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3 依頼と騎行と二人の距離




 適当なクエストを探しに冒険者ギルドに行くことに決めた俺であるが



 まずはその前に……


 とりあえず朝市の屋台で適当に食えるものを買う


 屋台のおばちゃんから、奴隷とは言え、そんな若い女の子に!


 そんな下着だけ着せて街中を連れ歩くとかお前は変態か! と怒られた。




 冒険者ギルドに向かう前に、まず庶民向けの服飾店に


 下着等、まとめて複数購入


 当面は安物で我慢してもらうしかない


 安物の庶民向けの服を着ても彼女の美貌は秀で、冴えている


 目立ちすぎる


 全身を覆って、隠せるようなフード付きローブを購入


 とりあえず着てもらう



 店員さんが言うには、普通、こんなお嬢様は、自分の家に出入りの服屋を呼びつけて


 オーダーメイドしか買わないものだ、うちの店では完全に服が負けている


 ちゃんとこの子に合うような服を、相応しい店で買えよ、とのこと



 だよね、俺もそう思う


 この子に相応しい服が必要……



 だが金が無い


 自分の甲斐性の無さに泣ける




 バタバタと色んな買い物を済ませたら時間は昼近くになっていた。


 今からだと少し遅いが冒険者ギルドに行って


 まだ残ってる依頼の中から手頃なものを見つけて……




 ギルドは朝の受付ラッシュが終わって、閑散としていた。


 それでも多少は人目がある。


 重蔵はBクラス冒険者。


 常連であるから彼が来たのだと分かればすぐに注目の目は離れる。


 彼の背中に隠れるようにフード付きローブで全身を覆った小柄な人影がいたが。


 重蔵が連れてるってことで、まあ知り合いかなんかだろと。


 こちらもあまり注目されなかった。




 まず依頼票が貼ってある壁に確認に行き手頃な依頼を探す。


 街中で済むような比較的安全なクエストはこの時間にはもう売り切れている。


 残ってるのは危険な討伐クエストばかり。


 その中でも手間がかかる割に安いようなものばかりだ。



 近郊の村でのコボルト討伐……


 ゴブリンより弱い、犬頭の小柄なモンスターだ


 俗にゴブリンは一匹見かけたら三十匹などと言われるが


 コボルトも同レベルに数が多い



 そしてコボルトがゴブリンより嫌なのは、逃げ足が速いこと


 またゴブリンは洞窟などに拠点を作ることが多いのに対して


 コボルトは拠点を作らずずっと移動を続けて暮らしているらしい



 つまり捕まえるのが大変なのだ


 倒すだけなら普通の成人男性でも倒せるのだが


 コボルトは基本戦わない、人を見たら逃げ出す


 しかし夜中とかにこっそり人家の周囲を漁って色んなものを盗んでいく


 家畜の子供とか、作物の一部とか


 非常に嫌な害獣である




 重蔵のような防御型ファイターには相性が悪い


 できれば弓を使う専業のハンターなどが欲しい内容の依頼だ



 しかしここで彼の経験の偏りが出た。



 彼は異世界に落ちて来た当初、無我夢中でゴブリンを素手で殴り殺して以来


 ゴブリンより弱い魔物ってのを相手にしたことが無かった


 ゴブリン相手なら素手でも勝てるわけで


 それ以上を狙うってのを一つの基準としていたのだ



 コボルトは、間違いなく、ゴブリンより小さく弱い


 ならば彼女を連れて行っても安全を確保できると思う


 さらにコボルト退治の割に報酬は悪くない……




 普段の重蔵なら、楽そうに見えるのに依頼が残ってることを疑っただろう


 しかし今の重蔵は平常では無かった



 金が無い


 まずこれが一番大きいし



 それに彼女にカッコつけたかった


 弱めのモンスターを圧倒的な力で倒すのを見せて


 ほら俺って頼もしいだろうと思われたかった



 無理に、やれないなら、こう、自発的に、好きになってほしいと


 そういう欲を持ってしまった



 商売でやってる女性とやっても満たされるのは浅い部分だけだし


 美少女が手に入ったといっても嫌がってるのを無理にってのは何か違う


 買ってしまった。そして手放す気は無い。これからずっと一緒だ。



 だったら良好な関係を築く必要があり


 つまり仲良くなりたい


 欲を言うならできればラブラブになりたい!



