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6 新たな生活とトラブルに王子様

ここから新章に突入です




 最初の金欠は、何とか乗り越えた。


 コボルト討伐依頼の報酬は大したこと無かったのだが


 倒した魔法使いに賞金がかかっていたのだ。



 なんでも昔はまっとうな研究者で、モンスターの使役の研究をしていたのだが、研究途中でモンスターの制御に失敗、街中でモンスターが暴れ出す騒ぎとなり、一般市民に十人近くの被害者を出した。

 街中で隠れてそんな研究をやってることがまず論外であるし、しかも失敗して犠牲者を出した後は、損害賠償も踏み倒して逃げ出した。その際、街中で魔法を乱射して、さらに大きな被害を出して……賞金首となっていた。


 死体は持ってこれなかったが、冒険者カードには生死を判別する機能もあるし、真偽を判定する高度な魔法式ウソ発見器もあるので無事に討伐は証明されて、まとまった金額が入ってきた。


 まとまった金が入ったらしばらくダラダラするのが重蔵の習性だったのだが


 今は明がいる。



 明が尻を叩いて、次から次に依頼を受けさせて、堅実に稼いでいく……



 元々、重蔵は結構、名が売れている。


 凄腕の重戦士として有名な彼の傍に常にいて、明るく笑顔で叱咤する明もすぐに有名になっていった。


 重蔵と並んだ姿は、正に美女と野獣なのだが、どう見ても明は嫌々従っているようには見えない。むしろ重蔵の世話を焼くのを喜んでやっているし、いつも楽しそうで、ただでも美貌の彼女が、本当の笑顔を見せるのは重蔵に対してのみ……


 重蔵がバカみてーな金額で高級奴隷を買ったのも一時期話題になってたし。


 それが彼女だってのもすぐに分かったが。


 しかし奴隷は奴隷でも彼女くらいの高級奴隷となると、もはや憧れの領域である。


 一般市民から見ても高根の花であって。



 しかも彼女は凄腕の炎の魔法使い……



 むしろ重蔵の先見の明が讃えられる。



 そうして半年ほど、依頼をこなすうちに。


「炎の申し子」アイーダと


「鉄壁」のロックという


 二人組の冒険者は、町一番の有名人となっていた。



 忘れてる人が多いだろうが、重蔵はフルネームが黒木重蔵。クロキと呼んでくれと最初は言っていたのだが、この世界の人々には発音しにくかったらしい、いつの間にかロックと呼ばれるようになり、面倒なのでそれをそのまま通称としたのだ。

 どうして言葉は通じるくせに固有名詞だけはうまく伝わらないのか、異世界の理不尽さを感じた重蔵であった。


 明も事情は同様。アキラと名前で呼ばれるのは重蔵以外は嫌だったので、名字の方で藍田、アイダと呼んでほしいと言ったら、こっちはクロキよりマシだったか、少し変えてアイーダが通称になった。


 半年で既にCクラス、すぐにBになると言われている赤毛のアイーダは街一番の美女でもあり、彼女に邪な思いを持つ男は掃いて捨てるほどいたのだが……


 しかし鉄壁のロックはその方面でも鉄壁。近づける男はいない。



 接近戦だとロック、遠距離はアイーダの魔法。


 この二人の組み合わせは、もはや最強なのではないかと噂されていた。



 そうして順調に貯金を殖やしていく日々がずっと続けば


 そのうちどこかに一軒家を買って


 二人で落ち着いて暮らす、冒険終了ってことになったのだろうが……



 異世界特典で得た二人の力はそれぞれ異常なレベルに達しており


 強すぎる力は二人に、平穏な暮らしを許さなかった


 与えられた力は確かに祝福でもあったが、同時に呪いでもあったのだ。






 二人で稼いだ金は二人で等分にすることにしている。


 こうするまでも紆余曲折があった……



 なにせ明は自分の取り分など認めない。全部、ご主人様のものであると主張する。


 必要になったら言うからその時だけお金を頂ければ良い、と。



 だが重蔵としては例えば女性もの下着を買いに行くとか……あるいは生理用品が欲しいとか……そういうことは一々言わないでほしい。教えないでほしい。

 自由になる金を渡すから、自由に買いに行ってくれと言いたい!


