1「剱蜥蜴」
(2019/12/28 でかいミスに気付き修正)
トカゲくん、クソトカゲ(SCP-682)みたいになったらどうしようかと思ったけど、そういう生き物じゃないので安心です。
どうぞ。
ひどく暗い洞穴には、命だったのだろうものが無数に落ちていた。獣のものらしいやや小さめの大腿骨、昆虫の触角が朽ちかけたもの、宝石の欠片や何かの道具が破損したらしいものも一様に転がっている。雑多ではあるが、それらすべてに共通した特徴があった。
巨大、かつ奇妙に新しい。
昆虫の触角らしいものは、種類からして大きいものであると推測されはするが、それにしても通常の昆虫が持つ巨きさではない。カミキリムシのものであろうそれは体長の1.5倍に匹敵すると思われるが、落ちているそれから測るに、体長2.6ルーケにもなろうか。そして、1.3ルーケほどもある大腿骨にくっついた膜は薄赤く乾いている。食われて三日も経っていないような、しかしながらしゃぶり尽くされた肉だ。
肉の付いたあばら骨をコリコリと食う生物は、なるほど、確かに大きい。
体長にして2ルーケはある、光沢のある鱗を持ったトカゲが、闇にまぎれて食い残された肉や臓物をちぎり、食べている。人間の尺度からすれば驚くべき光景ではあるが、彼らモンスターからすれば大したものではない。むしろそれは矮小な生き物であって、背後から彼を殺そうとしている者が見れば、いかにも「狩りやすい獲物」だったことだろう。確かに彼は最下級モンスター、狩りやすい獲物には違いない。
――ここにいない、同種のそれであれば。
黒いものがどろりと触手を伸ばし、握り拳を作るように先端を巨大化させると、トカゲに向かって振り下ろした。トカゲは剣になった尾をすっと持ち上げて、拳に向かってさっと振り上げる。石と石が激突したかのような重く硬い音が響き、黒いものは一瞬の思考を経て攻撃方法を切り替えた。
このモンスター「闇球」は、相手の能力を吸収する力を持っている。その力は使えば使うほどに強化され、そのうえ双命核によってさらなる進化を遂げていた。そんな闇球の持つ力はすでに三十を超え、使いこなすに時間がかかるほどになっている。そんな力の中から巨大な蜂が持っていた力である「針弾」を使い、闇球はトカゲを撃った。実は先ほども同じ種類の生物を同じ方法で仕留めたこともあり、彼は慢心していた。
非常に軽い音が、高く、長く響く。
そして、トカゲの振るった尾が闇球を両断する。
弾かれたかと気付いたときは、かれは地面に崩れ落ちていた。
かれの思考は追いつかない。昨日仕留めた個体はこちらに攻撃を当てたが、その刃はこちらの装甲を徹らなかった。角度や速度にしても同じようなもので、明確な違いがあるとは思われない。
切れ味の違いか、と結論付けたかれは、トカゲの尾が少し小さくなるのを見た。
なるほどそういうことか――という理解を思考にする時間は、なかった。
攻撃性の強いモンスターを百から千ほど集め、殺し合わせるのが「蠱毒」の呪法である。簡単に「最強のモンスターを選ぶ」という目的のために行われ、もともとの住処とは違う環境に置かれることもあってモンスターたちは非常に気が立っている。出会えばすぐに牽制し合い、互いの隙を狙って殺し合うことになる――
が、気性がやや落ち着いているうえ洞窟という環境にもそれなりに適応している生物がいれば、出ようと暴れ回ることもなく生活を続けてしまう。エサがその辺りに転がっていたり、出会った敵が強くなかったり、死骸の陰に隠れて眠れるようなら、平穏無事な生活そのものである。
ここにいる「剱蜥蜴」はそのうちの一体だった。
雑食だが肉を好み、日のうちにたどり着いた場所で眠る、という雑な生活をしているかれらはどこにでもおり、エサがあれば数日同じ場所にいても大して気にしない。ずいぶん長いあいだ進化から取り残された種族ではあるが、個体数も安定しており、生態系のなかで大きく位置が変わることもないというごく普通の種族だ。
特徴は食べた生物の甲殻や骨に含まれる材質を吸収して装甲を異常強化すること、そしてなにより尻尾の先端が体長の三分の一にもなる刀になっていることである。先ほど2ルーケと表現された体だが、尻尾を除いた体だけを見ると1.4ルーケであり、モンスターの中では小型に属する部類だった。
首を少し動かしてにおいを嗅ぎ、かれは黒真珠のような色をした闇球の体内に「肉」のにおいを感じ取る。食事が始まってすぐに力を使ったこともあって、腹はまだまだ空いていた。先ほども使った力を使って、彼は闇球の肉を露出させる。
暗黒エネルギーの塊である闇球に肉などあるはずはないのだが、トカゲにはそんな知識はなかった。ただちぎり喰らい、飲み込む。途中で彼はすこしの違和を感じたが、さほど大きなものでもない。それは少し尖った鱗が混じっていた程度のもので、口の中を怪我したわけでもなく、一瞬の感覚が通りすぎる。においの限りでは肉がなくなったらしいと知り、トカゲは先ほど食っていた猪の方に向き直った。
◇
実験体9792号
種族:剱蜥蜴
等級:黄~(黄緑?)
双命核:一個
実験室34号にて発見。捕獲時もさほど暴れず、攻撃性が低かったために蠱毒の環境でも通常どおりに過ごし、敵に出会うと倒すか逃げる二択で最後まで生き残ったようです。尾の先にある刀の切断力を強化する力に目覚めていますが、双命核の影響かどうかは未確認であり、さらなる力に開眼する可能性もあります。見た目の変化はありません。
五十ほどのモンスターを殺した後のダーク・ストレージに勝利しているため、少なくとも等級はいくらか上昇しているものとみられます。
処置:経過観察続行・放置
注意:
ほかの実験体よりは弱いため、遭遇して殺されることがないよう誘導を願います。とくに例の二体とは絶対に引き合わせないでください。
(報告者 ストルフィ・クロット)
今回のインスピレーション:「リザードアンデッド」
「仮面ライダーブレイド」に登場する♠2「スラッシュ・リザード」のカードイラストがトカゲくんのモデル。尻尾が剣のトカゲとかすげえカッコいいじゃん……! 【冥王】の相棒である刃竜王さまはいったいどういう生まれだったのかちょっと気になるこのごろ。
安定の特撮モチーフ。小学生のころずっと見てたし今も見てるし、夢中だからしょうがないですね。金属質の竜にはずっとあこがれを抱いていたんですが、画像検索しても見つからないし、マイナーなのかなと思ってあきらめていました。まあ、作って広めればいいんですよね、きっと。