 嫌がってるのを無理にとか論外だし


 義務で相手されるのも嫌だ


 彼女が本心からこちらに親しんでくれて


 ラブラブでイチャイチャしたい!




 体だけじゃ無くて心が欲しい




 ある意味、最高に贅沢な話であるが




 でも本音を言うなら、本当に欲しいのは、そういう状態なんだ



 元は、ただ専用美少女を手に入れて思うままにしたかっただけのはずなのに


 既に心境が変化しつつあったことに重蔵はこの時点では気付かなかった。

 


 結局、彼はコボルト討伐の依頼を受けることに決めた。





 冒険者の最高ランクはAランクである。


 そして今の重蔵のランクはBである。


 ここまで来たら結構すごい。



 若い頃、他に出来ることがなくて冒険者になるのは大体ロクデナシであって。



 そうして冒険者になった人間の半分は十年以内に引退する。



 引退時のランクは良くてCといった程度



 Eランクは見習い、採算取れない


 Dランクはギリギリ、喰うや食わずの貧乏生活


 Cで、やっと人並。普通に暮らせるくらい



 ここまでは、はっきりいって、一般人以下である



 しかしBからいきなり話が変わる


 Bクラスと認められる実績があれば、一般から考えても高給取りになる



 金銭的な収入はそれでも不安定だが


 大きいのはギルドからの各種サービスが受けやすくなること。



 宿泊補助、住宅補助、武器防具預かりサービス、優先依頼など色々あるが。



 馬のレンタルサービスってのもある。


 とはいっても別にタダで貸してくれるわけではない、結構とられるし。


 指定された宿駅間でしか利用できない。


 乗り捨てて紛失したら損害賠償も取られる。



 頑丈なだけではなく、タフな重蔵は基本的に利用したことが無かったサービスだ。


 乗馬は必須技能なので、普通に乗れる程度は出来るが。



 しかし今回のコボルト討伐クエストは場所が、隣町の近郊の村で


 一回、隣町まで行ってから村に移動する方が早い。


 隣町までなら馬レンタルが使える。



 それでも一人だったら普通に歩くのだが。


 さてこの女の子が自分と同じように長距離耐久歩行できるかどうか。


 できるわけがない。



 そういうわけで今回は馬を借りて、鞍前に彼女を横座りさせ


 自分が後ろから手綱を取る体勢で行くことにした。


 重蔵が重いので騎行はゆっくりである。



 それでも人が歩くよりは早いだろう


 メシ食って、昼過ぎに出発、隣町には多分、暮れる前に着く


 それでも数時間、また密着距離で二人きり




 昨晩、宿に連れ込んで、話をしようと思ったら


 自己紹介の段階で互いに日本人であること発覚、話し合いにならなくなり


 朝は起きた直後に宿から叩き出され


 必需品の買い物に依頼受注にとその後も忙しく



 落ち着いて話せる時間を、やっととれた




 しかし!


 重蔵はこんな美少女と騎乗で密着した状態で冷静に話し合えるほど


 女慣れしていない!