 その路線で押して、まずはある程度、自由になる小遣いを受け取らせて、そこから少しずつ金額を増やしていって……


 実は稼いだ金の半額を全部、受け取らせることには未だに成功していない。


 だったら私を買ったお金……それは私からご主人様への借金だから……その返済にあててください、と言い出す。


 今は、街で受けられる普通のクエストを適当にこなしてる程度だ。


 普通に暮らしてる分には問題ない、貯金も出来るくらいだが


 明を買った金には到底、追いつかない。


 大体、重蔵としては今さら返済など求めるつもりは無い。



 今さら、仮に全額返済できたとしても、明が離れていくとは思わないが……


 だから別に良いんだよ、と言っても……



 明としてはそんな大金を払ってもらったのが心苦しい。


 お願いしますから受け取ってください、と泣き出す。


 明が泣いたら重蔵は、降参して言うことを聞くしかなくなる。



 仕方ないので帳簿を作って……そこに少しずつ返済額を記していくことにした。


 実際には帳簿上だけのことで、明の取り分は別に保管して貯金してある。


 でも明としてはそうして少しずつ、重蔵へかけてしまった負担が減っていくのが、とても嬉しいらしい。明が嬉しいなら仕方ない、重蔵は諦めた。




 そうして半年ばかりは順調に過ごせたのだが


 トラブルが向こうからやってきた



 明が魔法を使えることは重蔵と一緒になって初めて分かったわけだが


 魔法が使えるとなると奴隷の金額はさらに跳ね上がる。


 もっと高く売れたはずだと欲を出した商人がいちゃもんをつけてきたりした。



 喧嘩を売ってきた奴隷商の手先のチンピラは全員、重蔵が叩きのめして


 その後、出るところに出て書類を確認すれば


 正当な取引によるものだから、奴隷商の方が間違ってることが明確に



 そこまではマシだったが……



 出るとこってのはつまりこの都市における裁判所だが


 こういう中世風の世界だと、裁判長とは即ち、領主ということになる



 正式な場所に出るのでそれなりに着飾った明に領主が一目惚れした



 とりあえず正当な取引に後から文句言った奴隷商は叩きのめして


 罰金を毟り取って、さらに都市での通商権を奪って追放してやったが……



 そこまでやってやったんだから、その娘を譲れ


 いや、タダとは言わない、お前が買った額の倍、出してやろうと


 言われた重蔵は、もちろん、すぐに断る



 しつこく言い寄る、マントヒヒに似た領主


 不安そうな顔で重蔵に抱き着く、涙目の明


 ブチ切れ寸前、もうこの際、後先考えずこのオヤジ叩き殺してやろうか……!



 重蔵がマジ切れ寸前だってのは傍目から見てすぐに分かった


 さらに裁判終了後、それなりの観客が周囲にいた


 今すぐこの場で奪い取るのは無理か……領主は一旦、引くことにする




 一旦、今の宿に帰り


 よし、逃げるぞと重蔵は言う、明も同意。


 むかつく、かつてないほどむかつく、人生最大にむかついたが……



 それでも領主を殺すわけには行かない


 領主の支配権は、この国の王権により保証されており


 領主を殺すってのは言い訳の余地のない反逆……



 いくらなんでも王国丸ごと敵に回せるわけがない


 指名手配で賞金首にでもされたら終わりだ


 争うことが出来ないなら……逃げるしかない……





 荷物を速攻でまとめて、裏の厩に行き、ロバのドンちゃんを引き出して


 さあ逃げるかって、その時に




 白馬の王子様が出現した



「やあロック! 久しぶりだね。元気そうで何よりだ!」



 唐突に現実感の無い光景に、明は、夢でも見てるのかと思った。




§   §   §




 彼の名はリヒャルド、イリアス王国の第五王子である。


 王子でも妾腹の五番目とか、いてもいなくても同じさ!


 と笑って言っていたのは本人である。



 名前は単にリヒャルドでは無くてその後にズラズラと長く続くそうだが。


 僕自身、長すぎて覚えてないよ!


