そもそもそれほど丈夫でもない。少しは傷を負っていてもいいはずだが、なぜか傷はひとつもない。
後方から突撃した走竜骸は二体まとめて袈裟懸けに胸を叩き切られて重傷を負い、側面から攻撃を仕掛けた甲竜骸は足の関節と首を器用に傷付けられて倒れ込む。そして同時に前から喰竜骸が迫り、噛みつこうとしたが――喰竜骸は顔をざくりと三回も切られ、眼球を弾けさせてどうと転倒した。瞬間、方向転換したトカゲはその首を落とす。
ようやくすべてが終わったか、と尻尾を下げたトカゲは、ひどく灰を浴びた。巨大な咆哮が浴びせかけられ、風圧と音圧がびりびりと轟く。いくらか残った肉と魔法器官が声を発する、骨のワイバーン「屍骨飛竜」であった。
「シャアアアッ!!」
全身の鱗を立て、尾を最大切断形態に整えつつトカゲは叫ぶ。愚鈍ながら、仲間を守ろうという本能だけはそれなりに強い生物であり、アンデッドでもなければこの暗黙の了解は飛竜を撤退させもしただろう。しかし、生物のルールから逸脱した白骨は流れるエネルギーのままに同じ死を振りまく。弱った生物と大して強くない生物、死へ導くに不足はなく、ためらう理由もない。
そこで、トカゲの尾がかちんと剣で叩かれた。
「……ずいぶん手間をかけさせてしまった。すまなかったな、トカゲよ」
ドルト・グリースは、少なくともトカゲが倒したアンデッド程度のモンスターに負けるような男ではない。彼の部下たちも、トカゲが為した程度のことならば百回繰り返して見せるだろう。
『おやおや、お目覚めですか』
「魔将軍ゾンバァロ……追っ手をいくら差し向けようと無駄だ」
『ほう? では見せてもらいましょうか、生きた人間の底力とやらを』
「存分に。トカゲ、頼むぞ!」
屍骨飛竜は術師が操るアンデッドである。念のために述べておくと「骸」は自動式アンデッド、「屍」は操縦式アンデッドの名前とされている。
「繰人を見つければあるいは……」
『そんな素直な攻略法が効くとでも?』
操縦している「繰人」を見つけることができれば、アンデッドよりはるかに弱いだろうかれを倒すことによって機能を停止できる。しかし、ゾンバァロほどのアンデッド使いがその対策をしていないはずもなかった。
『なるほど、人間の底力というのは卑怯な手段のことでしたか。それならば問題なく納得できますねぇ……? 手負いの人間が飛竜に勝てるというよりは、はるかに』
「信用していないようだな、ゾンバァロ……私とて青等級程度の強さはあるのだッ」
ドルトは剣を抜き放った。
飛竜が骨になった翼腕を振るい、木が一撃で切断される。しかし、ドルトはそれをただ剣だけで止めてみせた。
「攻撃が軽すぎる。もとになったワイバーンなら、もっと重い」
肉も甲殻もない「スケルトン」タイプのアンデッドは非常に強力である。死臭によって感知されることがなく、恐ろしく早く動き、肉が削れることによって戦力がダウンしたりもしない。素体となったものが竜クラスの生物であれば、骨であってもすさまじい強度を誇り、アンデッドとしては最高峰の性能を持っている。
だが、欠陥がまったくないでもない。
その骨をすら損傷できる力、硬度、そういったものにぶつかってしまったスケルトンは簡単に砕け、修復は非常に困難なものになる。そして、肉や甲殻、鱗が持っている力があった場合はそれがまるごと欠損することになり、ほとんどない事例ではあるが、弱体化する可能性もある。
『筋肉馬鹿に良い相手だったようですねぇ。タルクがいつかあなたに最高峰の傑作を送り込んでくれることを祈っています』
屍骨飛竜の尻尾は、トカゲが受け止める。そちらはドルトの力には余る巨大な衝撃であり、もとが武器ということもあって、半病人には厳しい攻撃だった。炎を吐くこともできず、重量や攻撃の勢いも下がっているため、素体と戦ったことのあるものからすれば少しは弱くなっているのかもしれない。
「トカゲ、大丈夫か?」
振り下ろす尻尾を受け止める尻尾は、見た目には傷付いていなかった。しかし、回数を重ねるごとに反応速度は落ち、衝撃音の質も変わっていく。
「無理をするな!」
骨の尻尾が、トカゲの背中にもろにぶつかる。
「トカゲっ、無事か!?」
ドルトはそこに、平らに潰れた血まみれの死骸を幻視する。しかし、ゾンバァロはひどく楽しげな声を漏らした。
『……仕留め損ねましたか』
「なに?」
屍骨飛竜の尾が、先端からガラガラと崩れていく。
そしてそこには、無傷の剱蜥蜴がいた。
「骸」=使い捨てクソ雑魚ゾンビ
揮発性の高い液体みたいな「死力」を充填して作る。死体に「死力」を詰めたらすぐ出来上がりなので、素人にでも量産できるお手軽アンデッド。血管内を流れる死力はとても揮発しやすい状態なので、血が少しでも流れる状態になると死力が空気に触れ、瞬く間に揮発して死体に戻る。細胞を無理に活かした反動で死体は灰のような燃えカスに変わってしまい、二度と使えなくなる。
屍=操作型ハイレベルゾンビ
固形化加工した死力のコアをくっつけてコントローラーを用意、動くためのエネルギーを外部から補充することで簡単には倒せないように調整されたアンデッド。プラス(外部からもらう分)とマイナス(コアから供給される分)のエネルギーが触れ合わないように作る必要があり、作成は難しい。自動型にすることは不可能なので、操作するものが必要であることも欠点のひとつ。
今回出てきたアンデッドはこんな感じです。恐竜のゾンビとか強そうだけど、特別に防御力が高くない上に出血=(ガス状の)エネルギー漏れなのですぐ使えなくなる雑魚。人間に対しては威圧感とか大群の見た目で「なにあれ怖っ、多すぎィ!」みたいな効果も期待できますが、モンスター相手だと「こいつ弱くね?→あれ、一瞬で死んだじゃん。しかも食えないしなにこれ、イミフやんけ」ってなるだけ。