 いきなり距離を詰めようとしてもダメだよな


 奴隷の首輪の機能を使ってしまったりしたし


 まずは普通に会話して、普通に親しくなるのを目指すべき……



 やって終わりの商売女では無い


 これからずっと一緒に暮らすつもりの相手だ


 しかし初対面で赤の他人であり


 同時に奴隷であって、好き放題しても良い、その権利があり


 だが中身が日本人ならそのハードルが高い……


 この世界的に当たり前の行為をしても日本人的にはアウトである可能性が



 どう話せば良いのかサッパリわからん




§   §   §




 朝に暴れてしまった時は、このまま捨てられるかと思った明だったが。


 どうもその後の行動を見てると捨てる気があるのかないのかわからない。



 自分に、あんな魔法みたいな力があったことも初めて知ったし


 その後、奴隷の首輪で強制中断させられた衝撃も初体験



 重蔵の方は、奴隷の首輪の機能を使ってしまった……って点でも


 結構、後悔しており、その件について触れるべきか否か迷っていたが



 明の方は実はその件はあまり気にしていない


 奴隷の首輪の機能を使って、強制的に命令され、動かされるって経験を


 およそ一年にわたって、そうされるのが当たり前になるまで


 体に染み込まされて馴らされて、そうされても何も感じなくなるまで


 既に、彼女は調教されていたのだ



 それまでの自我を破壊し、新しい女奴隷としての自我を与えられている


 既に洗脳済みなんだな、実は



 日本の記憶など、はるか遠く、夢のように微かにしか覚えていない……




 とりあえず女奴隷的な思考としては


 良いご主人様に出会って大切にしてもらえる……ってのが最高である


 ただの消耗品みたいな扱いをされるのが最悪である



 大切にしてもらうには


 まず基本的に、大意には逆らわない、従順に、おとなしく……


 最初は全面肯定、何もかも受け入れて、甘やかし……


 その状態に慣れたところで小さな要求をする



 最初の要求は小さく、ほとんど無意味で、どうでも良いような内容


 ほんとにどうでもいいのだ


 右の物を左にしてくれ程度の別にこちらも望んでもいないような要求で



 重要なのは、小さくても些事でもどうでもよいことでも


 こちらのいうことを聞いてくれたという実績であり


 その一歩が築ければ、そこから少しずつ内容を拡大していき……



 妾になった場合、奴隷女としてどう行動すれば幸せになれるか


 教育係の遣手婆やりてばばあに教わった内容を思い出す


 あのお婆さんは親切な人だった……


 処女確認の時の容赦ない手つきは勘弁してほしかったけど……




 しかしまずは従順に、という初手を外してしまった


 この失敗をどう繕えば良いのか


 わからない





 二人とも会話のきっかけをつかめないまま、無言の騎行は続く。



 乗馬ってのは座った状態のように見えるが


 実際には、脚を絞め、腰を固め、背筋を伸ばし……


 慣れてないとかなり体力を使う



 そうはいっても重蔵の方は平気であるのだが



 横座りの不自然で窮屈な姿勢で、馬の上に座り続ける状態に



 明の方はすぐに疲れて来た




 疲れて体力がなくなると、自制心とかも弱くなる


 気を使って自分を取り繕うこともできなくなる




 本当は、まず、こう、女らしく、なよやかに


 いかにも悪いことしてしまってごめんなさいと言ってるようにみせかけつつ


 すぐに、いや君は悪くないよと言ってもらえる誘いを含んだ


 巧みな謝罪から入って、うまく会話を……とか




 そういうこと考える余裕もすぐに失われてきた



 明は、高級娼婦、または貴族向けの妾を想定して訓練されてきたため


 つまり室内向け高級女奴隷だったため


 肉体労働の訓練は、ほとんどしていない



 多分、同年代の女性と比べても体力は無いほうだ


 お嬢様ぽい見かけにあわせて、お嬢様教育をされていた明


 奴隷と言っても、まあ、悪い待遇では無かったわけだな




 しかし、だから体力がなく


 疲れて、あまり考えず


 口からぽろりと零れてしまった一言は




「……ご主人様、お金、ないの?」





 自分のような高級奴隷を買うにしては


 どう考えてもおかしな点が多々あったのだ。



 まず身なりがおかしい、庶民的だ。


 体格とか顔だちも、どう見ても戦士か傭兵か。


 絶対に貴族には見えないし、騎士とも思えない。



 泊まった宿もおかしい。


 一応、個室ではあったが、せいぜいビジネスホテルって程度の


 奴隷商で自分が住んでた部屋より質素だった



 さらにその後、朝市の屋台で朝食を済ませるとか


 屋台のおばちゃんに服装のことで怒られるとか


 慌てて服屋に走るも、その服屋もまるっきり庶民向けだったとか





 痛いところを突かれた重蔵、一瞬、返事をためらう



「あー……その、だな……」



 ためらう時点で答えを言っている。


 つまり無いのだ。


 無いのになんで自分を買えたのか?



 きっと答えは



「……衝動買い?」



 そういう表現は、この世界には無かった。


 ショッピング文化などが発生するほどに豊かな世界では無い。


 いかにも日本人らしい的確な表現に、さらに何も言えなくなる重蔵。




 しかし衝動買いで買ってしまえるとは


 見た目によらず実は金持ち、という線は多分無いから……


 だったら



「冒険者って、すごく儲かる……こともあるってこと?」



 その通りである。


 コンスタントに安定した収入は無いものの。


 一発当てれば、すごく儲かる……こともあるのだ。




「まあな。ほとんど運だが……一発当てられるってこともあるんだ。」



 ちょっと得意気に言ってしまった。



 しかし明の方は、重蔵の評価をさらに下方修正する。




 冒険者になるのは、仕方ないとしよう。


 身寄りもない異世界人なんだから他に生きる道が無かったのだろう。


 一発当てて大金を得た……それができるほどの実力、これも良い。



 しかし


 その折角の大金で


 高級女奴隷を衝動買いしてしまうってのは……!