 と笑っていたのは本気か冗談か。



 父親は間違いなく国王だが、母親は市井の歌姫だった。


 美貌と美声で王都一の名声を謳われ……そして王の目に留まり、側妾となる。


 リヒャルドを産んだ後、体調を崩し、五年後に病没。



 平民腹の、余分王子としてリヒャルドは蔑まれて育った。



 生まれた時から、いらない子扱い。


 成長しても王子らしい教育も仕事も与えられなかった。


 まあ実際問題、王子でも、五番目で、まだ幼いとくれば


 まわってくる仕事とかも無いのだが……


 他の王子の母親はみな、貴族令嬢なので、実家のバックでは全く勝負にならない。


 リヒャルドは幼い頃から貴族にいじめられて育った。



 自由を求めてリヒャルドは、ある程度成長したら城を飛び出す。


 身分を隠して一介の冒険者として活動するという無茶を行う。


 城の方では実はその辺の彼の活動、把握していたらしいのだが……


 しかし放置していた。死んでくれたら、それはそれでよいということだったのだろう



 だがリヒャルドは切った張ったの冒険者の世界で頭角を現す


 生来の風魔法への高度な適性


 文字通り風のような素早い身のこなしに、鋭い剣技が合わさって


 十四歳で城を飛び出し、わずか数年でBランク冒険者に成りあがる


「狂剣」のリヒャルドと言えば一時は王都で最も有名な冒険者だった



 その腕前だけでなく、母親譲りの金髪碧眼の端正な容貌もあり


 女性人気なら間違いなくナンバーワンだったろう



 さらにその名声を確立したのは、迷宮都市への挑戦


 各地から結集した選抜メンバーが、迷宮の新フロアの開拓に成功


 近年稀に見る功績を上げ、その中の主要メンバーの一人がリヒャルドである……




 勿論、重蔵も参加した、あの迷宮探索である。


 受け止めるタイプの重戦士、重蔵と


 回避と速度タイプの剣士、リヒャルドは


 常に前衛で並び立つ、相棒でもあった




「いやさー、下手に功績なんて上げるもんじゃないね! ロックは相変わらずブラブラと楽しくやってるんだろうけど、僕の方はさ! 今さら王宮に戻ってきて仕事しろって言うんだよ、兄上が! 兄上って言っても二十歳も年上だろ、逆らえるわけないって! でもこれまでずっと放置してたくせに、ちょっと名声を得たら帰ってこいって、勝手すぎると思わないかいロック! 思うだろ!」


 立て板に水とペラペラと喋り出す。


 苦労してる割に軽薄な性格をしてるリヒャルドは、お喋りしだすと止まらない。


「すまん、リヒャルド、今、少し急いで……」


 なんとか重蔵が隙間を縫って事情を説明しようとするも



「しっかしうらやましいなあ、ロックは! そんな可愛い子、いつの間にか手にいれちゃってさ! 僕の方は女気なんか無しさ! 今さら貴族の令嬢をあてがってやるとか言って兄上が押し付けてこようとするんだけど冗談じゃないよね! 僕は将来結婚するとしても貴族令嬢だけは嫌だ! 死んでも断る! 母上みたいな美人の町娘を見つけるんだ! その点でもロックは羨ましい! なんでそんな可愛い子が君みたいな野獣を! ねえ、お嬢さん、男はたくましい方が良いっていっても限度があるでしょ? そんな逞し過ぎて、人間なんだかモンスターなんだか怪しい男より、僕なんてどうだい?」


 明も圧倒されていたが、今のリヒャルドのセリフには腹が立った。


 はっきりと言ってやる。


「ご主人様以外の男は、全部、案山子か南瓜みたいなものです!」


 えっ?と少し意外そうな顔になるリヒャルド。


「僕も? 案山子? 南瓜?」


 それに対して鼻で笑う明。


「ええ! きれいに磨かれて光っていても所詮は南瓜。藁の具合が揃っていて小ぎれいに整っていても所詮は案山子。ご主人様とは比較になりません!」


 ドヤ顔で威張る明。


 それを見て一瞬黙った後、大笑いするリヒャルド。


「ははは! いいね、いや、いいね君! ますますロックが羨ましい!」


 楽しそうに笑った後……またすぐ落ち込んだ表情に切り替わるリヒャルド。


「はあ……いやほんと、いいなあ……うん、そうだね、ツラとか関係無いよね。今さら掌を返して、貴方程の麗しい王子はおられませんとか言われたってさ、嬉しくも何とも無いよ……むしろ平気でそんなこといえる貴族の令嬢とか気持ち悪い……はあ……いいなあ……僕も愛がほしい……」


「あのさ、すまんがリヒャルド、ちょっと急いでるんだ、事情があってな。旧交を温めたい気持ちはあるが……」


「ああ、それ? それ大丈夫だから、もういいよ。」


「は?」


「事情はもう分かってるし、すぐに手を打つし、ここの領主とか、何も出来ないし。だから大丈夫。」


「はああああ?!」


「ああ、旧友の助けになれるって点だけは、王子の身分も捨てたもんじゃないか。」


 リヒャルドは快活な笑い声をあげた。






やっと二人のいる国名が出せました。イリアス王国です


題名にしてる時点で今さらではありますが


リヒャルドは主要キャラの一人となる予定です。

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