4本目 『ドラゴンクエスト』、どうやって遊ぶ?(2)
時は流れ、そんな私も今ではリクルートスーツに身を包む就活中の女子大生。
肩下ぐらいの黒髪に黒ぶち眼鏡。勇者になるはずが、いわゆる腐女子へとなり下がった自分。
幼き頃の"ドラゴンクエスト体験"が講じてゲーム好きな自分はバイトもせずにゲームで遊んでばかり。
正確にはバイトをしてもゲームが気になり、仕事に身が入らずクビになったといえる。
親にも呆れられて仕送りは数ヶ月前にストップ。
お金が無いため家賃や水道、電気といったライフラインも滞納して、来月には追い出される可能性あり。
就活もうまくいかず数十社という企業にエントリーシートを提出し、面接まで進んでも結果はすべて不合格。
もはや、半分自業自得なこんな状況に嫌気がさし、気がつけば私は『遊戯大館』に立ち寄っていた。
街の外れにある少し古びたゲームショップ。
前々から存在は知っていたもののなかなか入りにくい雰囲気で来店したのは今日が初めて。
お客さんは少なく、私の他にはお客さんは数人程度。
奥にはやる気のない感じであくびばかりしている店長らしき人物がいた。
このお店、よく潰れないものである。
「太造―!また来るからなっ」
「おう、学。またゲームしに来いやw」
小学生と思しき男の子が走りながら店を後にする。
それを見送る店長と思われる男。やりとりから常連客なのだろうか?
こういうお店でも常連客は着く者なんだなとふと思う。
そんな私がこのお店に入ることになったきっかけは、今日も面接がうまくいかず不合格確定な状況下において就活活動を投げ出したなくなったことにある。
手ごたえの無い面接を終えてトボトボと帰宅をしていたとき、ふと外から思い出のゲーム『ドラゴンクエスト』が試遊台にセットされているのが見えた。
無意識のうちに店内に入り、試遊台の前に座り込む。
子供の頃にやった『ドラゴンクエストⅠ・Ⅱ』を思い出し、楽しみにドラクエ1のプレイを開始する。
―――何かが違う。
それもそのはず。
試遊台にセットされていたのは、かつてスーファミで発売されていた思い出の『ドラゴンクエストⅠ・Ⅱ』ではない。
今、私の目の前にあるのは、ファミコン版の『ドラゴンクエストⅠ』なのである。
「え、何スか!これ!!」
思わず声に出る。それもそのはず。
自分の名前である"まい"を入力し終えた瞬間にいきなり王様の言葉で唐突に始まったのだ。
しかも……だ。
「カニ歩きの勇者って滑稽っス」
"勇者まい"はいったい誰と話しているのだろうか?
いや、会話の流れからおそらく王様と話しているに違いない。
しかし、"勇者まい"はずっと正面を向いていて王様に尻を向けている状態なのである。
そんな失礼な勇者の態度に怒ることも無く王様はとっとと竜王を倒して世界を救えと簡単に言い放ち"勇者まい"は王様に尻を向けたまま旅立つことになる。
「ファミコンだから正面のグラフィックしかないんスかね~」
ちょっと苦笑い。
ファミコンだからグラフィックがしょぼいのはある程度覚悟していたが、まさか後姿のグラフィックが無いとは驚いてしまう。
この勇者、どこまでいってもカニ歩きで正面しか向かないのである。この姿は近年のゲームに慣れた者からすれば違和感しかない(笑)
現代のゲームであれば世界観の説明などもう少し詳しい説明があっても良いものだと思う。
だが、このファミコン版ドラゴンクエストはそんな説明はない。
この時代のゲームとは要領の都合からなのか『詳しくは説明書でね』的なノリのものが多かったのだが、"勇者まい"がそれに気が付く術はない。
とにもかくにも旅立つことになった"勇者まい"に壮絶な苦難が続く。
村人全員がカニ歩き。会話をするのに"はなす"コマンドから東西南北を選ぶ。扉を開けるのにいちいち"とびら"コマンドを選択。そのほかに"かいだん"だの"しらべる"などかなり面倒くさい。
お世辞にも新設設計とは言えない仕様なのだ。
私の知っているスーファミ版ドラクエ1ではこんな面倒な仕様ではなかったはずである。
「もう、ツッコミたいとこばっかりじゃないっスかーーー!!!」
面倒な仕様だらけでなかなか進まないファミコン版ドラクエ1に苛立ちを覚え立ち上がる。
ようやく外に出たと思ったら最初のスライムで互角の戦い。
次に出会ったドラキーにフルボッコにされてあっという間にゲームオーバー。
平成生まれの自分にファミコンのRPGは正直辛いかもしれない。
「こんなのやってられないっスよ!」
まさかファミコン版ドラクエ1がこんなにも面倒なものだったとは。
私がやったスーファミ版の思い出が砕け散っていくような気分だった。
「もうかーえろ、こんなクソゲーやってられないッスね!」
今日は散々だった。面接はうまくいかないし、思い出のドラクエはクソゲーだったし。思い出補正とは恐ろしいものである。
クソゲーのドラクエの電源を切って店を出ようとした時だった。
「もう帰るのか?」
ふいに声をかけられる。さきほどの店長らしき人だ。
その姿はもじゃもじゃ頭にバンダナ。無精ひげに眼鏡。チェックのシャツにジーンズ。
遊戯大館のロゴが入ったオレンジのエプロン着用。正直秋葉原で歩いていそうなオタク風のおっさんにしか見えない。
「あ、そうですけど……」
「まあ座れって。ファミコン版ドラゴンクエスト1はクソゲーじゃないってことを教えてあげるからさ」
「いや、帰りますって」
「まあまあ、いいからいいから」
無理やり肩を掴まれ座らされる。
これが、私―――矢鱈羽 舞と遊戯大館の店長、遊戯 太造との出会いだったである。
この出会いが自分の人生を大きく変えることになるとはこの時の矢鱈羽 舞はまだ知らない―――。