 計画性が無いにも程があるだろう




 面白いやつではある


 友達だったら、友達がこんなことしたら


 何考えてんだお前、ばっかでーって笑い飛ばすことも出来ただろうが



 しかし自分がこれから頼りにして生きねばならない人が


 こんなんでは正直、先行き不安だ


 この調子であちこちで浪費されてはたまらない




 この性格は断固! 修正せねばならない!



 固く決意する明だが、その内心は全く見せない。




 まずはある程度仲良くならねば話にならない……


 自慢話をニコニコしながら聞くってのは必須テクの一つだって


 教育係の師匠婆さんも言ってたし




「凄いのね……どんな冒険だったのか、聞いても良い?」



 美少女に笑顔でこんなこと言われたら何でも話すわ!


 完全に乗せられる重蔵。



「なに、よくある迷宮探索でな。新フロア到達で、宝箱独占できたんだよ。」


 軽く言ってるが


 実はこれ相当すごい。



 冒険者の夢の一つとさえ言われる。



 ここから少し離れた場所にある「迷宮都市レシム」で


 はるか昔から未攻略の世界最大の迷宮と言われるダンジョンにおいて


 これまで最深部が二十四階だったのを、二十五階に到達



 それを成し遂げた、近年では最も有名な冒険者の一人が重蔵であるのだ


 もちろん一人で行ったわけじゃ無い


 そのために結成されたチームを組んでいった



 そういうチームに招集されるくらいの実力が元からあるのだ



 しかし、箱入り奴隷の明には良く分からない。



 迷宮があるんだー


 大儲けとかできるんだー


 くらいにしか思わない



 ほめて、良い気分にさせてやるべきなのだろうが


 知識が無さすぎて、どうほめればよいのかよく分からない



 多分、相当すごいのではないかと思う


 だって自分を一括で衝動買いできるくらい儲かったわけだし


 しかし自分は高かったのだろうとは思っていても



 箱入り奴隷の明は世間の相場も良く分からない



 具体的にどう凄いのか。金額的にも良く分かっていないのだ



 それに考えてみるとおかしい


 仮に彼がすごい冒険者だったとして



「どうして……コボルト討伐なの? コボルトって強いの?」



 明の前の世界での記憶によると大抵のファンタジーで


 コボルトとかはゴブリンにも並ぶ雑魚の中の雑魚


 凄腕の冒険者がいまさら挑むような相手なのだろうか



 それともこの世界では話が違ってコボルトが強かったりするのだろうか



 痛いところを突かれて焦る重蔵。



「いや、弱いよ、弱いんだけどね……」

「……そんなに、お金が無いの?」

「ははは。そんなことないさ。」

「じゃあどうして……」

「ほら! 君さ、魔法の素質あるから、そう、君の練習のため!」

「使い方分からないんだけど。」

「あーそういえばそうだな。いや大丈夫、俺も昔ね、せっかく異世界来たんだから格好よく魔法使いたいなあって思って、基本講習受けたことあるから。だから基本呪文くらいは一応知ってる、君ならきっとそれ教えたらすぐに……」



 明らかにごまかしてる、今、思いついたことを言ってるだけだろう


 しかしここは乗っておくか。


「私のためですか……ありがとうございます、ご主人様。」



 丁寧にお礼をしたのだが何か気に入らなかったらしい。


 重蔵は不満そうな表情をしている。



「ご主人様……なにか?」

「あー……口調だけどさ、君……」

「君でなくて、アキラと呼び捨てにしてください。」

「分かった、明ね、うん、それはいいんだけど。」

「はい。」

「敬語は、やめてくれ。」

「はあ……」



 いうほど丁寧な敬語ではなかったと思うのだが。


 箱入りお嬢様奴隷だった明は上流階級向け教育を受けていたため、本来ならばもっと徹底した、この世界の貴族向け丁寧語まで使いこなせるし、口調はデフォで敬語であるはずなのだが。


