表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このゲーム、どうやって遊ぶ?  作者: 艶美あゆ
『ドラゴンクエスト』、どうやって遊ぶ?
7/12

7本目 『ドラゴンクエスト』、どうやって遊ぶ?(5)



「や、やったスよ~!!」


思わず店長とハイタッチ。


「ファミコン版のシビアなバランスでよくクリアできたな、上手い!」


店長からお褒めの言葉を頂く。


「あ、ありがとうっス。店長のアドバイスのおかげっスよー!自分一人じゃクリアできなかったかも」

「そんなことはないだろー、アンタは勇者になりきってたし一人でもクリアできたと思うよ」


店長からそう言われた私はほんの少しだけ照れたかもしれない。

すぐに顔をテレビ画面に向ける。


すると画面の中の勇者はラダトーム城に帰還し王様や世界中の人からの賞賛を浴びている。


【いいえ。 わたしの おさめる くにが あるなら それは わたしじしんで さがしたいのです】


ドラゴンクエスト1の名言の一つであり、勇者が話す唯一の場面である。


「ここはドラクエでも類を見ないまさかの勇者が喋るシーンだな。勇者はこの後、旅立つ、と」


こうして勇者は再びローラ姫と共にラダトームから旅立ち、やがて子孫を残し物語はドラゴンクエストⅡに続くのだ。


"勇者まい"は自身が治める国を探すために新たな旅に出た。


"勇者まい"と自分自身を重ねてみる。


―――自分ならどうするだろう?

きっと、ラダトームに居座って適当にニートでもやるのかもしれない。


―――ならば現実の自分なら?

きっと、明日以降も就職活動を行い続け、将来の進路を決めないといけない。

それでも決まらなかったらニートなのかもしれないが。


簡素なエンディングとあっという間に終わるスタッフロール。


しかし、世界を救いクリアしたという達成感は確かにある。

ドラクエは本当に素晴らしい。

まるで自分が勇者に慣れたような感覚がある。


ドラゴンクエストの世界でローラ姫を救出し竜王を倒して世界を救った"勇者まい"である。

就職活動という身で久しぶりに現実を忘れゲームに没頭することができた。

それもこの『ドランゴンクエストⅠ』と―――このお店、『遊戯大館』のおかげ。

非常に充実した一日だった。同時に明日からまた就職活動と貧乏生活が続くとなるとげんなりする。


「(このお店で働けたら最高だろうなぁ……)」


考えてみたらゲームが好きな自分にとってこのお店は天国だ。

周囲を見渡せばレトロゲームから最新のゲームまで揃う豊富なゲームタイトル。

それと同じくレトロなものから最新ゲーム機まで試遊できる環境。

さらに贅沢の骨頂、駄菓子まで販売されている。


「(明日からまた就職活動、嫌だなぁ……)」


実際、就職活動が本格化する前まではかなりゲーム三昧な日々で最近のゲームには詳しく、おやつを食べながら必ずクリアしていたほうだ。

まあ、自分で考えてもかなり自堕落なダメダメな生活をしていたわけである。



「いやー、こんな年になっているのにゲームに夢中になってしまったっス。今日は帰ります」


そういって店長に挨拶して店を出ようとした。


その時だった。


―――もし、わしの味方になれば世界の半分を勇者にやろう。


自分の背中から聞こえる声。

竜王のセリフだ。ゲームではない、現実の世界で聞こえた。そう、確かに聞こえた。

思わず振り返る。そこに居たのは店長―――遊戯太造。


「えーと、まいちゃんだっけ?その恰好、もしかして今、就職活動中?」


リクルートスーツを着込んだ私を見て何かに気が付いたのか?そう、現時点で就職先が決まっていないことに!


「まあ、そうなんスけど……」

「もし、良かったらだけど。ウチの店こう見えて今アルバイト募集してるんだよね~。もちろん優秀ならその後に正社員登用するのもあり」

「へ?」

「ゲームの腕も確かだし、何よりもゲームが好きそうだし、どう?ウチの店で働いてみない?味方になればウチの店のゲーム、半分ぐらい自由にプレイしてもいいよ、さっきのセリフはそういう意味」

「……」


ほんの少し、1分にも満たない程度の時間黙り込む。


ドラクエ1の勇者はこの問いに対して断った。

更にラダトーム王からの王にならないか?の誘いも断っている。


―――だから、私の答えは決まっている。


「いいえ。もし私の治める国があるならそれは私自身でさがしたいのです」


ドラクエ1の勇者が言った名言をそのまま発する。

それだけ言い放ち、私はスタスタと出口に向かい歩きはじめる。


「そっかー、残念」


残念がる店長の声が聞こえる。

そう、これでいい。私は勇者。


運命とは人に決められるものではない。

運命とは自分で切り開いていくべきものなのだ。


出口のドアで歩みを止め、振り返り両手を広げ大声で叫ぶ。


「半分なんていわず全部下さいよ!」


自分の声が店内に響き渡っていく。


「この店のゲーム、全部自由にプレイするっスよー!」


「……」

「……」

「……はぁ??」

店長は何が何だかわかっていないようだ。


だから、自分は更に言い放つ。

「私は、自分の好きなゲームをやり続けたい!だから、この店のゲーム全てを遊びつくすっス。そのために自分は明日からこのお店のお世話になるっスよ~♪」


―――それが、自分自身で探した答え。


「あー、そういうこと」


頭をポリポリとかきながらようやく店長の理解も追いついたようだ。


「とりあえず、アルバイトからで時給は―――」


店長の言葉を途中で遮り、自分が挟む。


「時給は最低時給で良いっス!その代わり住み込み3食ごはん付きでよろしくっス♪」

「え!住み込み!?食事つき???」

「いやー、自分、就職先が決まっていないだけじゃなく生活費使いこんで家賃滞納で賃貸も追い出されそうなんスよねー!」

「……あ、そうなんだ。えーと……」

「んじゃ、決まりっスね!」


店長の返答を待たず自分は了承されたことにした(笑)


「まあ、仕方ないか~」


半ば強引で呆れていた店長だが、しぶしぶ了承してくれた。この人、意外に良い人だ。

店長の人柄が良いからこのお店にはゲーム好きが集まってくるのかもしれない。

これで就職活動はしなくて良い。明日からまたゲーム三昧だ。

自分の人生は派手に決まった!(笑)


「自分、本名は矢鱈羽やたらう まいっス!それじゃ明日からよろしく、てんちょ♪」


これが自分とてんちょと―――ゲーム好きが集う遊び場、『遊戯大館』との出会いなのである。



ここは遊戯大館。

古今東西様々なゲームを取り揃えて今日も皆様のお越しをお待ちしております。

笑いあり、楽しみありのゲームを皆様もプレイしてみませんか?


―――あなたなら、ドラゴンクエストⅠ、どうやって遊ぶ?


【このゲーム、どうやって遊ぶ? ドラゴンクエストⅠ編 (完)】


今回でようやくドラゴンクエストⅠ編終了です。

アルバイトとして働くことになった矢鱈羽 舞は今後もちょくちょく登場予定です。

次回はちょっと間隔をあけて30周年を迎えるアクションゲームを題材にしたお話です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