 わずか一日の間に境遇が激変し色々とありすぎて、疲れもしたし混乱もして、口調が無意識に崩れていたようだ。


 それでも日本にいた頃の口調とは程遠い。むしろこの世界に新たに生まれ落ちた無防備な女児のような口調になっていたわけだが。


 しかし会話の流れで、きちんとお礼を言おうと思った瞬間、敬語に戻った。これも無意識にやったことだが、しかし今の彼女にとってはこちらの方が自然。そうであるように徹底的に調教訓練を受けたのだ。




 重蔵としては、さっきまでの無防備で飾りのない口調の方が好ましい。自分に親しみを持っているように感じるし、その方が彼女にとっても無理なく自然な本来の口調なのだろうとも思ったのだが。


 実際にはそうではない。明の今の素はむしろ敬語の方である。無意識にならともかく意識して話すとなると敬語でなくする方が困難である。




 ここはきっと一つの分岐点だった。



 敬語で話すのが当然である女奴隷、という新しい自我を、洗脳に近い奴隷教育の結果、今の明は獲得し、その状態を維持するならそのまま敬語で話すべきで、そしてその状態を重蔵がそのまま肯定していれば……


 多分、ごく簡単に、男女関係に持ち込めた。


 女奴隷としてそれが当然であると明は思っていたのだから。



 敬語で話さず、別の話し方をしろ、というのは、女奴隷として重蔵に仕えるのではなく別の関係を構築しようとしてるのと同じことで、そういうことなら明も、教わった通りの女奴隷として重蔵に接する必要を感じない。



 奴隷として自分に仕えるのではなくて


 対等の人間関係を求めてしまった時点で


 重蔵は、性的な意味での目標達成から遠ざかってしまった。



 なんでもやれる女奴隷扱いとか、やっぱ実際にやるのは日本人的なメンタルとして不可能だったってことだな。ちょっと情けないが仕方ない。


 重蔵は日本にいたのは中学生までで、しかも柔道ばかりやってるスポーツ系男子。女友達などはおらず、また男同士でバカやってる方が圧倒的に楽しいって年頃だった。


 この世界に落ちて来て一番、つらかったのは、家族がいないことと並んで、普通に対等に話せる友達がいなくなってしまったことだ。


 こっちに来て数年、それなりに人間関係を築いたが、いずれも仕事仲間程度で、友人といえるような人間は少ない。


 基本が日本人である重蔵はこの世界の中世風価値観を持つ人々と考え方が違い過ぎる。共通する土台が無いのでちょっとした会話でも違和感が先に立つ。これでは何も考えず親しくなるってわけにいかない。


 だから重蔵が本当に一番、望んでいたのは、友人のような家族のような、自然に何も考えず話せる相手であって、それにはまず最低限、共通する価値観を持つ日本人であることが必要。そこに来た明に求めた関係も、結局は、それであった。


 失ってしまった日本の友人たちの代わりに


 気軽に話せる友人が、何よりも欲しかった。




 さて明の方も、少し困っていた。


 基本としてはご主人様の言うとおりにするべきであるのだが。


 女奴隷として仕える訓練ばかりしてきたので



 そうでない状態でどう接すればよいのかわからない。



 なるべく自然に普通に話せ、敬語で距離をとるなと言いたいのだろうが。


 しかしそれを言い出すと……



 最も自然な元の口調となると日本にいた頃の話し方だろうか。


 だが今の自分は日本のことなど夢のような曖昧な記憶で。


 実感としては新たにこの世界に生まれ変わった、みたいな……



 そうするほうが無理で不自然で、やりにくい



 女奴隷として訓練された口調こそ今の彼女にとって最も自然であった。



 だが主人の言いつけを優先せねばならない……


 迷った末に明は、あいまいな口調で



「うん。」



 と一言だけ答えた。


 俯いて伏し目がちになった顔。長い睫毛に細く繊細な鼻筋が。


 すっごい可愛かった。



 なおその後、休憩なしの騎行に疲れ果てた明が一時、意識を失い。


 大慌てで重蔵が下ろして水とか飲ませて休ませて。


 休憩後、急いで街に向かうことになり、ほとんど会話する余裕が無くなってしまった。







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